「おやかた様―!!!」
「おお、真樹緒。」


よう参った。
息災か。


「ういうい、俺はとっても元気ですー。」


おやかた様もお久しぶりー。
ごぶさたしてたけどお元気やった?
おやかた様のお部屋の扉をすっぱんって開いて、目の前に座ってるおやかた様に一直線。
「あっ、こら真樹緒!」なんて叫んでるさっちゃんの声も右から左―。
俺はおやかた様に会ったらまっすぐ飛び込んで行こうって決めてたんやからー。


止めないでー。
止まらないからー。


さぁさぁおやかた様!
しっかり俺を受け止めて―。
たくましいその腕で受け止めて―。
俺はゆっきー違うからこぶしで撃ち返したりしないでねー。
お空のかなたへ飛んで行ったら多分帰ってこられへんからー。

足を大きく踏み込んでおやかた様に飛びこんだ。
両手も広げて準備は万端。


「とうっ!!」
「むっ!」


今日は赤いもふもふがないけど、いつも通り素敵なムキムキ筋肉なおやかた様にぎゅっと受け止められてとっても幸せな真樹緒です。
こんにちは!
こーちゃんはやっぱりお屋敷の屋根に行ってもうたから俺一人でこんにちは!


ぬーん。
おやかた様の筋肉はちょっぴり固いけど、こう包みこまれる感じがなんとも言えず気持ちいいっていうかー。
政宗様やこじゅさんとはまた違った抱擁かんー。


「こんにちは、おやかた様。」
「うむ。」


変わらぬ安泰の趣まこと大義なり。
再度に渡る甲斐への来訪、奥州の三傑が腹を痛めておると聞いた。
相変わらずの暴れぶり、何よりぞ。

おやかた様が笑いながら俺の頭をまぜる。
大きなおやかた様の手は俺の頭をすっぽり包んでしまって、俺はぐらぐら。
さすがおやかた様、撫でる力もみんなより強いよねー。
でも程良く力加減してくれてるからすごく気持ちいいですよー。

おじょうず!


「あばれぶり?」


そんな暴れてもおらんと思うんやけどー。
頭をぐらぐら揺らしながらおやかた様のお膝のちょうどいい所を探した。
ごつっとしたおやかた様のお膝はとっても広いからいいところを見つけるのが大変なん。
右のふとももにしようかなー、あぐらの上にしようかなー、左の方が安定するかしらー。

ではでは、ここ。
ここがじゃすとふぃっと。
すっぽり俺のおしりが落ち着くん。
おやかた様の右のふとももにしましょー。
よっこいせー。


「三傑を翻弄しているそうではないか。」
「さんけつ?」
「伊達成実殿の事にござる。」
「ああおシゲちゃん!」


おやかた様の前でにこにこ笑って俺を見守ってくれてたゆっきーが、やっぱり笑いながら俺を見て言う。
あー、そういえば北条のじいちゃんもそんな事ゆうてたかもー。
さんけつ。
確かおシゲちゃんと鬼さんとこじゅさんやんね。
さんけつ。


でもおシゲちゃんにはちゃんと甲斐へ行くってゆうてきたよ?
前みたいにこっそりお城出て来た訳やないし、心配してへんと思うんやけど。


返事は聞いてないんでしょ。
それを言われちゃうとー。


お耳が痛いん。

やぁ、ほら。
前よりは大丈夫やってきっと!
ちょっと政宗様らのとこ覗いたらすぐ帰るつもりやし!
おシゲちゃんの頭にツノがにょっきり伸びるまでにはお城に戻るつもりやで!
ほら大丈夫!


もうすでに伸びてると思うけど。


伊達さんの角。


ぬーん…
「はっはっはっ!!!」


道理よの。

おやかた様が大きな声で笑う。
愛されておるの!って笑う。


やーやー、おやかた様。
そんな楽しそうに笑わないで。
おシゲちゃん怒ったらちょう怖いんやから!
普段はとっても優しい奥州のお母さんは怒ったらようしゃないんやで!
やからなるべく早く戻るつもりやけど…


「おやかた様、」
「なんぞ。」
「政宗様が今何してるか分かったってほんま?」


さっちゃんに聞いたんやけど。
おやかた様とのご挨拶に夢中になってうっかり忘れるとこやったん。
おやかた様のお顔を覗き込んで首を傾げた。
俺のほっぺたをゆるゆる撫でてくれてるおやかた様は目をちょっと大きくしたあと、頷いて。


「おお、そうよ。」


今川へ放っておった忍が戻って来てな。
伊達のの現状が分かった。
真樹緒が何やら伊達のの戦陣へ行くと言って聞かぬと幸村が申した故、呼んだのよ。
どうじゃ、少しは落ち着いたか。


俺と目の高さを合わせておやかた様が優しく笑う。
さっきみたいに「はっはっはっ!」ってゆうんやなくてにっこりって笑う。
赤ちゃんをあやすみたいに柔らかい声で。


「ういうい、」


俺は全然大丈夫―。
さっちゃんやゆっきーに行ったらあかんって止められてたしねー。
やぁ、ほんまはまだ行きたい気持ちは盛りだくさんなんやけど流石に甲斐のお母さんまで怒らせられないわー。
やから政宗様の事教えてほしいん。


「おやかた様。」


お願い、っておやかた様の目を見たら力強いおやかた様の目も俺をじっと見てた。
黒い目に俺が映ってるんが分かって目をぱちぱち。
それでも逸らさんように見つめて。


なぁ、なぁ、おやかた様。
戦してるんやろう?政宗様。
怪我とかしてへんかった?
元気やった?
こじゅさんはどう?


政宗様の背中を守ってくれるってゆうてたんやけどね、俺としてはこじゅさんの背中も心配ってゆうか。
できたら二人とも怪我とかせんと帰って来てほしいねんけどやぁ。
政宗様って結構れっつぱーりーやから。
わき目も振らずにまっすぐいっちゃうから。

ちゃんと自分の目で確かめやなまだまだ不安なんよねー。
考えてたらちょっとしょんぼりしてもうておやかた様から目をそらす。
お膝の上でもぞもぞしながらぎゅ、っておやかた様の着物を掴んだ。


「幸村。」
「は、」


ほんなら「お聞き下され真樹緒殿」ってゆっきーが。


「政宗殿は只今浅井軍と交戦中にござる。」
「あざいぐん…」


今川領に結集していた浅井軍へ伊達軍が進軍、戦が始まりました。
浅井軍の大将の姿が見えず政宗殿は奔走された様子。
しかし勢いは伊達軍が優勢、見事浅井の兵を蹴散らし浅井陣営へと迫る刹那。


「背後から鉄砲隊の急襲により陣が崩れた様です。」


真剣なゆっきーの目が俺とかちあった。

俺はきゅうしゅうの意味が分からんくって。
でも、何や大変な事なんやろうって思って。
おやかた様の着物を握る手がこわばって、おやかた様にその手を撫でられる。
「真樹緒」って優しく呼ぶ声はとっても俺を安心させてくれるんやけど、お腹にできたもやもやが何や重い。


「鉄砲隊は今まで姿を見せていなかった明智軍だったよ。」


けど、流石は独眼竜。
奇襲に備えて兵は配置してあったからね、被害は少ない。
ただ数が多すぎて手に余る状態みたいだ。
独眼竜の旦那は長期戦のつもりはないだろうし、夜戦はもっての他。
きっと苛々しているんだろうなと思うんだけどそんな時に。


「浅井長政が先陣に出現。」
「あざいながまささん…?」
「浅井軍の総大将にござる。」
「明智光秀の姿は未だ見えぬようじゃ。」


今分かっているのはこれぐらいだよ、ってさっちゃんとゆっきーが俺を見る。


おやかた様はやっぱり優しく俺の頭を撫でて。
ぬう。
でも俺はお腹がもやもや。

やってやで、俺が名探偵真樹緒で調べたんって明智の光秀さんやんか。
浅井長政さんなんておるん知らんかったから全然調べてないん。
大将って一番強い人の事なんやろう?
そりゃあ政宗様も強いん知ってるけど、後から明智の光秀さんも出てくるかもしらんのやろう?

強い人が二人もおったら大変やと思うん。
こじゅさんも、強いけどやぁ。
…お腹が苦しいん。


「苦戦よのう。」
「伊達が先陣きってる以上、俺様達が勝手に手出しなんて出来ないし。」


ってか、勝手に助けに行ったらそれこそ余計な事するなって怒りそう。


「むぅ…」


それは、
それは俺もちょっと思う。

政宗様にはプライドがあるん。
それは分かるん。
でも、でも…


「これで伊達の使者でも来て援軍要請でもしてくれれば胸張って混ざれるんだけど。」
「政宗殿の自負心に限ってその様な事は致されまい。」
「だよねー。」


おやかた様の広い胸にもたれて体をきゅ、って丸める。
もたれて顔をぐりぐり擦りつけた。

なぁ、なぁ、おやかた様。
俺くるしい。

さっちゃんとゆっきーの声はさっきみたいに重たいもん違うから俺がそんな心配とかせんでもええんやろうな、って思うんやけど。
思うんやけど。
おやかた様のお膝はすごい安心するんやけど。


政宗様がぴんちなん。
大変なん。


「…使者ならおるではないか。」
「えっ?」
「お館様?」


わからぬか。
主らの目の前ぞ。


「ほれ、ここに。」


使者として伊達のへ最も影響力且つ説伏力のある者が。


「………ぬ?」


へ?
おれ?


「おお…確かに!!」
「なるほど流石大将!!」


さっちゃんが手をぽん、って叩いてゆっきーが立ち上がった。

俺はその声にびっくりして丸まってたおやかた様の胸から顔を上げる。
顔を上げてきょとん。
やって、何かゆっきーとさっちゃんが嬉しそうで。
楽しそうで。
政宗様がぴんちやのに。


「真樹緒!」
「…さっちゃん?」
「今から俺様が言う事をよく聞いて、しっかり頷くんだよ。」
「うなづくん?」


なんで?
何かあるん?


「政宗殿の大事に関わる事故、」


佐助の言う通りに。


ゆっきーが俺の目の前に来て俺の顔を覗き込んだ。
覗き込んでおやかた様にうもれてた俺のほっぺたを撫でる。
大丈夫です、安心なさいませ。
優しいイケメン笑顔は俺の体からすっかり力を抜いてしまって。
政宗様を助けられるかもしれへん、ってゆっきーが言うん。


「…なん?」

「あのね、今独眼竜の旦那と右目さん、今川で戦ってるけどちょっと手古摺ってるでしょう?」

「うん、」


挟み撃ちにされて身動きとれてないんだよ。
ほら、心配だよね真樹緒。


「うん。」


でも独眼竜の旦那って自負とか誇りとかやたらでっかくて自分から助けてくれって言わないのは分かる?
結構面倒くさい性格してるお方だろう?


「ぬん…そうやねぇ。」
「だろ?」


だからね、そんな困った独眼竜の所に俺様達が援護に行くには真樹緒が頷くしかないんだよ。
俺様達今川に行ってもいいよね?
はいほら、うんって言ってごらん。


「ぬん…?」


やぁ、どうも今ぴんちな政宗様を助けられるみたいやねんけど。
何で政宗様を助けられるんかを、さっちゃんがすごい勢いで説明してくれたんやけど。


……
………


あれ、俺少しも分かって無い何で…!


「さっちゃんとゆっきー、俺がうんって言うたら政宗様を助けてくれるん?」

「そう。」
「全力で。」


まじで…!!
何で!!


「何ででも。」


だからほら早く、ってさっちゃんが俺をせかす。

俺は急に何でこんな事になったんか分からんくて、目がきょろきょろ。
首をひねってもやっぱり分からんし。
おやかた様、って助けを求めてみたらおやかた様がにっこり笑いながら大きく頷くん。

ぬん…
これはあれかな。
さっちゃんの言う通りにしといたらいいよ、っていうにっこりかな。
背中撫でてくれる手も優しいし。
任せといたらいいよっていう事かな。


「やぁ、ほんなら…」


お願いします。
ぺこってさっちゃんとゆっきーに頭を下げた。


よろしくお願いします。
政宗様とこじゅさんをお願いします。
大事な大事な人らなん。
怪我したりするん嫌なん。

顔を上げたらそこにはゆっきーとさっちゃんが笑ってて。


「では、お館様。」
「うむ。」
「ゆっき?」
「真樹緒殿、お聞き下され。」
「うい?」


真田幸村、並びに猿飛佐助率いる真田忍隊は伊達からの使者真樹緒殿の正式なる希求の元、その力を浅井明智戦総大将伊達政宗殿にお預け申す。


「どうぞ安心してお待ち下さいませ。」
「すぐに独眼竜を連れて来てあげるから。」
「ゆっきー、さっちゃん…」


俺の目を見て、俺の頭を撫でて、ゆっきーとさっちゃんが笑った。
俺様達が行くんだから何が何でも独眼竜には無事で戻って来てもらうから。
無論、傷一つとて負って頂かぬつもりよ。
そんな事を言いながら笑うから俺のもやもやしてたお腹がいつの間にか軽くなって。
思わず俺のほっぺたも緩んでしまう。


「幸村、佐助。」
「「はっ、」」
「ゆめゆめ侮るな。」


相手は死神ぞ。


「承知!」
「了解、ってね!」


お部屋を出て行くさっちゃんとゆっきーが手を振ってくれた。
ちゃんと待ってるんだよ!って叫びながら。
その背中がすごい頼もしい。
ほんで俺のお腹が今度はじわじわあったかくなる。
さっちゃんもゆっきーも、おやかた様も優しくて目の奥も熱くなる。
つーんてこみあげてくる何かを我慢して俺も手を振り返した。


「大将!くれぐれも真樹緒から目ぇ離さないでよ!」
「待っていて下され真樹緒殿ぉぉぉ!」
「さっちゃーん!ゆっきー!ありがとー!」


ほんまにありがとー!!
俺うれしいー!
でもやっぱり気をつけてねー!
俺、さっちゃんやゆっきーが怪我するんも嫌なんやでー!


---------


お館様がダディのようだ。
わたしお館様が大好きです…!
キネマ主もお館様が大好きです。

さてさて。
キネマ主が動く準備がやっとできました。
じっとしておきなよ、と言われたもののおとなしくしているキネマ主では無いので。
これから山場です。

明智さんの出番もやっとこ。
そんな事を言って次々回かもしれないのですが(汗)

それでは!
甲斐も奥州も今川も残雪のこる初春ですよは合言葉!
七月ですがよろしくお願いいたします。

  

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