「明智の光秀さん…」
「何でしょう。」
もしかして明智の光秀さんは政宗様に捕まったん?


やぁ、やって。
明智の光秀さん政宗様と戦ったりしたんちがうん?
ほら戦やし。
その戦におった浅井さんは雪崩で大変やったと思うし。
政宗様は俺のご自慢の政宗様やから負けたりせえへんし!
ここおやかた様のお屋敷なんやったら明智の光秀さんが捕まったんかなーって。

じっと明智の光秀さんを見上げながら聞いてみる。
じーっと見つめて。
見つめて。


「ちがう?」
…その腹の傷抉りますよ。
ぬーん!
「ここは私の屋敷です。」
「まじで…!」


ちがった…!
まちがえた…!

にやり、って笑った明智の光秀さんは何だかさっちゃんやおシゲちゃんとはまた違った怖さでちょっぴり俺の背中が震えました…!
おシゲちゃんがゆうてたよ明智の光秀さんは気味が悪いって…!

ぬん!
なんてゆうかほんまにえぐられそう!


「…ぬ?」


……
………


あれ?
でも傷?
傷って何の傷。

俺、怪我してたっけ?


「私があなたを斬った傷ですよ。」
「明智の光秀さんが?」
「あなたの横腹に一太刀、綺麗に傷がつくように臓腑を避けて差し上げたでしょう?」


……
………


ぬ?


あれ?
いつ?

やぁ、そう言えば俺あの崖のとこで急に力が抜けたような気はするけど。
明智の光秀さんを見た瞬間から記憶は無いけど。
は…!!
もしかして俺のお腹がちょう痛いんってもしかして明智の光秀さんに斬られたから…!?


「…他に何だと思っていたのですか。」
やぁ、ただの食べすぎかとー。


俺雪山に行く前よもぎ餅とおそば食べてたから。
朝ごはん抜きやったからめさくさ食べちゃって。
ついにお腹に限界がきたのかとー。

やぁやぁ、斬られたんかー。
斬られたんやったら痛いにきまってるよねー。
厠に行ってもなおらんよねー。


やはりその傷抉ってやりましょうか。
「ええ何で…!」
斬った甲斐がありません。


もっと痛み苦しみなさい。
苦痛に顔を歪めなさい。
その様に間の抜けた顔をされるのは面白くありません。


りふじん…!


やぁ、ひどいー。
ひどい明智の光秀さん。
俺めさめさお腹痛いのに耐えたのにー。
くらやみの中でじわじわ迫ってくる痛みに耐えてたのにー。

明智の光秀さんはおもしろくなさそうな顔で俺を見下ろしてるん。
ちょうご機嫌が悪いみたいで深ぁーいため息まで吐かれてしまってやー。
やれやれって面倒くさそうに俺の寝てるおふとんの傍に座ったん。


「なぁ、なぁ、明智の光秀さん。」
「…何ですか。」
「俺な、真樹緒ってゆうん。」


なまえ。
まだ自己紹介してへんかったやん?
やから名前。
明智の光秀さん、座ってくれたし俺とお話してくれるんかなって思って自己紹介なん。

布団からよじよじ起き上ってちゃんと明智の光秀さんを見て。
ほらおシゲちゃんに人とお話するときは目を見てやらなあかんよって言われてるから!
お腹痛いのも我慢なん。
体もがんばったら動くしね!


「真樹緒やで。」


お部屋の中をちょっときょろっと見渡してから明智の光秀さんと視線を合わす。
やっぱり俺の知ってるおやかた様のお屋敷とは違うなぁ、って思いながら。


あんな、明智の光秀さん。
聞きたい事があるん。
俺、気がついたらここにおったんやんか。
やからここにくるまで何があったんかよう分からんの。


「俺、何でここにおるん?」


政宗様やこじゅさんは?
さっちゃんとゆっきーは?
俺の、こーちゃんは?

なぁ、一体どうなったん。
何で俺明智の光秀さんのお屋敷におるん?
よかったら教えてほしいん。


じっと見つめた先の明智の光秀さんは無表情で、お膝の上に手を乗せたまま俺の視線を受け止めた。
ちょびっと目を伏せてもうたけど視線をそらされたりはせえへんかったん。
静かーなお部屋で明智の光秀さんと二人だまったまんま、しばらくたって。


「あなたは私が連れて来ました。」
「へ…?」
「伊達政宗の目の前であなたを斬りつけた後、私が攫って来たのです。」


雪崩が起こり、浅井軍は壊滅。
私の兵も少なからず被害を受けました。
私は気を失っているあなたを連れ、屋敷に戻って来たのですよ。

独眼竜とその右目は今甲斐に身を置いています。
あなたを私に攫われて、さぞや悲観に暮れている事でしょう。
考えただけでも体が疼きます。


「あなたは俘虜。」
「ふりょ?」
「暫くこの屋敷に身を置いて頂きます。」


逃げるならご自由に。


「逃げる事が出来れば、の話ですが。」


明智の光秀さんがゆっくり口元を上げた。
さっきの無表情から何だか楽しげな顔に早変わり。


ぬん…


…それがちょっと怖いなと思ったのは秘密です…!
怖いってゆうか何かこうぞくぞくってするてゆうか。
綺麗な顔があんな風に笑うと背中がぞくぞくするんやね。
もっと普通に笑ったら絶対美人やのに明智の光秀さん…!
確かおシゲちゃんが気味が悪いってゆうてた明智光秀さん…!


「やぁ、俺一人で逃げたり出来るわけないんやけどー。」


ここがどこかも分からんし。
ここから甲斐のお屋敷がどっちにあるか、どれくらいの距離があるかもわからんし。
お腹めさめさ痛いし。
政宗様らが無事やったらそれはそれで一安心なんやけど。
俺はここでお世話になってええんやったらお世話になるけど。

後は、


……
………


「こーちゃんは?」


こーちゃん。
俺のこーちゃん。
伝説のお忍び風魔のこーちゃん。


「…誰ですか。」
「俺と一緒におったお忍びさん。」


俺が覚えてる限りでは何だかこーちゃん倒れてたような気がしたんやけど。
こーちゃん、ってお名前呼んだ後に力無く倒れたような気がしたんやけど。
俺もその後から記憶無いし。
明智の光秀さん知ってる?って首を傾げたん。


「あなたと共にいた忍なら、あなたを庇って刃を受け崖から落ちてしまいましたよ。」


ふふ…本当に、気の毒な事ですね。


……
………


まじで…!!


ええまじで!
こーちゃんが!
まじで…!

ちょっと明智の光秀さん何でそんな楽しそうなん。
くくく、って何笑いこらえてるんちょう失礼やで…!!
もう、ほんま何て事してくれたん俺の大事なこーちゃんに…!
ああしかもこーちゃん俺とか何で庇ったりしたんもうー!!
あかんやんー!


「ぬん…」


でも大丈夫やろうか。
こーちゃんは伝説のお忍びさんやけど怪我したまんまであんな高いところから落ちて。
政宗様ら、ちゃんとこーちゃんもお屋敷に運んでくれてるかな。
手当してくれてるかな。
…しんぱい…!


「面白い顔ですね。」
明智の光秀さんはちょう楽しそうな顔ですねー。


もー。
嫌やわー。
うちの大事なこーちゃんが怪我したってゆうのにー。
何してくれてるんほんまー。


「以上で終わりなら、」
「ぬ?」
「…私からも一つ聞きたい事があります。」
「んん?何?」


明智の光秀さんがじっと俺を見る。
じっと見てちょびっと眉毛をよせた。



「何故あなた私に臆しないのでしょう。」



それが些か不愉快です。
あなたは独眼竜の寵児だと聞き及んでいる。
そんなあなたの腹を裂き、血を流させ、独眼竜や右目を失意の底に貶め、私は最高の気分を味わったというのに。


「腹を斬られたあなたは何故私に臆しないのです。」


敵に一人捕らえられ、逃亡する力もないというのに。
このまま殺されてしまうかもしれないのに。
何故泣き叫び、命乞いをし、恐れ慄かないのです。
その余裕げな顔を見ていると苛々します。


明智の光秀さんが俺を睨む。
冷たい冷たい目なんやけど、俺はあんまり怖くなくて。


「…むん、」


やぁ、俺は。
うーん、俺が?
ぬーん、何てゆうたらええねんやろう。


「やってやぁ、明智の光秀さんが戦ってたんは政宗様やろう?」


俺ちがうやん?
明智の光秀さんは武将さんで、政宗様も武将さんやけど、俺は武将さんと違うやん?
やぁほんまに何て言おう。


「例えばやで、俺の大事な友達が、明智の光秀さんと仲悪かったとするやん?」


でも仲悪いんは俺の友達で、俺まで明智の光秀さんと仲が悪いんは何か違うやん?
それに俺が怪我したんは俺が悪いん。
ほら、やって俺ゆっきーやさっちゃんに行ったらあかんよって言われてるところに行ったんやから。
勝手にやってきたんやから。
じごうじとくってゆうん?
仕方ないなーって思うん。

お腹ちょう痛いけど…!


「それに俺と明智の光秀さんは初めましてやし。」


別に怖がる事なんにも無くない?
なくなくない?
やぁ、まじで!

しかも怪我したところを助けてもらってるし、むしろありがとうございます的な!
あ、こーちゃんを怪我させたんはちょっぴり怒ってるけどそれも旦那さんである俺がしっかりしてへんかったせいやから。
また後でこーちゃんにはちゃんと謝るつもり。

俺はそんな風に思ってるんやけど。


「思ってるんやけど。」
「……」
「…ぬん?…」
「……ふふ…」
「……明智の光秀さん?」
「分かりました、そうですか。」


俺がりきせつしたってゆうのに明智の光秀さんはうつむいて肩をゆらすん。
くっくっくっって声が聞こえてくる。


「ぬ?」
あなた馬鹿なんですね。
ぬーん…!


ち、ち、ちがうし!
俺いますごい大事な話したやん…!
いい話したやん…!
何そんな呆れた様な顔で笑ってるん。
気の毒そうな顔してるんやめてんか…!
俺なんかせちがらい…!


馬鹿な子程可愛いと言いますしねぇ。


そうですかそうですか。
独眼竜も粋な趣向をお持ちで。


何なっとくしてるん…!


政宗様の事悪くゆうたら俺おこるよ!

ぶうってほっぺた膨らまして明智の光秀さんを睨む。
睨まれた明智の光秀さんはそんな俺の視線もなんのその。
楽しそうに笑ってるん。
その笑い方がによによしててちょっぴり腹立つけど!


「真樹緒。」
「う?」
「晒をかえます、横になりなさい。」

「…ぬん…」
「…何ですか。」
「やぁ、」


明智の光秀さんが名前呼んでくれたなーって思って。
何か不思議な感じ。
今までお話してたら、俺、明智の光秀さんに嫌われてるんちがうかなーって思ったりしたから不思議な感じ。

のそのそまた布団に横になってちょう痛いお腹をさする。
触ってみたらずきってするとこがあって、ここが怪我したとこかーなんてやっぱり不思議な感じ。
へへ、って笑ったら明智の光秀さんが眉毛をまたきゅって寄せた。


「…不愉快です。」
にょー!いたい…!


明智の光秀さんが俺の傷口をぎゅうって触ってちょういたい…!
手当てしてくれるんちがうんちょう痛いたい…!
やぁ、その後は普通にサラシをかえてくれたんやけど。
ちょうしみる薬みたいなんを塗りたくってくれたんやけど。

ぬん…
明智の光秀さんが優しいのか厳しいのかあんまりよく分かりません。
でも暫くどうにもこうにも動けそうにないから、明智の光秀さんのところでお世話になります真樹緒です!


俺怪我してるけどげんきやから!
みんなしんぱいしやんでねー!!


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キネマ主ですから…!
お腹斬られたってモウマンタイ…!
シリアスなんて前回で終わっていたりします実は!

まだまだ明智さんを良くわかっていなくて申し訳ないです(汗)
キネマ主に言いたいことはスパっと言えて、あんまり甘やかさない。
けれどたまに優しい、そんな明智さんを目指しておりまする。

とんでもなく長い一話になってしまいましてすみません(汗)
次回から明智さんとキネマ主のまったり日常が始まります。
怪我が治るまで暫く二人っきり(笑)
政宗様達はもう少し後に再会しますのでお待ち下さいませ。

  

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