ぽかぽか陽気のお昼下がり、開いてる窓からあったかい風が部屋の中に入って来てとっても気持ちいい。
最近ちょっと伸びて来た前髪がそよそよ揺れる。
お昼ご飯も食べてお腹もいっぱい。
今日は明智の光秀さんおらんから女中さんらと食べたん。


ぬー。
まんぷくでこのままごろんと横になったらまたたく間に寝てしまいそうです。
真樹緒です。
あくびをこらえながらこんにちは!!


「真樹緒殿、肘が下がっておりまする。」
「はい!」


やぁ、でも寝てられないのよね。
あくびなんかしてられないのよね。
ご飯食べた後はお習字の時間なん。


ほら、覚えてる?
明智の光秀さんがお仕事行く前にゆうてたやろう?
お習字。

お茶のお稽古も頑張るんですよーってゆうてた時にお習字も頑張るんですよーって。
でも俺お習字とかって学校とかの授業とかでしかやった事無いからやぁ。
どないしようかなーって思ってたらな、何と次の日お習字の先生が!
氏政じいちゃんと同じお歳ぐらいの可愛らしいおばあちゃんがお部屋にやってきて、にっこり笑いながら紙とかすずりとか筆とか墨をくれたん。


「光秀様から真樹緒殿へ贈られたものでございます。」
「まじで!」


やぁやぁ、明智の光秀さんが買ってくれたんやって。
俺が使うお習字の道具買ってくれたんやって。
とってもいいものらしいよ。
そういえばこころなしか高級感が漂ってくるような。
すずりとか筆とかが特に!


ぬー。
帰ってきたらお礼言わなくちゃね!
ありがとう明智の光秀さん!
俺お習字頑張るわ!


「そのまま少しずつ力を抜いて払いましょう。」
「はい!」


今日はね、基本のお稽古なん。
止めはね払いをお勉強してますー。
久しぶりに大筆なんか持ったから初めは腕がぷるぷるしてもうたんやけどやぁ、最近はとっても順調にお稽古してるんやで!


「できた!」
「はい、大変結構でございますよ。」
「ありがとうございますー。」


先生に褒められてちょっぴり照れて、笑いながら筆を置く。
この褒められた払いは後で明智の光秀さんに見せよー。

これ。
この上から三番目の払い。
俺のじしんさく…!
大事に取っとくん。


「では真樹緒殿。」
「う?」
「最後に自分のお好きな言葉を書いてみて下さいませ。」


何でもよろしいのですよ。
真樹緒殿の思うままに。
言いながら先生が笑って新しい紙をくれた。
随分上達されましたし、ってやっぱりにこにこして。


「何でもええの?」
「はい。」


そんな先生は俺のお隣でものすっごい達筆な字で「春」って書いてくれた。
さすが先生、とっても綺麗な「春」でやぁ、やわらかくってこう、なんだかほんまに春風が吹いてる感じ。
おじょうず!


「ぬん…」


ほんなら俺は何書こう。
何でもええんやって。
好きな言葉やって。

好きな言葉。

ぬーん、急に言われちゃうとーちょっと迷うってゆうか。
言葉とかそんなしっかり考えた事無いしー。


……
………


「よし。」


よし。
こーゆうんは最初のインスピレーションが大事よね。
あんまり考え過ぎたらあかんよねきっと。
初めにぱっと頭に浮かんだのを書いた方がいいよね。

とゆう事で。


「いきます!」


にこにこ笑ってる先生が頷いたんを見て筆に墨をつける。

ちょうどいい具合に墨を落として一角め。
ちっちゃいちょん。
二画目もちっちゃいちょん。
でも心なしか内側にー。
それからまっすぐ横に三画目。
縦もまっすぐやろー。
それからしゃっしゃっと払う!!


「できた!!」
「あらまぁ。」


ほほほ、って口元を押さえる先生を見て俺も笑う。


見て、先生。
これ俺の好きな言葉。
大好きな言葉。
言葉ってゆうか食べ物やけど!

見て!
払いもさっきみたいにかけたよ!


『米』


お米。


食べ物の王様やと思うん俺お米って!!
甲斐や奥州のお米もおいしかったけど、近江のお米もおいしいよね!
お米。
俺の好きなものベストワンはおこめ!!


もっと情緒ある言葉は選べなかったのですか。

「!!」

「あなたらしいと言えばそれまでですが。」


そんな食い意地の張った子に育てた覚えはありませんよ。


ほら、見てって俺が先生に「米」って書いた紙を見せてたら背中の方から声が聞こえたん。
俺の知ってる声で。
ちょっと楽しそうな声。
やぁ、呆れてるんかもしれやんけどでも笑ってる声。


振り返ったらやっぱりそこには明智の光秀さんが!


「明智の光秀さん!」


本物の明智の光秀さんやで!

お仕事終わったん?
おかえりー!
お疲れ様―!!

ずっとそこで見てたん?
声かけてくれたらよかったのにー!!


「真樹緒。」
「う?」
「手習いの最中でしょう。」


半端はいけません。
先生に失礼ですよ。


「あ、」


俺が明智の光秀さんとこに飛びつきに行こうと思って立ち上がったら明智に光秀さんに止められてしまったん。
優しいんやけど強い目で駄目ですよ、って。


ぬん。
ぬんぬん、俺ったら。
先生がお隣にいるのに立ち上がるなんてー。
まだお習字の練習終わって無いのに。


「せんせい。」


ごめんね、先生。
俺ちょっとテンション上がっちゃって。
ほら俺明智の光秀さんがお仕事行く時、何や寝ぼけててお見送りできへんかったから。
お久しぶりの明智の光秀さんやから。
ごめんね。


ちゃんと正座してぺこり。
せっかく俺の字を見てくれてたのに、ってぺこり。


「ふふ、本日はここまでにいたしましょう?」


光秀様もお帰りになられた事ですし。
十分修練なさいましたよ。


「ええの?」
「はい。」


どうぞ光秀様のお出迎えを。
先生がぺこり、って頭を下げたから慌てておれもぺこり。
ありがとうございましたってぺこり。

筆を洗って散らばってた紙を集めて机の隅に片付けて。
もう一回先生に礼をした。
先生がお部屋を出るまで礼をしてね、障子がしまったら反対側の障子へ一直線。
やってそこには明智の光秀さんが!


「おかえり明智の光秀さん!」


やぁやぁ、お早いお帰りでー!
大阪どうやった?
ちゃんとお仕事終わった?
おつかれさま!


俺ちゃんとお茶のお稽古もお習字のお稽古も頑張ってたよ!
先生がとっても優しくってな、さっきかって褒められたんやで。
後で明智の光秀さんも見てな。

お茶はやっぱり順番が複雑でもうちょっと覚えやなあかん事があるんやけど、女中さんも教えてくれるん。


明智の光秀さんの所まで行って、いつもやったら、政宗様とかにやったらそのまま飛びついて行くんやけど、何だか明智の光秀さんはそういうんは、苦手かな、ってゆう感じがしてね。
でも俺、明智の光秀さんが帰って来たんが嬉しくてね。
やから明智の光秀さんの着物の袖を掴んで。



「おかえり。」



ほら、行ってらっしゃいは俺夢の中でやったから。

あ、でも約束は覚えてたんやで。
ちゃんと障子はなおしたよ!
女中さんと頑張ったん。
糊から作ったん。
一日がかりやったけど結構楽しかったよ。
綺麗に直ってるからそれも後で見てね!
ほんでその時の話も聞いてね!

でもまずはお出迎えやで。
明智の光秀さんの着物の袖をつかんでお出迎えなん。



「おかえり。」



明智の光秀さんおかえり。
おつかれさま。

見上げたらお久しぶりの明智の光秀さんと目が合う。
何だかちょっとびっくりしておっきな目ぇやけど、いつものちょっと切れ長の綺麗な目やで。
じぃ、って見てたらその目が段々やわらかくなって。



「…只今、帰りました。」
「ごぶじでなによりー。」



明智の光秀さんが俺の頭をぽん。
ぽんぽんぽん。
ちょっぴりくしゃって髪の毛を混ぜられてこちょばい。
しばらくは我慢してたんやけどやっぱり耳がこちょばくって、止めてやーって逃げた。


もー。
明智の光秀さん何するんー。
撫でてくれるんはええねんけどちょっとお耳がこちょばいじゃないー。


「おや、それは申し訳ありません。」
「そんな楽しそうな顔で謝られてもー。」


説得力がないってゆうか!
別にええけど!


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帰ってきました明智の光秀さん。
長いので比較的きりのよいところを見つけて先にアップです。
本当に帰って来ただけですすみません(汗)
この後お土産へと続くのですが、何とも長くなるので次回に持ち越しでございますすみません…!

  

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