「さっちゃーん。」
「んー?」
なぁに。
おかわり?
「んーん、もうお腹はいっぱいなんやけどー。」
俺、こんな大事な時にのほほんとおそば食べてる場合や無いと思うん。
どうもー。
政宗様らを見に行こうと思ってたのに、さっちゃんやゆっきーらに止められてどうにも身動きが出来なくなってしまった真樹緒ですー。
政宗様が戦を始めたらしくって、俺としてはいてもたってもいられへんねんけどやぁ。
俺がそわそわしてたところにすかさずさっちゃんが「真樹緒お腹空いてない?」なんていい匂いをさせて温かいおそばを運んで来てくれて思わずお腹がぐーって鳴ってしまったん。
あれはちょっと恥ずかしかったー。
ゆっきーがおやかた様とお話中やから、こーちゃんとさっちゃんと三人でおそばいただきました真樹緒です。
こんにちは!!
「こんな時こそしっかり食べるんだよ。」
「ぬ?」
どうせ真樹緒は奥州を出る時、何も食べてこなかったんだろう?
独眼竜の事が気になって。
駄目駄目。
そんなんじゃあ仕舞に倒れるよ。
言いながらさっちゃんが笑う。
甲斐に来たからには来る前よりも肥えて帰んなさいね。
甲斐にだって美味しいもの沢山あるんだから。
何て言いながら笑う。
やぁ、そりゃあ朝から何にも食べてへんくってヘリハラやったけどー。
よもぎ餅しか食べてへんかったけどー。
おそばはおいしく頂いたけどー。
やっぱり政宗様は気になるっていうか!
あ、でもおそばはおあげと山菜が乗っててちょうおいしかったん。
ごちそうさまー。
「お粗末さま。」
さっちゃんに空のお椀を渡して代わりにあつあつのお茶を受け取った。
ぬーん。
いたれりつくせり、さすがさっちゃん甲斐のおかあさんー。
俺ほんまもう、ここのおうちの子になった気分。
ゆっきーは幸せやねぇ。
お料理上手で気配り上手なお母さんがおって!
でもおシゲちゃんかってお料理もじょうずやし優しいねんで!
たまにちょう怖いけど!!
「いつもは優しいお母さんやでな、こーちゃん。」
「(こくり)」
なー。
俺らのお母さんやもんなー。
「あ、でもさっちゃん。」
「うん?」
そう言えば。
よう俺が朝から何も食べてへんって分かったねぇ。
よもぎ餅だけやって分かったねぇ。
何にも言うてへんかったのに。
俺の知らんところでお腹鳴ったりしてたんやろうか。
ほら、さっちゃんお忍びさんやから耳よさそうやし。
「甲斐のお母さんは何でも知ってるんだよ。」
耳もいいけど。
「まじで!!」
「まじで。」
すごい。
甲斐のお母さんすごい。
てかさっちゃんすごい!
俺のへりはら具合が分かるなんて!
すごい!
「ありがと。」
はい、じゃあゆっくりしてなさいねーなんて素敵笑顔でお椀を下げてお部屋を出ていくさっちゃんはおやかた様とゆっきーと大事なお話があるんやって。
政宗様らが今どんな状態なんかを調べてくれてるみたい。
ぬう、俺自分で見に行くのに。
自分で陣営行って聞くのに。
言うたら優しいお母さんなさっちゃんがとたんに鬼のようになってしまうから言わんけどー。
「すぐ戻るから。」
「いってらっしゃーい。」
ひらひら手を振ってくれたさっちゃんに俺も手を振り返した。
部屋を出る間際に「こっそり屋敷を出ようとしても分かるからね」って釘を指したさっちゃんがすでにちょびっと鬼みたいやったんは内緒です。
にこにこイケメンスマイルやったけど何や背後に鬼がおったよ。
ぬー。
甲斐のお母さんも怒ったらちょう怖いん。
「これやったらほんまにお出かけできやんねぇ。」
「(?)」
「こっそり出ても分かるねんて。」
さっちゃんがおらんようになったら広いお部屋にこーちゃんとふたりぼっち。
お茶を飲みながらどないしようかーってお部屋の中をきょろきょろ見渡してみる。
相変わらずきれいなお部屋ー。
あの壺絶対高いよね。
かけじくもプロが書いたっぽいよね。
畳がいいにおいよね。
お庭はまだまだ雪景色やけど、絵になるしー。
あれだけきれいに雪積もってたらさすがに雪合戦でぐちゃぐちゃにしようとは思わんよねー。
ぐるっと一通り見渡したらこーちゃんと目が合った。
「どうしようか、こーちゃん。」
「(…、)」
お腹いっぱいになって力はすごいみなぎってるんやけど、外出禁止令が出てしまったよ。
政宗様を見に行きたいのは山々やねんけど、ここでお約束破るんもなー。
さっちゃんに怒られてしまうし。
ぬ?
おシゲちゃんのあれは別にお約束破った訳や無いよ。
ほら、俺ちゃんと行き先ゆうてきたし。
明智の光秀さんに近づくつもりもないし。
ほら。
セーフ…!
お返事は聞いてないけど。
でもギリギリセーフ!
「(ちょいちょい)」
「ぬ?」
じ、っとこーちゃん見上げてたらこーちゃんも腕組んで考えてくれてて、何かを思いついたんか俺の着物をちょいちょいって引っ張るん。
うん?
どうしたんこーちゃん。
何かええ考えみつかった?
さっちゃんやゆっきーに怒られやんと政宗様の陣営こっそり見に行く方法。
そのまま見つめてたらこーちゃんが懐からしゅばっと。
「…ぬ?」
しゅばっとクナイを。
「あれ?」
あれクナイ?
何でクナイ?
こーちゃんそのクナイどないするん?
「(…)」
シュッ
「なげるん!?」
ええ何で!
ええまじで!
ええこーちゃん!?
しかもそんな天井裏に!
そこ多分甲斐のお忍びさんがおるところやで!
これ以上甲斐のお忍びさんに怪我させたら流石に怒られてしまうよ!
…ストップこーちゃん…!!
シュッシュッシュッ
「ふえた…!」
こーちゃぁぁぁぁん…!
よそ様のおうちでそれはやったらあかんと思う俺…!
ただでさえ来た時お忍びさんを一人こんがり焼いてしまってるのに…!
ストップってゆうてるのに!
こーちゃんの背中にぺそっとくっついてクナイを投げるの止めようと思うんやけど、どうにもこうにもこーちゃんが素敵に力持ちやから止めれるはずも無くて。
天井がクナイでいっぱい。
右へ左へ、上におるお忍びさんが移動してるんか分からんけどどんどん天井にクナイが。
ぬん…
これさっちゃんに怒られるんちゃうん…!
やって天井にちょうクナイ!!
「あ、ちょっとあんた何してくれてるの!」
「(しゅっ)」
「あっぶね!!」
「さっちゃん!」
俺が結構オロオロしてたらさっちゃんが。
さっき出て行ったばっかりのさっちゃんが扉をスパンって。
やぁ、スパンって開いたらこーちゃんにクナイ投げられてんけど。
さっちゃんもお忍びさんやからばっちりキャッチしてたよすごい!
俺、いつ投げたのか分からんかったのに。
やっぱりすごいねお忍びさん!
「やぁやぁ、さっちゃんお早いお帰りでー。」
ほんま抜け出す暇も無かったねぇ。
何やこーちゃんがええ考え思いついたらしかったんやけど。
思いついてクナイを天井にしゅばばばばって投げてんけど。
さっちゃん戻ってくるん早すぎなん。
「うちの忍をヤってから行くつもりってか。」
「(つーん)」
真樹緒、真樹緒のこーちゃん本当真樹緒以外には凄く伝説だよね。
本当、もうさっちゃん涙出そう。
間違っても悲しいからじゃないよ。
いっそ清々しくてさ。
「こーちゃんはこーちゃんやで?」
「真樹緒の前でだけね。」
「ぬ?」
さっちゃんが息を吐いて俺の頭を撫でる。
頭を撫でて「大将がお呼びだよ」って。
「おやかた様!!」
「独眼竜の事も気になるんでしょ。」
「え、政宗様の事何か分かったん?」
「ふふ。」
うちの忍隊も中々やるのよ。
片目をぱちん、ってウインクしたさっちゃんは得意げに笑って「早くおいで」って俺の手を引いてくれた。
手ぇ引いてちら、ってこーちゃんの方見たさっちゃんが笑ったん。
ほんならこーちゃんがまたクナイを振りかぶってしもうたんやけど、そこはちゃんと止めておきました!
やって何や投げるんやなくてこーちゃん本気でさっちゃんの手ぇ突き刺しそうな勢いやったから!
そこはね、こーちゃんのお婿さんとしてはね、お嫁さんが危険な事してたら止めやなあかんやん?
おしゅうとめさんとの仲は良い方がええやん?
だんな様も結構たいへんなんやで!
「こんな可愛い旦那様だったら俺様も欲しいなー。」
「さっちゃんはいいお母さんやけど、いいお嫁さんにもなると思うよ?」
俺やなくっても、お嫁に貰ってくれるひといっぱいおるんちがう?
ほら、ゆっきーとか。
おやかた様とか。
「えー、俺様真樹緒のお嫁さんがいい。」
だめ?なんて俺を覗きこんでくるさっちゃんがちょう可愛いくて俺はちょっぴりどきどき。
やだわさっちゃん。
そんな目で見られたら俺の胸がきゅんってするじゃないー。
「ぬー…」
でもそんな事ゆうてもー。
俺にはこーちゃんおるしー。
うわきはあかんしー。
やぁ、さっちゃんの事は大好きやで?
でもやっぱりお嫁さんはこーちゃんやと思うん。
「なら俺様真樹緒のお婿さんになろうかなー。」
「(しゅっ!)」
「はいはい、分かった分かった。」
カキン!
本当もう、分かりやすいねあんた…!
-----------
やっぱり蕎麦食べてました(笑)
甲斐のお母さんはあわよくばお嫁さんポジションを狙っています。
でもきっと小太郎さんがそうはさせませんね。
私的にキネマ主の旦那なイメージは今のところ誰でもありません。
政宗様は旦那というより「すっごい大事な人大好きな人」です。
でもキネマ主はみんなの事が大好きなので、嫁やらお母さんやら言っていますがその関係性の間の「大好き」に差はないのです。
まだまだお子様キネマ主。
でも実は16歳なんですよ…!
10歳ぐらいに見えても16歳なんですよ!
←book top
←キネマ目次
←top