「…おやかた様。」
「…うむ?」
「さっちゃんもゆっきーも、行ってもうたね。」
「うむ。」
政宗様やこじゅさんが大変やから、って。
凄い勢いでいくさばに行ってくれたね。
「なぁ、おやかた様。」
「…どうした。」
さっちゃんとゆっきーが走って行った先をじっと見つめて、穴があくほど見つめてからおやかた様を見上げた。
おやかた様の胸にもたれて体重をかけて。
ちょっと子供が甘えるみたいにして見上げたおやかた様は優しく笑ってるん。
俺は胸がきゅうってなって思わずまた目をお庭の方に戻してしまったん。
さっちゃんもゆっきーもおらへんお庭は雪の上にちょっと足跡が残ってるだけで、しーんと静まりかえってる。
さっきまで賑やかやったお部屋も今は俺とおやかた様とこーちゃんがおるだけ。
「…何で、さっちゃんもゆっきーも行ってくれたんやろう。」
俺、さっきからずっと考えてる事があるんおやかた様。
考えても考えてもよう分からへんの。
「ぬん…」
何でな、さっちゃんも、ゆっきーも、おやかた様も。
俺にそんな風に笑ってくれるんやろう。
「おやかた様。」
なぁ、なぁ、おやかた様。
俺のききたい事わかる?
俺が今何考えてるか分かる?
さっちゃんとゆっきーがな、優しくってな、俺何か涙出そうなん。
鼻の奥がつーんってするん。
何でさっちゃんとゆっきー、あんな危ない所に行ってくれたんやろう。
「真樹緒、」
「わからんの。」
「…では真樹緒。」
奥州と甲斐は先立って盟を結んだ故。
佐助も幸村も奮い立っておるとは考えぬか。
「ちがうん…」
もう、おやかた様。
分かってるくせに。
俺の言いたい事分かってるくせに。
そんな意地悪せんとってや。
そんな風に笑わんとってや。
俺、やっぱり目の奥が熱くなる。
心臓がぎゅうってなる。
やっぱり笑ったまんまのおやかた様の胸に頭を擦りつけた。
ぐりぐりぐりぐり。
何てゆうたらええんか分からん俺の気持ち全部がおやかた様に伝わるように。
「真樹緒。」
「はい…」
「答えはお主の中で既に出ているのではないか。」
おやかた様はすごい優しい声で言いながら俺の頭を撫でる。
あ奴らの心は真樹緒もよく知っておろう。
幸村も佐助も己が思うままに為した。
真樹緒も己が思うままに為せばよい。
「考えるなどお主には似合わぬわ。」
「おやかた様…」
おやかた様が俺をひょいっと抱き上げて立たせてくれた。
とん、って足が畳についたと思ったらいつの間にか出てた涙をぬぐわれる。
おやかた様は笑ったまんまでやっぱり優しくって。
「俺な、」
「うむ。」
俺な、さっちゃんやゆっきーはな、同盟とかそんなん関係無く助けてくれたんやと思うん。
何でかはようまだ分からんのやけどちょっと思うんはね、俺二人と友達やんかぁ。
ほら前に甲斐に来た時から。
友達ってな、すごい大切なもんなんやで。
一緒に笑ったらとっても楽しいし、悲しい時かって友達とおったら安心したりするん。
色んな事を話せたりするし、友達だけの秘密とかもあったりね。
そんな時はきっとおやかた様にも政宗様にも秘密なん。
やからやぁ、例えばその友達が困ったりへっこんでたりしたら俺はどうにかして笑って欲しいと思うし、ちょっとでもその困ってるのを助けてあげられたらなぁって思うん。
たとえ何もできへんくってもな、傍におるだけでもだいぶ気持ちも違うと思うん。
「知己とは何物にも代えがたいものよ。」
「うん、」
やからやぁ。
今の、さっちゃんとゆっきーもそうゆうんかなぁって思って。
俺がへっこんでたからかなぁって思って。
そうやったら俺すごく幸せ者やなぁって思って。
何や俺泣いてしまいそうなん。
やって俺、さっちゃんとゆっきーにそんな風にして貰えるほど二人にお返しできてへんねんもん。
「真樹緒、友とは見返りの下にあるものでは無い。」
「おやかた様…」
「大事は心よ。」
言うたであろう。
佐助も幸村も己が思うままに動いたと。
動かしたは心。
お主はそれに応えよ。
真っすぐ、真っすぐおやかた様が俺を見た。
黒い瞳は吸い込まれそうになるぐらい強い。
背筋がきゅっと伸びて頭を金づちで叩かれたような衝撃が走る。
目が突然覚めた様な感覚にびっくりして瞬きをぱちぱち。
気が付いたらいつの間にかお腹がすっきりしてた。
「いつもの様に暴れてみせぬか、真樹緒。」
「ええの…?」
「心のままに。」
胸の辺りを掴んでた手をぎゅう。
心臓がどくどくする。
ええんかな。
俺の思った通りにしてええんかな。
このどきどきはちょっとわくわくに似てる。
「おやかた様。」
「うむ。」
「俺も、ゆっきーやさっちゃんを助けたい。」
政宗様やこじゅさんを助けたい。
いっつも俺の事を考えてくれてる人らなん。
大事にしてくれてる人らなん。
俺の大好きな人らなん。
俺、ここで一人おりたくない。
やぁ、おやかた様とおるんはとっても嬉しいんやけどね。
おやかた様も大好きやねんけどね。
今はほら俺ちょっとゆっきーとかさっちゃんとか政宗様とかこじゅさんが気になっちゃって。
「やから、ちょっと、俺、行ってきます。」
おやかた様に負けへんぐらい真っすぐにおやかた様の目を見た。
やっぱりね、俺何が出来るかまだわからへんけど。
やれる事をやってこようと思うん。
「それでこそ儂の知る真樹緒よ。」
「わぁ…!」
ほんならおやかた様が頭をぐりぐり。
大きな手でぐりぐり。
もう、ほんまつぶれるん違うかっていうぐらいの強さで撫でられて。
やぁ、おやかた様力強い…!
首取れるよ俺!!
「無理はするな。」
「はい。」
「何をすべきか迷う時は己が心に問いかけよ。」
「はい。」
「お主は一人では無い。」
「はい!!」
大丈夫。
俺もう大丈夫!
なんだかとっても大丈夫!
元気でたよ。
安心出来たよ。
やから。
「行ってきますおやかた様!」
「うむ!」
躍進せよ。
おやかた様の首に巻きついてぎゅう。
抱き返してくれるおやかた様の腕の力はすごく強い。
それがとっても嬉しくって俺もまたぎゅう。
ちょっと離れて見えたおやかた様のおでこにちゅうをした。
やぁ、これ行ってきますのちゅう。
待っててねのちゅう。
俺頑張るから、ってお約束のちゅう。
びっくりしてからすぐに笑ってくれたおやかた様に俺も笑って。
「こーちゃん!」
「(しゅた)」
「いくよー!」
「(こくり)」
こーちゃんを呼んで、足元がふわっと浮いたと思ったらもうお屋敷の屋根。
雪の上をこーちゃんが足跡もつけずに飛んでいく。
下を見降ろしたら小さく手を振ってるおやかた様が見えて、こーちゃんの腕の中から思いっきり手を振り返した。
行ってきますおやかた様。
俺、頑張るから。
俺とこーちゃん、ちゃんと政宗様とこじゅさんと、ゆっきーとさっちゃんと一緒に帰ってくるから。
安心してお屋敷で待っててね!
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たまにはキネマ主だって考える、の回でした。
周りの人が自分に優しくって嬉しくって泣きたくなったキネマ主。
しんみりしたものの、おやかた様のお許しが出たので暴れてきます。
わたしおやかた様大好きなんです…!
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