こーちゃんの黒い羽に包まれて、やってきたそこはさっきまでと同じ森の中やけど何でか背後で波の音が聞こえます。
こんな森の中でまさかなーって思いながらも振り返ってみたらとっても雄大な海が広がっていました。
真樹緒です。
こーちゃんのイリュージョンに何だかおいてけぼりですこんにちは…!



波が崖にあたってざっぱーん…



明智の光秀さんのお屋敷って海の近くにあったんやねえ。
けっこう長いことお世話になってたけど全然気つかんかったよ。
明智の光秀さんのお屋敷って崖の上に建ってたんやねえ。
けっこう長いことお世話になってたけど全然気つかんかったよ。


……
………


まじで…!


ええ、ほんまにまじで。
俺こんなところでどうしたらええのん。
一人でどうしたらええのん。
海をバックに俺はどうしたらええのん…!


「ぬん…」


そりゃ、こーちゃんは逃げてってゆうてくれたけど。
危ないからって俺を逃がしてくれたけど。
俺的にはこーちゃんを置いて逃げれやんってゆうか。
せっかく会えたのにもう離れたくないってゆうか。
お嫁さんをほってお婿さんだけが逃げるとか今後のふうふせいかつに問題がのこっちゃうってゆうか。


……
………


俺やっぱりこーちゃんと一緒におりたかったな…!
ぬーん!



ガサ


「ぬ?」


ガサ、ガサ、


「………ぬ?」


ガサガサ
ガサガサ



「…………ぬん…」


おれが寂しさとかやるせなさにうちひしがれてたら目の前の草むらががさがさって。
うずくまってたら草むらが生き物みたいにがさがさって。
揺れたん。
ちょう揺れたん。


「だれか、おるん…?」


ええー。
何やろう。
何なんやろう。
がさがさ揺れてるんは一体何やろう。


「こーちゃん…?」


こーちゃんがあの蘭丸君のお母さんから逃げ切って来てくれたんやろうか。
こーちゃんは俺のお嫁さんやけど伝説のお忍びさんやし、多分蘭丸君のお母さんから逃げるんかって大丈夫やと思うん。
…、病み上がりはしんぱいやけど。


でも、でもやで?
もしこーちゃんやったらあんな風にガサガサしやんでもしゅたっと俺の所にやってきてくれると思わん?
すぐにぎゅってしてくれると思わん?


まさか、また森のくまさんやろうか。
ほら、おれずーっと前、まだ政宗様とかこじゅさんに出会う前に森でくまさんに会うたやん?
森のくまさん。
そんでもって森で追いかけられたやん?
森のくまさん。
よみがえるかけっこのおもいで…!


ぬん…


どうしよう。
俺どうしよう。


俺がおろおろ迷ってる間も、くさむらはがさがさ動いて音が大きくなる。
何が出て来るんやろうってどきどきしながら俺は目をきょろきょろ。
いつでも走りだせるように足をふんばって。


大丈夫、大丈夫やもん。
俺にげあしは早いもん。
くま出てきても逃げるもん。
もしこーちゃんが出てきたらとびついていくけど!
ぎゅってしてもらうけど!


ガサガサ


「どきどき…」


ガサガサ


どきどき…



ガサッ!



「!!」
「おや。」


がさがさ揺れてたくさむらの音が一番大きくなってガサっと揺れて。
しーんってなった後に現れたのは。


「ぬ?」
「…やはりおりましたか。」


屋敷があの有様でしたのでもしやと思っていたのですが。
予想通りと申しますか、あなたらしいと申しますか。
あの二人が襲ってくるまでに兆候はあったでしょうに。


「あああー!!!」


明智の光秀さん!
あれは明智の光秀さん!
お仕事に行ったはずの明智の光秀さん!
そんなお久しぶりな明智の光秀さんがくさむらからひょっこり!


「明智の光秀さん…」


ひょっこり出て来て俺の傍に来て。
ちょっと困った様に笑ってから俺の頭を撫でてくれた。

始めはぽんぽんぽん。
次はくしゃくしゃ。
最後に耳の後ろをゆうるくくすぐって離れて行く。


ぬん!
気持ちいい!


「真樹緒。」
「はい?」
「無事ですか。」
「ぬ…?」


何や久しぶりに会ってちょっぴり恥ずかしくって撫でられた頭をさすってたら明智の光秀さんが俺を覗きこんだ。


うん?
なに?
ぶじ?


「…なにが?」
「…あなたが、」
「おれ?」


んと、えっと、…ぬん。
やぁやぁ俺は全然ぶじやけど。
さっきから自分がおるとこが分からんくって途方に暮れてたけど体は全然大丈夫やけど。

心配してくれてたん?
でも俺大丈夫やで!
あ、けど明智の光秀さんがお仕事行ってからお城に蘭丸君って子がやってきてお屋敷燃やされてしまって…


「は…!!」
「どうしました。」


どこか痛みますか。


「ううん、体は大丈夫大丈夫。」


へいき。
ありがと。
へいきなんやけど明智の光秀さん、ちょっとお屋敷大変なことになってるよ!


「あのね、蘭丸君ってゆう男の子がお屋敷燃やしてもうたん。」


矢に火をつけてしゅばばばば!って射ってきたんやで。
俺もうびっくりして。
お屋敷は燃えるし蘭丸君はなんや俺らを追いかけて来るし、蘭丸君のお母さんもちょっと怖いし。



……
………、



「…は?
「森でバンバンバンってね、」
「……真樹緒、」
「銃で狙われちゃって。」
…真樹緒。
「今こーちゃんが頑張ってるんやけど、」
真樹緒。
「ぬ?」


「…蘭丸の、誰ですって。」
「ぬん?」


やぁ蘭丸君のお母さん。
ほら、せくしーな着物の女の人。
太ももにちょうちょの絵がちらっと見える女の人。
森の中逃げてたら両手に銃持ってお忍びこーちゃんも何のその、ものすごい速さで俺らおいかけられちゃって。


…帰蝶ですか。
「蘭丸君のお母さんちがうん?」


俺もそうなったらちょっと若いかな―って思ったけど。
でも二人一緒にお屋敷に来たみたいやし。
あ、明智の光秀さんと知り合いっぽかったよ。
そんでもって怒ってた感じよその、帰蝶?さん。
もしかして明智の光秀さん何かやってもうたん?
明智の光秀さんの知り合いやったら、蘭丸君のお母さん違うん?


「いえ…、」


俺が見上げたら明智の光秀さんが何か考えながらまた俺の頭をぽん。
ぽんぽんぽん。
何回も何回もぽんぽんして今度はおかしそうに笑う。
くっくっくっ、ちっちゃく肩揺らして笑う。


「なるほど、帰蝶が蘭丸の、」


ああ、そうですか。
それはそれは。
何て面白い。


「明智の光秀さん?」


どうしたん。
なあ、なあ、おれ聞いたんやけど。
蘭丸君のお母さん?と何かあったんかって聞いたんやけど!
文句があるなら明智の光秀さんにゆってちょうだいって怒ってたよ蘭丸君のお母さん!


「こころあたりある?」
「そうですねぇ、」


あえて言うならばお母さんにと言うよりもお父さんと確執がありましてね。


「へ?」


お父さん?
ええ、お父さんです。


「その方には大変お世話になったのですが、私がその方を裏切ってしまったのですよ。」


帰蝶や蘭丸は、それはそれはお父上の事を好いておりましたから。
私への怒りもひとしおでしょう。


「ぬ?うらぎったん?」
「はい。」
「明智の光秀さんが?」
「私が。」



……
…………



「な、な、何してるんー!」


そんなん怒るに決まってるやんもうー!
お母さんも蘭丸君も怒るに決まってるやんー!

もー!
明智の光秀さん、もー!
そんな面白そうに俺の頭を撫でてる場合やないねんで!
お世話になった人にそんな事したら怒られるん決まってるんやで!


「中々お父様も楽しげだったのですが。」
お、お、お、お父さん…!


そういう問題やないん!
ごめんなさい蘭丸君のお父さん。
明智の光秀さんがごめんなさい。
俺のお母さんがごめんなさい。
でも近江のお母さんいつも厳しいけどたまにちょっぴり優しいんやで!



「私の念願のためですよ。」
よのなかには我慢せんとあかんこともあるんやで。


俺でも怒るよ、それ。
せっかくこんなに仲良くなったのに突然明智の光秀さんが冷たくなるって事やろう?
急に近江のお母さんがお母さんや無くなるってことやろう?
それはおこるよ!


「おや、あなたも。」
「うい。」
「…ならば、」
「ぬ?」


「ならば私がここであなたの首を取ろうとするような事があればどうしますか。」


あなたを裏切りこの場で。
そうこの場であなたの首を刈らんと鎌を薙ぎればあなたはどうするのでしょう。


「おれ?」
「ええ、」


あなたが言った通りであればどのように怒るのでしょうか。
それとも悲愴に打ちひしがれるのでしょうか。
それを思うのに以前の様な恍惚がせり上がる事は無い。
ささやかな興味。
それこそ取るに足らない興味です。


けれど尋ねてみたい。
あなたは、真樹緒はその時にどんな顔で私を見ているのか。



「ぬー、そうやねぇ…」



突然そんな事聞かれてもやあ、よう分からんけど。
明智の光秀さんがなー。
うーん。


「でもやぁ、明智の光秀さん。」
「はい、」
「明智の光秀さんはそんな事俺にせえへんやろう?」


言ったら明智の光秀さんがびっくりした様に目をぱちぱち。
息をのんで俺を見る。


「ぬん…」


やあでも、もし。
もし、まんがいちそんな事があったら、ぬん。
その時考える。
その時考えてどうにかする。
やから今は分からへんよ。


「真樹緒、」
「でも俺は明智の光秀さんとお別れするんは嫌やなー…」


せっかく仲良くなれたのに。
せっかく近江のお母さんやのに。


おれ、
おれ、明智の光秀さんすきやのに。


「真樹緒。」
「ぬ?」


ちょっぴり困った様に見上げたら明智の光秀さんが笑ってた。
笑いながら溜息をはいて小さく首ふるん。


「明智の光秀さん?」
「…あなたにかかるとどうしてこうも。」
「う?なに?」


それでも。
それがあなたで。
真樹緒で。

どうしても私はあなたがあなたでいる事が喜ばしく、安堵と充実に満たされる。
温かくなどなった事など無い所がやけに熱くて苦しい程に。


「真樹緒。」
「はい?」
「あなたには申し訳ない事をしました。」
「…へ?」
「大事無く、何よりです。」
「ぬん、」


明智の光秀さんがしゃがんで俺のほっぺたを撫でた。
優しく優しく撫でてくれた。
それから腕を背中に回して、ちょっとまよって、それでもそのままぎゅってしてくれる。

うーんと、ぎゅってゆうよりふわっと?っていうかんじ。
優しく包まれるかんじ。
明智の光秀さんの右腕につつまれて、俺は明智の光秀さんとこんなにくっついた事がなかったからびっくりで、でも嬉しくて。
すごく近くなった明智の光秀さんのほっぺたに自分のんをくっつけた。
すり、って寄って行ったらちっちゃい溜息と一緒に「甘ったれですねえ」とかゆわれちゃったんだけどー。
俺は何だか幸せやから別にもうそれでいいってゆうか!


「あれ?」
「どうしました。」
「明智の光秀さん、腕に怪我してるよ。」


腕ってゆうか肩?
肩のとこ巻いてるサラシが赤いん。
じわじわ赤くなってるってゆうか。
そう言えば鎌も一個無いし…
この怪我、


「…大した事はありません。」
「でも、」
「真樹緒。」


明智の光秀さんが立ち上がって俺の手を引いた。
さっきみたいに笑ってなくて、ちょっと真面目な顔で俺を呼ぶ。


「?はい?」
「いいですか、よくお聞きなさい。」
「?はい。」


ここは織田の手に落ちました。
今ここにいるのがとても危険なのはお分かりでしょう。
帰蝶と蘭丸に見つかると厄介です。
どうやらあなたの忍やあのお嬢さんが足止めなさっている様ですが、それでも。


「逃げますよ。」


私一人であの二人のお相手は少々肩の荷が重い。
近江を離れて甲斐まで行けば追ってはこられないはず。
甲斐にはお知り合いがいるのでしょう?
ならばそこまで。


「ついてきなさい。」
「え、でも、」


まだこーちゃんも、かすがちゃんも、さっちゃんも森におるよ。
俺はこーちゃんがここまで逃がしてくれたけど、まだ三人とも蘭丸君やそのお母さんと戦ってるはずなん。
大丈夫すぐ撒いてくるよってさっちゃんは爽やかな笑顔で言ってくれたけどまだ会えてへんし。
俺、ちょっと一人でここ離れるんは、その、まだ、


「あなたの意向は今、関係ありません。」
「へ?」
「私はあなたが、真樹緒が安全に近江を出る事が出来ればそれで構わない。」


あなたの忍がどうなろうと関係はありません。
蘭丸と帰蝶の足止めをしていただいているならそれで結構です。
私は私のやり方であなたを守ってみせる。


「真樹緒。」
「でも…、」
「聞き分けなさい。」
「わぁ…!」


明智の光秀さんが俺を怪我してる方の腕でひょいっと担ぐ。
あたりをゆっくりうかがって崖沿いを歩きだした。

待ってってゆうてるのに。
こーちゃん探すって俺がゆうてるのに。
明智の光秀さんはすたすた。
どんどんって背中を叩いてもすたすたって歩いて行ってしまうん。


「明智の光秀さん、まって!」
「待ちません。」
「やって、こーちゃん!」


さっちゃんもかすがちゃんも。
放っていけやんの!
俺を迎えに来てくれた人らなん!
俺がこんなにお願いしてるのに明智の光秀さんは知らんぷり。
もう!っておっきい声で叫んで明智の光秀さんの長い髪の毛をつかんだ時。



ドンドンドン!
ドン!




「!?」
「真樹緒!頭を下げなさい!」
「ぬんー!」


あの銃声が。
俺とこーちゃんが逃げてた時と同じあの銃声が。
思わず顔を上げたら明智の光秀さんに怒られた。


でも、でも、でも。
あれは。
あの音は。


---------


切り目が分らないですぬん…
本当はあと二千字程続いていたのですが長いのですっぱりと切りました。

帰蝶さんと信長様は蘭丸君のお父さんとお母さんとしてキネマ主の中にインプットされました(笑)
今後どうなってもそれは揺るぎません。
おきのどくさま…!

そして少し優しくなった明智の光秀さん。
近江のお母さんの内心はキネマ主にすらばらしませんが、お母さんの中で何かが動きました。
厳しいですが、優しいところも出せたらいいなぁと思います。

次回は小太郎さんと帰蝶さんとお目見え。
あと一回か二回で必ず本能寺は終わってみせる…!

  

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