「はいこれお土産―。」
よもぎ餅。
うちの女中さんの手作りやねんでー。
よかったらおやかた様とゆっきーとさっちゃんでたべて。
中はつぶあんでとってもおいしいから!
「あらあら、ご丁寧にどうも。」
こーちゃんと二人、急ぎ足でやってきた甲斐は前に来た時と変わらず自然がいっぱいの素敵なところでした。
さっちゃんもゆっきーも元気でなによりー。
後でおやかた様にもご挨拶に行かせてなー。
やっぱり奥州とおんなじでお屋敷やお山には雪が残ってて寒いけど、さっちゃんがあったかいお茶を出してくれたので身も心もほっかほかです真樹緒ですこんにちは!
ぬくぬく。
やけどせんように気をつけやなねー。
あ、こーちゃん?
こーちゃんはお屋敷の屋根で見張りしてくれてるん。
一緒にご挨拶できやんでごめんなさいねー。
でも俺とこーちゃんの気持ちはいつでも一つやから俺のご挨拶で許してねー。
ではではもう一回真樹緒ですよこんにちは!!
「それにしても急だったねぇ。」
書ぐらい出してくれたら迎えに行ったのに。
それでなくてもお持て成しの用意とか色々あるんだから。
お久しぶりにも関わらず甲斐のお母さんの本領発揮なさっちゃんは、ため息吐きながらよもぎ餅のつつみを受け取ってくれたん。
ぬー。
やぁ、やって。
今回はこっそりお忍び旅行なんやもん。
そりゃぁ怒られるからおシゲちゃんには言うてきたけど。
ほんまやったらそのおシゲちゃんにも秘密にしときたかったんやで。
心配するから。
「……言ってよく城を出れたね。」
さっちゃんが複雑そうな顔で俺を見た。
うん?
何で。
「だって、」
今甲斐の西で何が起こってるか知らない訳じゃないよね。
先に戦陣を張った独眼竜の旦那が明智光秀を焙り出そうと躍起になってるところだよ。
言っとくけどこことそう距離は無いんだよ。
何でか浅井軍までやってきちゃって、大将だって穏やかじゃないんだから。
…まぁ、恐らく徳川への牽制なんだろうけれど。
こっちの連盟にも中々応えてくれないしねぇ。
それにしたって、甲斐が緊縮しているのは変わりない。
あの伊達さんがそんな甲斐に真樹緒を送るはずないのに。
「お返事聞く前にこーちゃんが素敵にお空を駆け抜けたん。」
しゅんそく。
こーちゃんちょうしゅんそく。
さすが俺のこーちゃん!
足めっさ早いねんでー。
……
………
「うっわぁ、俺様今度こそ成実さんに斬られるんじゃないの。」
俺様何にも悪く無いのに。
「ぬ?」
「佐助は以前真樹緒殿を甲斐までお連れした折、後日伊達成実殿から諫言を頂いておりました故。」
「かんげん?」
難しい顔で頭をかかえたさっちゃんの隣で、ゆっきーがいつもの素敵スマイルで俺を見た。
えー?
ゆっきー、かんげんって何の事?
さっちゃんとおシゲちゃん会った事あったっけ?
知り合い?
ずず、っとお茶を飲んで首を傾げてみるけどゆっきーは笑ったまんまで。
「佐助、頂いた餅を頂こうぞ。」なーんて言いながらさっちゃんがいれてくれたおいしーお茶を飲んでるん。
何やお久しぶりやから余計に笑顔が眩しい!!
男前!!
「真樹緒が甲斐に来た時、」
「うい?」
「連れてきたのは俺でしょ?」
「うい。」
さっちゃんがちら、って俺を見ながら言う。
手はよもぎ餅の包みを開いたり小皿を用意したり忙しなく動いてるところが甲斐のお母さんー。
すごい!
「ひょっこりさっちゃん現れたよね。」
あの時。
一体どうやってお城を抜けだそうかと思ってたらさっちゃんが来てくれてー、だっこして運んでもらったんよねー。
ほんまあの時はありがと。
俺こーちゃんの事とかこじゅさんの事とか政宗様の事、どうしようかと思ってたから。
「それで真樹緒が奥州に帰った後に書状が届いてね。」
「宛名は佐助でござった。」
「おシゲちゃんがさっちゃんにお手紙…」
へー。
お手紙。
あれやろうか。
おシゲちゃんからもありがとうのお手紙やろうか。
「まさか。」
「ぬ?」
「『勝手に人ん家の子を攫ってどういうつもり。俺を怒らせないでくれる。次は無いよ。』と、簡単に要約しますればそのような内容で。」
「おお…」
おシゲちゃんいつの間に。
いつの間にそんな恐ろしいお手紙をさっちゃんに…!
俺とってもお世話になったんやで甲斐のお母さんに…!!
攫われた訳やないねんで!
「大丈夫やでさっちゃん!」
俺、ちゃんとおシゲちゃんにゆうとくから!
さっちゃんは悪く無いんやでーって。
俺が連れてってってお願いししたんやでーって。
しょんぼりしてるさっちゃんの背中をぺんぺん叩いて励ましてみる。
おシゲちゃんは怒ったら怖いけど、ちゃんと謝ったら許してくれるし。
ほんまは優しいから!
「……ありがと。」
「ぬん!」
ちょっぴり元気が無かったけど、さっちゃんはちゃんとお返事してくれました!
大丈夫さっちゃんまかせて。
俺誤解を解いてみせるから!
「あ、それでやぁ。」
そうそう、あんな。
ちょっと聞きたい事あったん。
湯のみを置いて手をぽん、っと叩いてさっちゃんとゆっきーを見た。
さっちゃんがよもぎ餅くれたからそれもちゃんと受け取りながらねー。
なぁなぁ、さっちゃん。
なぁなぁ、ゆっきー。
知ってたら教えてほしいんやけど。
「うん?」
「いかがされました。」
「政宗様ってどこらへんに陣営張ってるか分かる?」
聞いたららゆっきーもさっちゃんも目をぱちぱち。
びっくりしたみたいに目を見開いて俺を見るん。
あれ?
言うてなかった?
こっそりお忍び旅行の目的はさっちゃんやゆっきーらとの再会とー、政宗様が戦で怪我とかせぇへんかなーって見に行く事やってんで。
「いやいやいやいや、」
何言ってるのこの子は。
伊達さんの件で嫌な予感はしてたけれども。
突然やって来たからどこかでそんな予感してたけれども。
何するって。
戦おっぱじめようとしてる所へ行くって?
あはは面白い冗談だね笑えない。
甲斐のお母さんはそんな事許しません。
「ぬ?」
「急な御来訪、もしやと思いましたが。」
やはり。
ゆっきーが小さく息を吐いてさっちゃんがちょう怖い顔になって。
俺はそれが何でか分からんくって首をひねる。
じっと見られるから何だか気まずくて残ってた湯のみのお茶を飲み干した。
ちょっと温くなったお茶はゆっくり喉を通って気持ちいいん。
ほっと一息ついてもう一回見上げても、さっちゃんの顔は怖いまんま。
…ぬう。
そんなに怒らんでもええのに。
別に戦に乗り込んで行こうってゆうつもり無いのに。
メインはあれやで、さっちゃんらとゆっきーらとの再会やねんで。
ぶう、って口をとんがらせたらゆっきーが笑いながら俺の頭を撫でた。
「心掛かりにござる故。」
佐助も某も。
「へ…?」
真樹緒殿はいつも前を向き己を曲げず進んで行かれる方、その信条は某、敬すべき事と存じます。
しかし、時に無茶をなされましょう。
本日はかの伝説の忍を伴っておられますが、戦場は血と血が飛び交い刃がかち合う場所。
そのような所に真樹緒殿を容易くやれる程、某も佐助も懐は大きくありませぬ。
「心配しておりまする。」
「ゆっきー…」
政宗殿も、真樹緒殿が奥州で己の無事を祈っていると信じて戦に臨まれるはず。
戦場にて真樹緒殿の姿をご覧になれば、どれほど心が騒ぐ事でしょう。
どうかここはこの甲斐でゆるりと寛がれますよう、間違っても今川などに赴かれませんよう、お願い申し上げます。
ゆっきーがゆうるく俺の頭を撫でて、ほっぺたを撫でて、宥めるように笑う。
言い聞かせるような声はとっても優しいん。
……
………
優しいんやけど。
「ぬん…」
あれ…
あれゆっきー。
ゆっきーが俺の事ちょう心配してくれてるんは分かるんやで。
でも何で笑顔?
何でそんなイイ笑顔?
ほんでやっぱりさっちゃんと同じでちょっと怖いのは何で…!?
やぁ俺、やからこっそり行くつもりなんやけど…
「真樹緒。」
「真樹緒殿。」
「はい…」
「「返事は(を)。」」
「はあい…」
せっかくおシゲちゃんってゆー強敵から逃げ切ってきたのに、逃げ切った先にはもっともっと強敵がいました。
どうにもこうにも俺のお願いが叶うような気がしません。
ちくちくちくちく甲斐のお母さんと、意外にもお兄ちゃんゆっきーの視線がちょう痛いです…!
ゆっきー、こんな時だけお兄ちゃんになるとかずるい…!
いっつもやったら俺と一緒にのほほんとお菓子食べるのに!!
俺がじぃ、ってさっちゃんとゆっきーを見上げた時やった。
「(しゅた)」
「こーちゃん?」
こーちゃんがお屋敷の屋根から下りてきて俺のお隣に寄り添って。
それと同時ぐらいにさっちゃんのお忍びさんがお部屋に現れたのは。
「長!報告いたします!」
たった今、未の刻より今川領南から伊達軍の鬨が上がりました。
そのまま進軍し浅井軍と開戦、明智光秀の姿は未だ見えません!
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幸村さんと佐助さんが怖いのは愛ゆえです。
キネマ主が無茶しそうでドキドキソワソワ。
稲荷の幸村さんは何だか煩いイケメンですが、キネマの幸村さんはちょっと灰色っぽいかもしれない…
そんなつもりはないのですけれど(汗)
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