こーちゃんがばびゅんってお屋敷の屋根の上を飛び上がって、塀の上を駆け抜けて、冷たい風がほっぺたにあたる。
はく息は真っ白。
やっぱりまだまだ寒いなぁ。
もうすぐ春やって政宗様ゆうてたのに。

ずる、って鼻をすすって顔を上げたら一面広がるのは山と森。
雪が積もってて息と同じように真っ白なん。
政宗様はあの山のふもとをまっすぐ行ったところにおるねんて。
真樹緒です。
こーちゃんの背中からこんにちは!


「こーちゃん、陣営もこの近く?」
「(こくり)」


おやかた様に手を振ってすぐ駆けだしてきた森はものすごい静かで、たまにこーちゃんが踏む木の枝がきしむ音が聞こえるだけ。
ほんまにこの先でいくさとかしてるんやろうか。
俺は見れば見るほど普通の山に見える。

しかも人っこ一人見当たらんのよねー。
そういえば俺が初めてこっちにやってきた時も人っこ一人見えやんかったよなぁ。
でも実は結構近くで戦やってたんよね。
北条のじいちゃんと政宗様と。
その後第一村人のこじゅさんを発見した訳やけど!
矢がぶっすぶっす刺さった道端で。

もうだれかをあんな感じで発見するんは嫌やなー。
心臓がいくらあっても足りへんよね。
あのすぐ後にこーちゃんも同じ状態で発見してもうたし。


……
………


ほら、あれ。
血だらけの衝撃的なデジャヴ。
ほんまこじゅさんもこーちゃんも元気になってよかったー。
三回目はもう流石にないよねー。
今日は絆創膏もってへんし。

皆無事やったらええねんけど!
よもぎ餅も持ってきたし。
これ兵士の兄やんらに差し入れなんやで。
疲れると甘いものが食べたくなるからね!


「(ちょいちょい)」
「ぬ?」
「(すっ、)」
「うん?あっち?」
「(こくん)」


ちゃんとよもぎ餅持ってきてるわなぁって懐ごそごそしてたらこーちゃんが俺の袖を引っ張った。
近くの枝に着地して、俺をその枝に下ろしてくれる。
足元気をつけて下さいね、って言いながらこーちゃんが指差した先にはめらめら燃える松明が見えて。
沢山のお馬も見覚えのある兄やんらもしっかり見えた。
ちゃんと政宗様のとこの旗もあるよ。


あれは!


「こーちゃん行こう!」
「(こくり)」


もう一回こーちゃんにだっこされて木を下りる。

政宗様の陣営みつけた!!
兄やんらあそこにおるみたいやで。
人がいっぱい見えるもん。

ぬう、怪我とかしてへんやろうか。
ほら陣営って戦の時の休憩所みたいなもんやん?


……
ぬん…あれ、違う?


休憩所とかとまた違う?
やぁ、そこはエアーでかんじで。
そんな雰囲気やと思って。

ほんでそこって多分怪我とかで戦えやんようになった人とかもおるやん?
手当とかせなあかんし。
兄やんらもし怪我しててもそんな大きな怪我違うかったらええんやけどやぁ。
気になるん。
よもぎ餅で元気になってくれるかな。


色んな事を考えてたらちょっと煙たくなってきた空気にせき込んだ。
「大丈夫?」ってこっちを振り返ってくれるこーちゃんに頷いて地面に降りる。
だいじょうぶだいじょうぶ。

平気やでー。
こーちゃんも喉気をつけてなー。

言いながら降りたそこは屋根の無いテントみたいで、結構広いかんじ。
政宗様もこじゅさんもおらんから正面から入ってもええよね。


「ぬん、」


ほら俺よもぎ餅をみんなに差し入れせなあかんってゆう大事な任務があるからねー。
ちょっとやったら手当のお手伝いとかもできるよ。
お医者のじっちゃんとこで教えてもらった事あるからね。
って事で。


「こんにちはー!!」


俺の声と同時にこーちゃんがテントの中へひとっ飛び。
ちょうどど真ん中に着地なん。
何て華麗な登場―。
さすがこーちゃん!!
すごい!

ではでは皆さん。
はいはい皆さん。
大きな声でご挨拶。

真樹緒がやってきましたよ!
奥州からよもぎ餅持ってやってきましたよ!
本当はお近くの甲斐経由なんやけど、そこは許してねー。
実はおそばとかも食べてもうたんやけど!


「っ真樹緒じゃねぇか!!」
「真樹緒だって!?」
「お前何だってこんなところに…!」
「ういうい、」


やぁ、兄やんそんなびっくり驚いちゃってー。
素敵な反応ですねー。
うれしいわー。

ざわっとなったテントで、いつもよく俺に声をかけてくれる兄やんらを見つけたん。
俺を見て取れてしまうんかって程目を見開いた兄やんが他の兵士さんをかき分けて近づいてくる。
ほんで俺の肩を掴んでぐらぐらゆするもんやから俺ちょびっとしてやったりな気分になって、すかさずよもぎ餅を取り出したん。

懐に入れてたんやでよもぎ餅。
女中さんが包んでくれてんでー。
ちょっと人肌にあっためられてるけどかんにんなー。


「どうぞー。」
いやいやいやいや。
「ぬ?」
ぬ?じゃねぇよ…!


何やってんだお前。
筆頭は知ってんのか。
いや、知ってる訳ねぇよな筆頭が許すはずねぇもんな。



大きなため息と一緒に兄やんらががっくり肩を下ろした。
力が抜けたみたいにへなへな地面に座り込んでしまったん。
俺を見つけて集まって来てくれた周りの兵士さんらも何だか複雑そうな顔してるしー。

やだわー。
そんな顔されるなんてー。
あ、でも兄やらんらがおっきい怪我してなくて一安心。
ところどころ血が出てたりサラシ巻いたりしてるけど全然全く動けやん人はおらんみたいやし。

よかった!


「あんな、兄やん。」
「どうした。」


さっさと帰れよお前、って。
筆頭に見つかったら六爪持って暴れるか片倉様がキレちまうかのどっちかだぞ、って。
ここは戦場だから、って眉毛をこれでもかってほど垂らして言う兄やんをそおっと見上げる。


やぁ、分かってるよ兄やん。
ごめんな。
皆に心配かけさせるために来たんやないん。
ちょっとな、政宗様の事で報告があって。


「今、いくさばにゆっきーとさっちゃんが行ってくれてるん。」
「「「は?」」」
「あれ知らん?」


さっちゃんとゆっきー。
ゆっきーとさっちゃんでもええけど。
ほら、甲斐の。
真田幸村なゆっきーと、お忍びの猿飛佐助なさっちゃん。
二人ともすごい強いねんで。


えーと何やったっけ、ゆっきーはほら。
槍なん。
武田のー…えーと、赤い槍?なん。


……
………


武田の赤い槍。
……武田の一本槍な。
「あ、それ!」


そうそう一本槍。
ぬー。
ちょっと間違った。
うっかり。
おやかた様から聞いたんはもうずっと前やったからー。
ごめんやでー。

ほんでね、さっちゃんは真田忍隊の一番偉い人なんやで。
甲斐のお母さんやけどちょう強いん。


「いや知ってっけどよ。」


甲斐の若虎っていやぁ、日の本で知らねぇ奴は早々いねぇぞ。
その忍も有名だ。
目の前の兄やんがリーゼントを揺らしながら言う。


「けどよ、真樹緒。」
「うい?」
「何でその若虎や忍が筆頭の戦に混ざるんだ。」


援軍要請なんて出してねぇはずだぞ。
そりゃぁ、心強いがこれは俺達の戦だろう。

不思議そうな顔しながらありがとよ、ってよもぎ餅を受け取ってくれた兄やんが俺を見ながら首を傾げた。
お前知ってるか、ってお互い顔を見合わせてる兄やんらはそれぞれ首を振って辺りがざわざわ。
そう言えば俺がお願いしたってゆうんは知らんのやっけ。
ゆうた方がええんかなぁ。


「やぁ、政宗様らの戦ってゆうのはよう分かってるんやけど。」


きいて兄やん。
知ってるかも知れやんけど今ちょっと政宗様とかこじゅさんがピンチってゆうか。
挟み撃ちにされて大変みたいなん。
それ聞いて俺へっこんでたらさっちゃんとゆっきーがね、颯爽とお屋敷を飛び出して行ってくれたのですよ。
ほんでおれがそれ見てちょっぴり泣きそうになってたら、おやかた様が俺がやりたいようにやったらええん違うって言ってくれたん。

ほんまおやかた様ってすごいよね。
俺が何考えてるんか全部お見通しなんやで。
やから暴れてこい、って…
こいって…


は!!
「あ?どうした。」
「兄やん、俺ちょっとまだ行かなあかんとこあったん。」


何だ何だ、ってざわざわしてる兄やんらの真ん中でびしっと挙手。
ぴんって右手を伸ばしてぐるっと辺りを見回した。

なぁ、なぁ、兄やん。
俺な、ここには皆の様子を見に来たんと、差し入れのよもぎ餅持って来たんでやー。
ちょっとゆっくりしてもいられやんの実は。
兄やんらが元気そうで安心したし、ご用が住んだら「俺がやりたい事」をやりにいかなきゃねー。

大変大変。
忘れてた。
おやかた様に暴れて来いってゆわれちゃってるしー。
ご期待には応え無いとー。
やぁ、全然この先の事とか考えてへんねんけど何かしなくちゃねー。

って事でー。


「行ってきます。」
「「「はァ!?」」」


おいこら待て真樹緒!
てめぇどこ行く気だ。
そっちの方向は筆頭がいる方じゃねぇか待て…!
何しに行く気だ…!


ぬ?ちょっとそこまで。


ここから先は俺とこーちゃんの秘密やからどこ行くかは言えやんのやけどー。
別に危ない事はしにいかへんよ。
ちょっと見に行くだけ。
見に行って何か出来る事があったらやってこうかな、って思ってるん。
やから止めないでねー。

ぽかん、って目を見開いてる兄やんらに手を振ってこーちゃんの首につかまった。
俺行くけど、何やまだ明智の光秀さん見つかって無いらしいから兄やんらも気をつけてね!
ここ森の中で安全やと思うけど、よもぎ餅食べて元気つけて備えてなー。


ばーいばーい!!
「おいこら真樹緒!!」
「待てってお前!!!」
「降りて来い真樹緒!!」


「「「お前をここで止めなかったら絶対に俺らが筆頭にブッ飛ばされるんだよ…!!」」」


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兄やんとキネマ主。
日頃キネマ主はお城をうろちょろしているので兵士の皆さんとは顔見知り。
可愛がられてまする。

そんな兄やんらは一時怪我の手当てで陣営に戻っていました。
そんな時にキネマ主がやってきたものだから心臓が止まりそうなほどびっくりしたのです。

次回はやっと政宗様がいる戦場へ。
真中に降り立ったりはしませんが、こーちゃんと一緒に頑張ります。

  

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