「兄やんら元気そうでよかったね。」
「(こくり)」
「よもぎ餅食べてくれるといいね。」
「(こくり)」


こーちゃんと一緒にまたお空の旅。
ここからそんなに遠くないところで戦の音がするねんて。
こーちゃんが言うん。
さっきの陣営があったとこから山の方へぐぐっと近づいて颯爽とこーちゃんが木の枝の上を駆け抜けてます。
真樹緒ですこんにちは!


「あー、雪やぁ。」


兄やんらがおったとこを離れたらまた人が全然おらんようになって、こーちゃんと二人っきりで森におるんやけど、何や晴れてるのに雪がちらちら降ってきたん。
俺はこーちゃんの背中にひっついたまんまお空を見上げて、お空のてっぺんからどんどん降りてくる雪を何や不思議な感じで顔中に受け止める。


ふわふわ。
ふわふわ。


目の前が真っ白。
このままぼーっとしてたらお空に吸い込まれていきそう。
まつげに、おでこに、鼻先に。
音もなくゆっくり落ちてくる雪を見てたら急に寂しくなって、こーちゃんの首にぎゅうって抱きついた。

いつもやったら、雪降ったらお庭でこーちゃんと一緒に騒ぐのに。
どうしてか今日の雪はちょっと切ない。


「すぐにやんだらええのにね。」
「(…こくり)」


寒いしね。
ひんやりした顔をこーちゃんの肩にすりつける。
頭にぽん、って手が乗せられたんが分かってもう一回強めにすりつけた。

こーちゃん、こーちゃん。
早く行こう。
二人だけやったらちょっと寂しい。
俺ちらっとでもええから政宗様とこじゅさんを見たい。
やぁ、もちろん先に行ってくれてるゆっきーとさっちゃんも見たいんやけど。
政宗様とこじゅさん…


「(なでなで)」
「こーちゃん…」
「(も う す こ し)」
「うん。」


こーちゃんがいてくれるから平気。
俺がしょんぼりしてたらあかんよね。
政宗様もこじゅさんも頑張ってるのに。
ゆっきーやさっちゃんかって頑張ってくれてるのに。
俺がへっこんでたらあかんよね…!

こーちゃんに擦りつけてた顔を上げてまっすぐ前を見た。
山と山の間から原っぱみたいなんが広がってるんが分かる。
小さくやけど人が動いてるのも。
その間もこーちゃんがばびゅんって森を飛んでてどんどんそこに近づいて行ったん。


「(しゅた)」
「こーちゃん…」
「(こくり)」


こーちゃんが着地したんはその原っぱを見降ろせる崖の上。
戦ってる人の声も聞こえるぐらいの近さで、目を凝らしたら顔も見える。
そおっとこーちゃんの背中から降りて崖から下を見渡した。
ここも雪積もってるから気をつけやなね。
ほんで政宗様らにばれたらあかんからそおーっとなん。
皆の声が聞こえたりせえへんかなーって耳もすましながら。


ほんならやぁ


Ah?何でてめぇらがいやがる真田幸村!!


これは伊達軍の戦だァ!
ひっこんでやがれ!


「何を申される!」


某、真田幸村及び猿飛佐助率いる真田忍隊は全力を持って伊達政宗殿に加勢する所存!


「あァ!?」


ふざけるな!
政宗様は援軍要請など出しちゃぁいねぇ!


「それがちゃんと貰ってるんだよねー。」


独眼竜をお願いしますーってさ。
ここは素直に加勢されなさいってー。
ほら、人数的に考えたら押されてるんでしょ。
報告入ってるんだから。


「どこのどいつの事だそりゃァ…!」
「政宗殿もよくご存知のお方でございます。」
あ、ちょっと旦那。


それ以上は言ったら駄目だよ。
あくまでもあの子周りに秘密でやってきてるんだから。
そこは黙っててあげないと。


……
………


「……」
「……」
…政宗様。
一人しかいねぇなあの野郎真樹緒、何しに来てやがる。


成実は何してんだ…!


ぬーん…!!
政宗様にばれてもた…!
ばっちり俺が来てるんばれてもた…!
さっちゃんゆっきーもうちょっとうまい事隠して欲しかったな俺…!


聞こえてきた政宗様の声に思わず顔を伏せた。
やってほら、政宗様ぐらいのお侍さんやったら俺がおるん分かるかもしれへんやん。
もしかしたら!
こうちらっと上見上げられたら何だかすぐに見つかってしまう気がするわ!
声、ちょう怖かったし!!


「やぁ、でも。」


政宗様もこじゅさんも元気そうでよかったー。
元気で走り回ってるみたいでやぁ、相変わらず強くて一安心―。
俺、ちょっとしょんぼりしてたのが元気になったよ。

ぬう俺ってほんま単純なんやからー。
でもしょうがないよね。
お久しぶりに政宗様とこじゅさん見たんやもんね。


「へへ…」


お腹を押さえて深呼吸。
ほんでさっちゃんとゆっきーに小さい声で「ありがと」ってゆうて。
顔を両手でぱちん!

さぁさぁ気合い入れよ!
ちょっとでも俺が出来る事を見つけなきゃねー。
もうほんま明智の光秀さんがやってくる前に戦が終われば言う事ないんやけど!
それは中々ねー。
俺は戦えやんし。


「てゆうか皆話し合いとかでうまい事解決したらええのにほんま。」


やぁ、まじで。
こうやって戦ったら皆怪我するし、痛いし、いい事ないん。
それが簡単やないのは俺かって分かってるんやけど。
説明できやん大人の事情があるんは分かってるんやけど。
気持ち的には皆が仲良かったらええのになーっていつも思う俺。
言うのは簡単なんやけどねー。


ぬん。


貴様らァァ!戦の最中に余所見をするとは何と言う悪…!


いよいよ以てこの浅井長政が削除してくれる!


「あ、あれが浅井さん?」
「(こくり)」


やぁ、若いー。
変わったヘルメットかぶってるけど、政宗様に負けず劣らずのイケメンさんですねー。
さわやか系?
でも政宗様の方が男前やけど!
かっこよくてやさしいけど!
その政宗様は俺の自慢の政宗様やったりするんやけど!


ぬんぬん。
政宗様に勝てる人は中々ねー。
おらんねんで。


うんうん頷きながらもう一回そおっと崖から下を見降ろした。
政宗様らの近くにいる何だか変わったヘルメットのお兄さんが浅井長政さんみたい。
変わったヘルメットやし変わった髪型してるん。
でも大将さんらしいし油断は禁物よねー。


ぬー。
さぁ、俺どうしよう。


「むーん…」
「(?)」


きょろきょろ原っぱを見渡してみる。
原っぱはこじゅさんがゆうてたみたいに盆地になってて、まわりを森と山で囲まれてるん。
雪がいっぱい積もってるみたいやし歩きにくそう。
さっきから更に雪ふってるしねー。
そんな原っぱでは色んな旗が入り乱れてるねんよ。
政宗様のは知ってるからー、あのお団子みたいなん描いてある旗は浅井さんのんかー。
でもあの中に飛び込んでいく勇気は無いしー。


……
………


ほら、政宗様とこじゅさんに何言われるか…!
そんでもって怒ったら怖い甲斐のお母さんと怒らんでもたまにちょっぴり怖い甲斐のお兄さんに何言われるか…!!

あ、お兄さんはゆっきーの事やで、もちろん。


「皆がぴたっと戦を止めてくれる方法とか無いかなー。」


無いよねー。
そんな簡単にいかんよねー。
分かってるんやけどー。


じっと、下を観察。
雪ばっかり。
ほんで人ばっかり。
じっと上を観察。
雪山ばっかり。


「…ぬ?」


雪山。
やぁ、雪山。
お山にもっさり雪がつもってるん。
それはもう、今にもずるって滑り落ちそうなぐらい。


……
………


ぬん、ちょっと待って。
雪山のあのもっさりな雪やぁ、あれ落ちるんちがう?
頑張ったら。

ほらあの山肌からでっぱったとこ。
あれちょっと押したら落ちてきそうやで。


……
………


てゆうか落とせるんちがう?


「こーちゃーん。」
「(?)」
「俺ちょっとやってみたい事あるん。」


お手伝いしてくれる?
それが成功したら政宗様も浅井さんもびっくりして戦止めてしまうかもしれへんの。
そうしたら皆もうお家に帰れるやん?
政宗様もこじゅさんも、ゆっきーもさっちゃんも。
今やったらまだ怪我もしてへんみたいやし。
やからお手伝いしてほしいん。


こーちゃんをじっと見上げてお願いしてみた。
そんな難しい事やないんやで、って。
ちょっとこーちゃんにひとっ飛びして欲しいとこがあるん、ってお願い。
お約束やから戦場にはいかへんよ。


「(…、)」
「ぬ?何するんって?」
「(こくん)」
「あんな、あそこのお山をどかんと爆発させようと思って。」
「(…………?)」


やぁ、こーちゃんそのきょとんとした顔かわいー。


あそこのお山をどかんと爆発させようと思って。

「(…………?)」
「あれ?」


ちょっと分かりにくかった?
詳しく説明してみようか?
何だかこーちゃんがちょっと複雑そうな顔で首を傾げてしまったから、こーちゃんとおでこを突き合わせて作戦会議。
俺一人では絶対できやんからねー。
しっかり聞いてねー。


「(こくり)」
「ういうい。」


あのね!
あそこの山に雪いっぱい積もってるやん?
もっさり。
あそこに衝撃をあたえたらね、ずるっとあの雪が落ちてくると思うん。


「()」


ほら、今にもこうずずずって滑ってきそうな雪の量やんか。
やからあそこをどかんと爆発させたら雪崩起きたりせんかなぁ。
今丁度雪降ってるし、春先って雪崩が起こりやすいってゆうやん?
それに雪崩が起きたら浅井さんびっくりすると思うん。
多分政宗様もびっくりすると思うけど。
急に雪崩きたらちょうびっくりすると思うけど!
ほらそこは政宗様やから大丈夫きっと!


「(…)」
「こーちゃん?」
「(…、)」
「うん?うん、俺本気。」


すごい本気。
やる気満々。
やからそんな複雑そうな顔せんとね、力を貸して欲しいん。
あそこのお山を爆発させるために爆弾みたいなんが欲しいんやけどなんとかなるやろうか。
さっき兄やんらに聞いたらよかったんやけど、雪崩作戦思いついたん今やから。

結構グッドなアイデアやと思うん。
雪崩作戦。

でもあそこまで戻ってる時間はもったいないしねー。
やぁ、こーちゃんやったらひとっ飛びやろうけど、行って兄やんらにまた止められてもあれやし。

下におる政宗様のとこで手に入ったらええなぁと思うんやけど、どうやろう。
ちら、って下を見降ろしたら政宗様が俺の名前呼びながら必殺技みたいなんを出したところで。
気持ち的にもあそこに降りるのは結構勇気がいるからこっそりこーちゃんが探してきて欲しいなーなんて。
やって絶対怒られるやん。
多分今はまだ俺が甲斐のお屋敷にいると思ってるからあんな感じやけどー。


「…お願いできる?」
「(こくり)」
「ありがと!」


寄せてたおでこをちっちゃくこつん。
俺はこーちゃん、こーちゃんは俺のほっぺを両手でぺちん。
ほら、俺がさっき気合いいれたやつ。
頑張ろうな、の合図なん。
こーちゃんの顔にもう複雑そうな感じは無いん。


やぁ流石俺のお嫁さんこーちゃん。
あいしてるー。
旦那さんの関白宣言もなんのそのねー。


「(?)」
「やぁやぁ、こっちのおはなし。」


雪崩作戦頑張ろうね。
きっと大成功やから。
二人でしっかり頷いて、こーちゃんが崖をぴょんぴょん降りて行った。
目にもとまらぬ速さで、急な崖を降りて行った。


待ってて政宗様。
俺とこーちゃんちょうがんばるから!


-----------


つっこみがいないのでこーちゃんが大変です。
キネマ主は大まじめ。
頑張って山を爆発させまする(笑)

キネマ主は政宗様やこじゅさんを久しぶりに見れてテンションが上がっているのだと思います。
元気もりもり。
次回は雪崩。

そりゃぁ政宗様だってびっくりですよ。

  

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