あっつい緑茶を用意して。
おざぶとんも二つ用意して。
手が汚れたらあかんから懐紙もそろえて準備万端。
日当たりのいい縁側に座ったら鳥の鳴き声も聞こえて雰囲気も最高。
明智の光秀さんがまたお仕事に行ってもうたからかすがちゃんと一緒にお茶してます真樹緒ですこんにちは!!


「ぬー、おいしー。」


木にとまってるあの鳥、モズっていうんやって。
かすがちゃんが教えてくれたん。
あんなに可愛いのにカエルとかトカゲを食べるらしいよ。


……
………


アフタヌーンティーに捕食シーンはちょっと見たくないかもね!
鳴き声はすっごい良い感じなんやけど!


「もぐもぐ、」


おこしを食べてもぐもぐ。
歯ごたえ抜群のおこしをもぐもぐ。

さすが大阪のおこしよねー。
お米がおいしいよねー。
俺お習字も障子の張り替えも頑張ったしご褒美のおこしやから、その味もひとしおっていうか!
やぁ、干ししいたけもあったけど!


「ふー、」


口いっぱいのおこしをごくん、って飲み込んであっついお茶を一口。
お腹も気持ちも落ち着いてほっと一息。
ふーってゆっくり深呼吸。
まだちょっぴり複雑な顔してるかすがちゃんを見た。


「かすがちゃんもどうぞ?」


おこしどうぞ。
甘くってとってもおいしいで。
固いから頑張ってかんでね!
言いながら笑ったらかすがちゃんのまゆげがきゅって寄った。


「かすがちゃん?」


でも俺はなんでそんな顔をするんか分からんくってきょとん。

かすがちゃんはねぇ、色んな事を教えてくれたん。
戦のあった日の事をいっぱい。
俺はあの日、政宗様らを見にいった日、崖の上におった明智の光秀さんに斬られたんやって。
こーちゃんは俺を庇ってやっぱりお腹を斬られて崖から落ちて。
その後は甲斐のお屋敷で手当てしてもらったみたい。
まだまだ寝たきりやけど命に別状はないらしいから一安心なん。

ぬん、よかった。

雪崩があった後政宗様らは戦どころやなくって今は政宗様もこじゅさんも甲斐のお屋敷におって、俺が明智の光秀さんに連れ去られたもんやからすごい心配してくれてるらしいん。
心配して俺を探してくれてたんやって。
助けようとしてくれてるんやって。
さっちゃんにも、ゆっきーにも、いっぱい心配かけてしまったん。


ぬう…
ごめんなさい皆。


俺ちゃんと元気にしてるから。
目ぇ覚めた時はちょうお腹が痛かったんやけど、今はもう全然やから。
斬られた痕はちょっと残ってもうてるけどね!
ご飯もいっぱい食べてるし、夜はぐっすり寝てるん。

お手伝いかって毎日やってるよ。
規則正しい生活で最近お腹のお肉も増えて来た感じするし。
明智の光秀さんは死神さんってゆわれてたりするけど、実際は笑ったりしたら綺麗やと思うしちょっぴり厳しいけど優しい近江のお母さんなんやで。


「ほら、かすがちゃんおこしどうぞー。」


懐紙に乗せておこしを渡したら複雑そうな顔のまんま、かすがちゃんはやっぱりまゆげの間をきゅっと寄せて俺を見てる。
俺が笑ってもやっぱり心配そうで。
でも俺はそんなかすがちゃんよりも、前みたいに笑ってほしくってやぁ。
難しい顔してるかすがちゃんに手を伸ばして、きらきら光る金髪を撫でた。
さっきやったみたいにゆっくりゆっくり撫でた。

細くて長いかすがちゃんの髪の毛はとっても気持ちいいん。
さらさらさらさら、音が鳴りそうな金髪を撫でて笑う。


「かすがちゃん、かすがちゃん、安心して。」


俺大丈夫やから。
ここにおるから。
元気やから。

心配かけてごめんなぁ。
ほんまにごめん。
ありがとう。

でもね、俺大丈夫やで。
やから甘いもの食べてかすがちゃんも一息ついてほしいん。


「かすがちゃん、」
「…真樹緒。」
「うん?」
「お前、俘虜だというのは本当か。」


俘虜の意味を知っているのか。
俺の手はそのまんまでかすがちゃんが言う。
不安そうな顔はまだ直ってないん。
俺を見て、俯いて、俯いて。


「俘虜とは人質、捕虜の事だ。」


俘虜として連れ去られ、明智光秀の元で何もされなかったのか。
ただでさえお前は奴に斬られているというのに。
あれは死神。
拷問や折檻など眉ひとつ歪めずやってのける男だと聞く。
お前が伊達政宗の寵児と聞けばどんな卑劣な手でそれを利用してくるか分からない。
そんな奴の所に一人で…!


顔を上げたかすがちゃんはちょっぴり泣きそうやった。
手は震えて、震えて、震えて、今にも湯のみが割れそうで。


ぬん…


湯のみがびきびきびきって変な音を立ててるん。


……
………


かすがちゃん、それ明智の光秀さんのお気に入りな京焼湯のみやから割らんとってくれると嬉しいわ…!!


「本当に何もされていないのか、真樹緒。」
「うい。」


大丈夫、大丈夫、さっきも言うたけど俺すごく快適に過ごしてたんやで。
女中さんは優しいし、ごはんもおいしいし。
やからそのままそおーっと湯のみをお盆に置いてね…!


「かすがちゃん。」
「どうした…」
「俺思うんやけど、」


やぁこれは明智の光秀さんにも言うたんやけどね。
きいて。


明智の光秀さんはやぁ、政宗様とちょっと仲が悪いみたいやん?
でもな。
政宗様は俺のとっても大事な政宗様やけど、その政宗様と明智の光秀さんが仲悪いからって、俺まで明智の光秀さんと仲悪いんはおかしいと思わん?
俺と明智の光秀さんはお話した事も無かったんやから。
もっとゆうたらね、政宗様は武将さんで明智の光秀さんも武将さんで、もしかしたら理由とか何もなくっても戦ったりせなあかん事があるかもしれへんけど。
俺は武将さん違うし、戦ったりしやんでもお話とか出来たりすると思うん。
政宗様の分までね!


「真樹緒…」
「明智の光秀さん優しかったよ。」


俺のお腹を斬ったのは明智の光秀さんやったけど、手当をしてくれたんも明智の光秀さんなん。
お茶のお作法を教えてくれたし、お習字道具もくれたん。
毎日一緒にご飯も食べたし、難しいけど色んな話をしてくれてね。
こないだから大阪行っててお土産におこし買ってきてくれたんやで。


「やからね、そんな顔しやんで。」


ほら、おこし食べて。
甘くってとってもおいしいから!
歯ごたえばつぐんやから!


かすがちゃんを見ながら笑ったらかすがちゃんがさっきよりももっと真剣な顔で俺を見上げてた。



  

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