気がついたら俺はまっくらで、まっくらで、まっくらなところにおったん。
右も左も上も下もまっくら。
まっくらですごい静かなところにおったん。
手も動かへんし足も動かへんし、目を開こうと思っても開けへんの。
誰かを呼ぼうと口を開けたつもりでも声はいっこも出ぇへんし。
頑張って動こうと思っても背中が壁にくっついた感じ。

どうもー。
お久しぶりの真樹緒ですー。
こんにちは!

ぬ?
こんばんは?
やぁまっくらやから今が夜なんか朝なんか昼なんかも分かれへんのよごめんなさいねー。

ではではもう一度こんにちは!
昼ぐらいのつもりでこんにちは!


ぬー。
体は全然動かへんねんけど、体は寒いこと無いん。
俺、たしか雪山におったはずやのに!
雪崩からの猛吹雪がふきすさぶとこにおったはずやのに!
何だかあったかいものにくるまれてるん。
冷たい風は全然吹いてけぇへんの。

ふしぎー。

ここ、どこなんやろう。
ほんでふしぎと言えば何でか分からんけどお腹が痛いのよねー。
こうずきずきずきずきって。
何でやろうこれ。
ちょうお腹いたい。
別にお腹を冷やした訳でもないと思うんやけど。


……
………


雪山におったから?
あれで冷えた?
やぁ、でも雪山におった時はお腹痛くなかったし。

ぬーん。


……
………


あ、それとももしかして食べすぎ?
ほら俺ここへ来る前によもぎ餅食べてきたやん?
よもぎ餅食べたのに甲斐でおそばも食べたやん?
明らかに食べすぎやん?
食べすぎでお腹痛くなってもうたんちがう?


ぬう…やだわー。
お腹痛いんってどうにもならんからいやだわー。
お薬飲んでじっとしてたら直ると思うんやけどー、なんてったって体がぴくりとも動かへんし。
薬も貰いにいけないわ!


ぬん…
頑張って腕を持ち上げてみる。
全然全くびくともしなくって、今度は足。
えーいや!って声かけたつもりやけど特に声が復活する事もなくて、足も動かず無念です!

やぁ、ほんなら目ぐらいは開かんかなーって重たいまぶたを一生懸命持ちあげた。
開け開け、って頑張って。
まぶたに力を込めて。
ぬん、って思い切り。

そしたら。


「……あれ?」


ふ、って力が抜けて目の前が真っ白になった。
まっくらやったとこから急に真っ白なとこになって思わず声が漏れて。
声が出た!ってびっくりしたんと眩しいので俺はもう一回目を瞑る。
ぎゅう、って瞑って後はまばたき。
ぱちぱち何回かやってたら天井が見えた。


「……ぬー?」


やー、どっかのお部屋やでここ。
ほんで俺、おふとんで寝てるん。
相変わらず体は全く動かへんしお腹は痛いまんまやけど、どこかのお部屋に寝かされてるんは確かなん。

ぬう、おやかた様のお屋敷やろうか。
やっとこ開いた目できょろきょろ見渡してみる。
んー、でもおやかた様のお屋敷にはあんなでっかい木とか植わってなかったような気するん。
おやかた様のお屋敷はこんな天井やなかったような気するん。


……
………


ほんならここ、どこやろう。
もっと辺りを見回したくって起き上ろうとしたんやけど、体に力入れた途端お腹がずっきーん…!


「にょぉぉぉ…!」


ちょうお腹いたい…!
何この腹痛…!
ええ食べ過ぎってこんなにお腹痛くなるもんなんまじで…!!

ちょびっと動いた手でふるえながらお腹を撫でた。
おトイレ借りようかなでも動けやんからおトイレも行けやん…!
おトイレってほら厠。
厠近くにあるかな…!


ぬーん…


なきそう。
ぷるぷる震える手でそおっとお腹をさすりさすり。

やぁ、ほんま誰かたすけて。
真樹緒が目を覚ましましたよ。
お腹痛くて震えてますよ。
甲斐のお母さんなさっちゃん、おれお薬ほしい…!


「あ、」


ぬんぬん、そう言えば政宗様もこじゅさんもゆっきーもどうなったんやろうか。
雪崩の後どうなったんやろうか。
俺一人こんなとこで寝てるけど。
ほんで雪崩の後ってゆうたら俺何か誰かに話しかけられた気するんやけど。
しかも確かこーちゃんが倒れたような気が。


……
………


「ぬん…」


あれ、ちょっと待って。
腹痛より大事な事あるんちがうんもしかして。
おふとんの中で厠行きたいとか思ってる場合やないんちがうん。

やぁでもお腹は相変わらず痛いんやけど…!


「おや、目を覚ましましたか。」
「へ?」


俺がおふとんの中でぐるぐる今までの事に思いをめぐらしていたら声が。
お腹痛い中唸ってたら声が。
あれ、でもやぁ。
この声どっかで聞いた気がするんやけど気のせいやろうか。


「…ぬ?」


もぞっておふとんから出て声のしたほうを向いて見る。
やぁ、体は動きにくいんやけどちょっとずつ動けるようになってるん。
でもお腹は相変わらずちょう痛いんやけど…!


「だれ…?」


そこにおったんは銀髪の髪の長い男の人で。
背が高くって色も白くって、何てゆうか…全体的にほそながい男の人なん。

えーっとね、ふんいきをゆうてみたらね。
薄幸?っぽいイメージ。
はっこう。
やぁ、綺麗な人やと思うんやけどこう病弱そうなイメージなん。
このお屋敷の人やろうか。

おやかた様の知り合い?
政宗様の知り合い?
誰やろう。


「お初にお目にかかります。」


私の名は明智光秀。
先日はとても面白い物を見せていただきありがとうございました。
久方ぶりに高ぶった体を落ち着かせるのに苦労しましたよ。

ええ、本当に。


「え…」


そう言って笑いながらこっちに近づいてくる。


…ほんでその笑いながら近づいてくる男の人は明智光秀さんやねんて。
明智光秀さん。
明智の光秀さん。
そう俺が名探偵真樹緒で一生懸命調査した明智の光秀さん。


「…明智の光秀さん?」
「おやご存知でしたか。」


やぁやぁ、ご存知どころか。
俺名探偵にまでなって明智の光秀さんの事を一生懸命調べたんやで…!
政宗様とこじゅさんが戦するってゆうから…!

確かほら。
武器は鎌で。
ちょっと気味が悪くて。
魔王のお嫁さんが親戚におる。
明智の光秀さん。


「ぬーん…」


じっと明智の光秀さんを見て、名探偵真樹緒のマル秘メモの内容を思い出してみる。

あれ、俺の初対面イメージと全然違うんやけど明智の光秀さん。
薄幸の病弱イメージと全然違うんやけど明智の光秀さん。
おシゲちゃんが気味が悪いってゆうてたよ明智の光秀さん。
え、でもちょっと待って。


何でその明智の光秀さんがここにおるんやろう。



  

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