「こーじゅさーん!」


あれから。
おシゲちゃんとこーちゃんにたっぷり「明智の光秀さんの脅威」を繰り返し説明されて、今にも耳にタコが出来そうな耳をさすりながらてくてく。
「絶対変な事考えないでよ」って念を押されてやっと縁側を抜け出してきた真樹緒ですこんにちは!


今はこじゅさんを探しながらお城へ向かってますー。
やぁ、こーちゃんもおシゲちゃんも怖いでなー。
もう勝手に城を出るんじゃないよ、って俺を睨むんやで。
お約束だよって睨むんやで。
ちゃんとお約束してお返事しやんと行かせてくれやんかったんやで。

もー。
ほんと信用無いねんから。

前科がある俺が言うのも何やけど、もうあんな事せぇへんよ!
ほらあの時は政宗様やこじゅさんこーちゃんの一大事やったからこっそり出ただけで。
次もしお城出る事態になったらちゃんと言うてから行くから大丈夫。
まかせて。
行動力は結構ある方やから!


「こーじゅさーん!」


道場の近くの廊下からお屋敷に上がってお城の方へ。
朝から雑巾がけした廊下はぴっかぴかで走るとするっと滑りそうやけど、そこは気をつけて急ぎ足なん。
ほんまは廊下走ったらこじゅさんに怒られるんやけどほら今は急いでるから!

こじゅさんに明智の光秀さん情報を聞かなあかんし、こじゅさんの素敵な背中を見つけたらつぐに飛びこんで行かなあかんし!


「こーじゅさーん。」


名前呼びながらきょろきょろ。
今やったらお部屋かなー。
お部屋でお仕事中かなー。
でももしかしたら政宗様のとこかもしれへんよね。
今川さんとこの事でお話ししてるかも。
むむ、それやったら大変やで。
名探偵真樹緒の「政宗様には秘密、明智の光秀さん大究明☆第一段」が政宗様にばれてしまうやん。

大変。
ちょう大変。
政宗様をどっきりさせるとゆー、壮大な俺の計画が!


「いそげいそげ。」


誰も見てへんよねー、ってきょろっと辺りをうかがってから駆け足。
なるべく足音は立てずに駆け足。
お仕事中の女中さんのお邪魔にならんようにね。
でも角を曲がったとこでぶつかりそうになってやぁ。


「ごめんなさいー。」
「いえいえ、こちらこそ前を見ておらず。」


申し訳ありません、ってお互いぺこっと頭下げて笑う。
そう言えば女中さんはこじゅさんのお部屋の方からやってきてて、こじゅさん見た?って聞いてみた。


「ご自室にいらっしゃいましたよ。」


そしたらにっこり笑って頭を撫でてくれたん。
女中さんによるとなー、こじゅさんお部屋で何や書類読んでたんやって。


お茶をお入れしましょうかと申し上げたのですけれど、構わないとおっしゃられて。
朝から随分詰めておられるご様子。
あのままでは片倉様の眉間の皺がさらに深くなってしまわれましょう。
一息ついて頂きたいのですが。


ため息吐きながらちらっと意味深に俺を見る女中さんはやっぱり笑顔で「そう言えば昨日南蛮からの菓子が手に入りまして」なんて思わせ振りに。


真樹緒様。
…ぬん。


この後少しお暇がございますか、って楽しそうな女中さんは俺の目線までかがんで。


「片倉様とお茶に致しません?」


そんな事ゆうん。

むう。
お茶とお菓子やて。
しかもきっと甘くておいしい南蛮の。


………とっても魅力的なお誘いに、さっき干し柿食べたことを忘れてしまいそうでどうしよう…!
あんまりおやつ食べ過ぎたら怒られてしまうのに!
やぁ、ほら。
晩御飯食べられへんようになるから。


「真樹緒様。」
「…はい、」


けどやっぱり南蛮のお菓子の魅力と女中さんの逆らえない素敵スマイルに負けて思わず首を立てに振ったら、女中さんは「後程お持ち致します」って楽しげに廊下を去って行きました。
「ほほ、片倉様は真樹緒様に弱うございますから。」って颯爽と廊下を去って行きました。

奥州の女中さんは武将さんよりも強いん違うかなーってたまに思ったりする真樹緒です!
うきうきした背中が何だか頼もしい…!


「やー、でも南蛮のお菓子は楽しみー。」


カステラかなー、ぼうろかなー、金平糖かなー。
満足げな女中さんの背中を見送ってこじゅさんのお部屋を目指す。
さっきよりもちょっぴりスピードアップやで。
近道にこっそり廊下を飛び越えたりしてね!
こっそりやでこっそり。
ばれたら怒られてしまうから!
主にこじゅさんや奥州のお母さんに!


「こーじゅさーん!」


たどり着いたこじゅさんのお部屋は障子が少し開いてて、その隙間からひょっこり中を覗いた。
お仕事中にお邪魔したらあかんからなー。
そおっとね。


やぁ、俺思いっきり名前叫んでもたけど!
テンションが上がっただけやから許してね!

覗いた隙間からはこじゅさんの胡座組んだ足が見えてもう一回小さい声で「こじゅさん」って呼んでみる。
ほんならこじゅさんもうこっち見てて。


「どうした真樹緒。」


政宗様なら自室におられるぞって、笑って。
まるで俺がやってくるんを知ってたみたいにグッドタイミングでこっち見てて、鬼さんが言うたんの同じ事言うん。

やぁ、何こじゅさんまでそんな微笑ましげな顔でー。
まぶしい笑顔でー。
まるで俺が政宗様とばっかりくっついてるみたいやん。


………
…………


や、くっついてるんやけど。
今はこじゅさんにご用事なんやで!


「入っていい?」
「ああ。」


少し立て込んでいて余り構ってやれそうにねぇが。

申し訳なさそうに言いながら手に持った書類を机に置いて、こじゅさんが体ごとこっち向いてくれた。
こっち向いて両手を広げてくれた。


「!!」


ふぉぉぉ!
これは。
これは!
飛び込んで行ってもオッケーですよなサインやで。
あっちへ行ってもいいですよなサイン!
こじゅさんまじで!

俺いっつもこじゅさんには背中へ飛び込んで行くから前からは久しぶりなん。
ほらあのたくましー背中って見つけたら飛び付きたくなるやんか。
やからほとんど背中ダイブやったんやけど、今日は正面からのお許しでました!

ではでは遠慮せず思い切り飛び込みましょー。
しっかり受け止めてねー。


「こーじゅさーん!」


こっそり覗いてた障子をスパンて目一杯開いてダッシュ。
こじゅさん目掛けてダッシュ。
開いてる腕の中に飛び込んで首にぎゅう。
ちょっと近くの机が揺れたけど気にしないー。

すん、って息吸い込んだらこじゅさんの匂いがして体の力が抜けた。
襟足が顔に当たってくすぐったい。

でもこのくすぐったいのが幸せってゆうか。

ぽんぽん背中を叩くこじゅさんの手も気持ちいい。
くっついてるだけで何かふわふわするんやで。
政宗様とはまた違う匂いに包まれて、眠たくなるような気持ちに包まれる。
しばらくぎゅーってこじゅさんを堪能してから顔を上げた。


何か甘ったるい匂いがするぞ、って今度はこじゅさんが顔を近づけてくるから俺も頬っぺた擦り寄せて「さっき干し柿食べたん」って笑って見せる。


「あのね、鬼さんに貰ったやつおシゲちゃんとこーちゃんとこで食べたん。」


おいしかったで。

あの甘さを思い出して頬っぺたふにゃ、ってなったらこじゅさんが「くくく」って笑うん。
「なんて顔してやがる」って笑うん。


えー?
そんな変な顔してた?
緩みすぎてたやろうか。
頬っぺたさすってこじゅさんを見上げた。


でもあれやで。
こじゅさんの手が気持ちいいのもあかんねんで。
俺の背中やら頬っぺたやらがとろけてしまうよ!


「余りそんな顔をするな。」
「ぬ?」
「お前を甘やかすのは政宗様の領分だ。」


こじゅさんは笑ったまんま小さくため息吐いて俺の頭を撫でる。
頭を撫でて背中を撫でて。

やぁこじゅさん。
俺そんな事されたらやっぱり頭とろーんとしてしまうんやけど!
力が抜けてしまうんやけど!
何て言うか言葉とは裏腹にちょう甘やかされてる気いするんやけど…!


「こじゅさん。」
「どうした。」
「俺がゆうんも何やけど。」
「?ああ、」
こじゅさんも俺を甘やかしすぎやと思うで?


………
…………


そうか?
うい。


でもそれは政宗様もやけど。
おシゲちゃんとかこーちゃんもやけど。
更には鬼さんもやけど。


………って、
今よう考えたら皆ちょっと俺を甘やかしすぎちがう…!


えぇちょっと待って。
どうなんやろう。
やあ、ほんまに。
ここでこじゅさんのお膝のって頭撫でられてる場合違うんちゃう俺。
お尻が丁度良い具合になるとこ探してる場合違うんちゃう俺



や、今ベストポジションやからどく気はないんやけどね!
ジャストフィット!


「それがお前の本領だろう。」
「んー?」


本領?
うん?
本領やて、本領。
どういう意味やろう本領。

こじゅさんの首にぶら下がる感じで首かしげたらまた笑って今度は頬っぺた撫でられた。
むにむにむにむに。
「餅みてぇだな」なんて言われながら本領の意味は分からんまんまやっぱり甘やかされる。


「なぁなぁ、こじゅさん。」
「まだ何かあるのか?」
「甘えっ子ついでにねえ、ちょっとお願いあるん。」


何だ?

優しく笑うこじゅさんに笑い返して。
あのね、もうすぐ女中さんが来てくれるん。
お茶とお菓子持ってね。
お仕事頑張ってるこじゅさんに一息ついて下さいねってゆうてたん。

何でもさっき女中さんのお茶断ったらしいやん。
あんまり頑張り過ぎるんも良いこと無いと思うよ。
すっごい忙しいんは分かってるんやけど。
朝からずっとお部屋に籠りっきりなんやろう?


やから俺とやあ。


「お茶しましょー。」


お菓子もね、南蛮のお菓子らしいで。
楽しみやない?

驚いた顔してるこじゅさんがまた筆を持ってしまわんように手をがしっと掴んだら丁度女中さんの足音が聞こえた。
やぁやぁ女中さん何てナイスなタイミングー。
素敵な連携プレイー。


「…さっきの女中か。」
「うん。」


そこの角で会ったん。

へら、って笑ったらこじゅさんが空いてる方の手で顔を覆って長いため息。
廊下で「真樹緒様茶と菓子をお持ちしました」て声がしたらもうこっちのもの。


こじゅさん。
………受け取って来い。
「!やった!」


こじゅさんとのお時間ゲットです。
お茶の時間ゲットです。


ぬふふ。
こじゅさんと二人、ゆっくりおいしいお菓子とお茶を頂きますー。
その後はちゃんと名探偵真樹緒やるから安心してねー。
別に忘れてた訳ちがうから!


  

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