「やぁやぁ、ほんなら明智の光秀さんそんなところで立ってやんとお部屋の中に入ろうや。」


せっかくお帰りなさいなんやし。
ほら、俺のお話聞いて。
お習字頑張ったん。
障子もね綺麗に貼れたで。
後で見てね。


明智の光秀さんの袖をひっぱってお部屋の中へ。
良かったら俺お茶入れるけど、ってお部屋の中へ。
ちょっぴり浮かれてるのはやっぱりお久しぶりやからで。
そこは目をつむってくれると嬉しいわ!


「その前に、真樹緒。」


お待ちなさい。


でもな、お部屋に入ろうと思ったら明智の光秀さんが俺の名前を呼んだん。
呼ばれて逆に俺が引っ張られて思わず体がぐらっと揺れました。
転びそうになって踏ん張って、でも結局明智の光秀さんの胸にぼすっと突っ込んでしまいました真樹緒ですこんにちは!


「う?」


なに?
お鼻いたいやんか。


「客人が来られていましてね。」
「お客様?」
「ええ、あなたも会ってみますか。」
「ぬ?ええの?」


はい、って言った途端明智の光秀さんが障子を開いた。


お客さんやって。
初めてとちがう?お客さんがお屋敷に来るん。
やぁやぁ、どんな人やろー。
失礼の無い様にしなくちゃねー。
こういうんって第一印象が大事やから!

ほら俺が失礼してもうたら明智の光秀さんにも迷惑かかっちゃうしー。
むん、って気合いを入れて背筋を伸ばして障子の方を向いて起立。
すぐにご挨拶できるように、でもちょっぴり内心ドキドキしながら見てたん。


ほんならすーって開いた障子の向こうには明智の光秀さんが言うお客様がおったんやけど。



……
………



ぬ?


あれ?
でもちょっと待って。
やぁやぁ待って。

俺、あのお客さん知ってるよ。
見たことあるよ。
会ったこともあるよ。


「っこの手を離せ明智光秀…!」


私を捕まえてどうするつもりだ!
私は忍。
捕まった所で貴様に話す事など何もない!



……
………



ぬん…



金髪の髪の毛。
せくしーだいなまいとぼでぃー。
こーちゃんやさっちゃんと同じお忍びさんで。


あれは。


……
………


かすがちゃん…!!
「なっ、お前!」


真樹緒じゃないか!


なんとそこにおったのはこないだ政宗様のところにやってきたかすがちゃんでした。
せくしーなお忍びさんなかすがちゃんでした。


あれかすがちゃん何でこんなとこにおるん。
近江って越後のご近所さんやっけ?
それともお仕事?


あれ?
でもかすがちゃん何で明智の光秀さんに腕を掴まれて口も塞がれてるん。


うん?
あれ?


明智の光秀さんお客さんってゆうてなかったっけ?
かすがちゃんがお客さん?
やぁ、ほんなら何でかすがちゃん腕掴まれて口塞がれてたんやろう。
お客さんやのに。


「かすがちゃんお久しぶりー。」


元気やった?
その後軍神さんとはどんな感じ?
あれからかすがちゃんの恋の行方がとっても気になってたんやけど、ちょっと俺もドタバタしててやぁ。
お手紙とかもかけやんくって。
ごめんなー。


「真樹緒!お前何を呑気に!」


私はお前を…!


「う?俺?」


かすがちゃんを見上げて言うたらかすがちゃんが眉毛を釣り上げて怒ったん。
明智の光秀さんに掴まれた手を外そうとしながら怒ったん。
ぬん…その顔がちょびっと本気でちょびっと怖い。


「かすがちゃん?」


でもやぁ、俺は。
何でかすがちゃんが怒ってるんか分からんくってな。
やってお久しぶりに会ったんやから、「お久しぶり!」ってご挨拶が一番合ってると思ったんやけど。
かすがちゃんに会えて嬉しかったんやけど。


でも俺が笑ってそう言うてもかすがちゃん笑ってくれへんし。
ちょっと首を傾げたら「っこの馬鹿が!」ってやっぱり怒られた。


ぬう。
かすがちゃん、可愛い顔は怒っても可愛いけど俺やっぱり前みたいな素敵な笑顔が見たいな…!


「真樹緒、」
「はい?」
「あなたの知り合いでしたか。」
「うん。」


今まで静かに俺らを見下ろしてた明智の光秀さんが意外そうな声で聞くから頷いて。

そうなん、かすがちゃんと俺前に会ったことあるん。
会ったことあるってゆうか恋ばな友達ってゆうか!
かすがちゃんな、とっても可愛いお忍びさんなんやで!
素敵な恋をしてるんやで!
俺はその恋を応援してるん。


会うのはお久しぶりなんやけど、大事な大事なお友達やからその手を離したってくれると嬉しいわ!


「…それはそれは失礼しました。」


お願いしたら明智の光秀さんが暫く何か考えて、考えて、ちょびっと笑って、かすがちゃんの手を離してくれた。
忍のお嬢さんが余りにも殺気を放って潜んでいたもので、思わず鎌を振りまわしてしまいましたよ、って言いながら離してくれた。
離した途端かすがちゃんが俺をだっこしてばびゅんって飛んで、明智の光秀さんからちょう遠い所に着地したんやけどやっぱり怒ってて。


やぁ、いくらなんでも明智の光秀さん女の子に鎌振りまわしたりしたらあかんよ。
ただでさえ明智の光秀さんの鎌、でっかい上に二つもあるねんから。
そりゃぁかすがちゃんも怒るよ。
お顔に傷ついたらどうするん!
かすがちゃんの綺麗な顔に!
肩とかすくめてる場合やないねんで!


「真樹緒!」
「ぬん?」


やぁやぁ、かすがちゃん安心して。
明智の光秀さんには俺がちゃんとゆうとくから。
女の子は大事にしやなあかんねんで、ってゆうとくから。
明智の光秀さん、ちゃんと言うたら結構お話聞いてくれるから大丈夫!


「そうじゃない!!」
「う?」
「お前こんなところで何をしている!」


独眼竜やその右目がどんなに心配していると思っている。
武田の者達がどれほどお前を探しているのか知っているのか。
お前が明智光秀に攫われたと知って私だって…!


「情報を集め、探り、やってきたというのにお前は何をのほほんと…!」


見上げたかすがちゃんは怒ってるんやけどちょっと悲しげな顔で。
顔を赤くして眉毛を釣り上げて俺の肩を揺らす。
真樹緒、真樹緒、って俺の名前を呼びながら。



「…かすがちゃん。」



かすがちゃん。
やぁ、かすがちゃんもしかして俺の事探してくれてたん?
俺が雪山で倒れたの知ってたん?


俺、あの時の事はよう覚えてへんくって。
目が覚めてからも自分の事ばっかりで。
毎日、毎日、好きな事して。


やからちょっと、かすがちゃんの言うてくれる事にびっくりして、胸がどくん。


政宗様が心配してくれてるんやって。
こじゅさんも心配してくれてるんやって。
さっちゃんやゆっきーが俺を探してくれてるんやって。
それからかすがちゃんも会いに来てくれて。

みんな、みんな、俺の事を。



「ぬん…」



どくん、って鳴った胸が今度はきゅうって詰まる。
政宗様とこじゅさんの顔を思い出して胸がきゅう。
ゆっきーとさっちゃんの顔を思い出して胸がきゅう。
そこで皆が笑ってて、息が出来やんぐらいに喉もくるしい。

目の奥がすごく熱くなった。


「真樹緒。」
「うい…」
「無事で良かった。」


かすがちゃんの金色の髪が揺れる。
とっても綺麗で、とってもいい匂い。
そっと手を伸ばしてそのままかすがちゃんに抱きついた。


「ありがとう、かすがちゃん。」


心配してくれてありがとう。
探しに来てくれてありがとう。
怒ってくれてありがとう。

いっぱい、いっぱいありがとう。

俺、自分の事ばっかりで俺の事を思ってくれてる人の事ちっとも考えてなかったん。
政宗様や、こじゅさん、ゆっきーにさっちゃん、もちろんこーちゃんの事忘れたことなんて無かったけど、やっぱり俺自分の事ばっかりで。
こうやってかすがちゃんが来てくれるまで何にも知らんくって。


やからね、ありがとう。
それから。


「心配かけてごめんね。」
「真樹緒…」


この馬鹿が、って小さくゆうたかすがちゃんに抱きついてぎゅう。
俺元気やでってぎゅう。
かすがちゃんの背中に見えた明智の光秀さんが何だか笑って溜息はいてたから俺も笑い返した。


ぬふふ。
うらやましい?明智の光秀さん。
かすがちゃんと俺がぎゅうしてて。
でもな、あかんよ。
これはね俺とかすがちゃんの友情のはぐなんやから!


「少しよろしいですか、真樹緒。」
「ぬ?はい?」


羨ましいなどと誰が言いましたか。
呆れたようにやっぱり溜息を吐いて明智の光秀さんが近づいてくる。


かすがちゃんがどこから出したんかクナイを構えてもうたんやけど、それを止めて。

やぁやぁかすがちゃん大丈夫やで。
明智の光秀さん何にもせえへんから。
俺ここで怪我が治るまでお世話になってたん。
女中さんも明智の光秀さんも優しいんやで。
やからクナイしまって。


「だが、」
「へいきへいき。」


もし何かあったら俺がかすがちゃんを守るから!
女の子を守るのは男のおしごとやからね!
むん!って力こぶを作って見せたのに何だかかすがちゃんがちょう不安そうな顔するから綺麗な金髪の髪の毛をなでなで。
大丈夫よーってなでなで。
明智の光秀さんを睨んでるかすがちゃんをなでなで。

睨まれた明智の光秀さんは全然こたえてへん顔で俺を見て笑う。


「積もる話もあるでしょうし、私は席を外します。」


すぐにまた屋敷を出なければなりません。
どうぞゆるりとして頂きなさい。


「明智の光秀さん、またお仕事?」
「ええ。」


少し京へ。
今回の滞在は少々長引くかもしれません。

言いながらさっきみたいに明智の光秀さんが俺の頭をぽん。
ぽんぽんぽん、それから髪の毛をかき混ぜる様にくしゃくしゃ。


「ああそう言えば、忘れるところでした。」
「ぬ?」
「土産です。」
「まじで!!」


やぁ、ほんまに。
おぼえててくれたん明智の光秀さん!
俺うれしい!

ちゃんと障子も貼り替えたし、お習字も頑張ったからご褒美やね!
やぁ、ありがとう!


「何買ってきてくれたん?」


頼んでたおこし?
それとも別のお菓子?
きんつばとか大福?


どうしよう顔が緩んでくるやーん。
どきどきわくわく。
そわそわしながら明智の光秀さんを見る。

そしたら明智の光秀さんがにっこり笑って。



干し椎茸です。
ぬーん!!!



ええ、何で…!
何で干ししいたけ!
お、お、俺おこしがいいってゆうたやん…!


お米のお菓子やでおこし!
それやのに何で干ししいたけ!!
大阪って別にしいたけ名産やないよひどい…!
干ししいたけの名産地は大分県やって地理の先生いうてたよ!

しかも俺しいたけ嫌いってゆうたよね初めにこれ何のいじめ…!!


「おや高級品なのですよ、干し椎茸は。」


少しは食べられるようになったのでしょう。
私が戻るまでにそれを全て食べ終えていなさい。
そしたらご褒美を差し上げましょう。


まじで…!


絶対無理やと思うんやけど!
何このつつみのぶ厚さものすごいあるで…!!
女中さんにお手伝いしてもらったって結構な食べごたえ…!


俺がお土産のつつみをじぃ、って睨んでるんもおかまいなしに明智の光秀さんは笑いながらお部屋を出て行った。



「…忍のお嬢さん、くれぐれも真樹緒をよろしくお願いいたします。」



そんな事を言い残して。
変な顔で首を傾げたのはかすがちゃんで、眉間にシワを寄せて明智の光秀さんが出て行った方をずうっと睨んでた。


やぁ、でもよろしくお願いしますって何の事やろう。
俺も首をひねりながらお土産のつつみをばりばり破って。
「真樹緒お前は囚われていたんじゃないのか」ってゆうかすがちゃんに「んー、何か俺ふりょってゆわれたよ。」「俘虜だと!?」なんてお話しながらつつみを破って。
出てきたにっくき干ししいたけ。



「あ。」
「真樹緒?」
「ぬふー…」
「どうした真樹緒、」
「かすがちゃん見て。」



干ししいたけと。



「何だ?」
「干ししいたけの下におこし入ってた!」


干ししいたけよりも盛りだくさんなおこし。
膝の上から溢れそうなくらいのおこし。


甘い匂いがぷわんと香る。
不思議そうな顔で俺を見るかすがちゃんにおこしを一つ渡して、俺も一つ。
やぁやぁ、かすがちゃんどうぞそこに座って。
俺お茶入れるから二人でおやつの時間にしようねー。


明智の光秀さん暫く帰ってこれやんみたいやから俺のお相手してね。
それから政宗様達の話も聞かせてね。
こじゅさんやゆっきー、さっちゃんの話も聞かせてね。
ほんでこーちゃんの様子も知ってたら教えてほしいな。
かすがちゃんの恋の行方も気になるし。



それから。
明智の光秀さんが結構優しい近江のお母さんやってお話も聞いてくれると嬉しいわ!


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かすがちゃんがきました(笑)
いくらなんでも佐助さんと小太郎さんはそんなに早く辿り着かないのでかすがちゃん。
どうやらずっと探してくれていたみたいです。

そして明智の光秀さんはキネマ主にお土産渡しに帰ってきただけみたいですぬん。

次回はかすがちゃんに近況報告と今後の事をご相談。
そしてまた明智さんと信長様サイドへ。
三人の忍さん達がそろうのはもう少し後になりそうです。

これにてはなよめ修業はおしまい。
そんなに修業してませんですみません(汗)

明智の光秀さんのお土産は干しシイタケとおこし。
近江のお母さんは意地悪だけれど最近優しさも芽生えています。


ちょっとずつですが色々動いてまいりました。
やっと三章も半分ぐらいまで来たかと思います。
政宗様達にも会えるように、もりもり頑張ります!

  

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