「おシゲちゃんだって鬼じゃ無いんだからさ。」
ほら干し柿。
ゆっくり食べなよ。
「うまうま。」
「(すっ)」
「あ、こーちゃんお茶ありがとー。」
こーちゃんとおシゲちゃんに挟まれて縁側に座って干し柿もぐもぐ。
あんまり食べすぎたらあかんからっておシゲちゃんが渡してくれたのは二つ。
後は晩に皆で食べようってゆうて通りかかった女中さんに干し柿預けてしまったん。
こーちゃんは干し柿食べてる俺にお茶持ってきてくれてなー。
ぬー。
至れり尽くせり!
両手に花!
「両手に花?」
「やぁほら、右におシゲちゃん左にこーちゃん。」
二人に挟まれてやっぱり両手に花!!
こーちゃんとおシゲちゃんな、二人でお稽古してたらしいよ。
何でもおシゲちゃん、武器に飛び道具の縄標っていうやつを使ってるみたいでな。
お忍びさんのこーちゃんに相手してもらってたんやって。
ほら、こーちゃんすばしっこいから。
縄標操る訓練になるみたい。
凄いでなー。
後で二人のお稽古見せてもらおー。
「ごちそうさまでしたー。」
二つ目の干し柿を食べ終わって手についた粉をぱんぱん払う。
最後の一つはお楽しみに取っとくん。
紙に包んでね。
お楽しみ。
あれやで。
お仕事後のお楽しみ!
忘れてたかもしれやんけど、まだまだ俺は名探偵真樹緒です!
ほら、明智の光秀さん調査が終わってへんよ。
「めいたんてい真樹緒?」
「(?)」
何それ、って首を傾げてもうたおシゲちゃんとこーちゃんにへらって笑ってシャーペンと紙を取り出した。
ウサギのシャーペンとさっき「武器はカマ」って書いた紙な。
この下にね、おシゲちゃんとこーちゃんに貰った明智の光秀さん情報を書き込むん。
やからいろいろ聞かせてな。
集まったら政宗様に渡したいん。
「梵に?」
「うい。」
今度戦あるんやろ?
ちょっとでも政宗様をお助け出来ればなーって思ってやぁ。
今川遠征は俺達も梵から聞いてるけど、って頭を撫でてくれるおシゲちゃんに政宗様喜んでくれるかなって聞いてみる。
なぁ、なぁ、おシゲちゃん。
俺、政宗様をお助けできる?
政宗様の力になれるかなぁ?
よくやったな真樹緒ってゆうてくれると思う?
ほら、俺力があるわけでもないし、戦えるわけでも無いやろう?
何も出来やんけどやっぱり何かやりたかったってゆうか。
ぬー。
こんな事しか出来やんねんけど!
ほんならおシゲちゃんは目をぱちぱち。
瞬きしながら俺をじっと見たん。
じっと見た後ごつん、って俺の方に倒れてくる。
「おシゲちゃん?」
倒れてきたおシゲちゃんは体重かけたまんま黙って頭を俺の首にぐりぐり擦り付けるん。
それがあんまりにも思いっきりやから俺の体はこーちゃんの方に段々ずずいっと傾いてしまって。
やぁ、素敵筋肉なこーちゃんは俺の斜めな体も何のその、微動だにせず受け止めてくれてるんやけど!
「(なでなで)」
「こーちゃんもそんな微笑ましげに見やんとー。」
俺どんどんおシゲちゃんに押されてずるっとずれて、もうちょっとでこーちゃんのお膝で膝枕やで!
「もー、ほんっと真樹緒ってさー。」
「はいー?」
なぁに。
なぁにおシゲちゃん。
重たいんやけど。
くっつくのは嬉しいんやけど重たいよ。
頑張って支えてたんやけどどすん、とおシゲちゃんと一緒にこーちゃんのお膝に倒れてしまって。
こーちゃんは何ややっぱり微笑ましげやし。
えー、ちょっと待って。
こーちゃんの膝の上で体をぎゅっとされて、とっても恥ずかしい体勢なん違う俺…!
「ぬん…」
ほんまにおシゲちゃんどうしたん。
何だかいつもと違うよ。
ぽふ、っとおシゲちゃんの頭撫でたらちっちゃいため息吐いてやっとおシゲちゃんが顔を上げた。
「おシゲ、」
「真樹緒はさー…、」
「ぬ…?」
もう本当真樹緒はさー。
………
…………
「…おシゲちゃん…?」
「何でそんなに可愛いんだろうねぇ。」
全く。
おシゲちゃん困っちゃうよ。
「ぬ?」
え、何おシゲちゃん。
突然どないしたん。
びっくりするやん。
そんなマジな顔で。
「梵は…」
「おシゲちゃん?」
「梵は幸せ者だね。」
「政宗様?」
「うん、」
こんなに真樹緒に想われて慕われて。
何て嬉しい事だろう。
むくっと起き上がって俺の手を引っ張るおシゲちゃんはめっさ笑顔で。
ごめんね、ちょっと感動しちゃった。
そんな事言ってけらけら笑う。
「感動?」
なんで?
聞いてもおシゲちゃんは笑うばっかり。
ぬー。
変なおシゲちゃん!
俺明智の光秀さんの事聞きたいのに!
急にあんな事して。
「はいはいごめんね。」
何でもどうぞ。
明智光秀の何を知りたいの。
ぽんぽん俺の頭を撫でながらおシゲちゃんが言うて。
やっと調査の始まりなん。
もー。
ここまで来るのにすごい時間かかってもうたやんー。
名探偵真樹緒やのに。
聞き込みって肝心やのに。
う?
干し柿食べてたやんって?
やぁ、それは見やんかった事にしてくれると嬉しいわ!
「武器はもう聞いたん。」
「あれ、誰に?」
「うん?鬼さん。」
さっき鬼さんとこ行ってね。
干し柿も鬼さんに貰ってんで。
もっと詳しく言うたら鬼さんがお寺の和尚さんに貰ったやつを貰ったんやけどね。
こんなとこであれやけど、もう一回ありがとう和尚さん!
「ならおシゲちゃんは何を教えてあげようか。」
「(ちょいちょい)」
「ほら、風魔もやる気満々だし。」
「やぁまじで!」
ほんならねぇ、どうしよう。
こーちゃんお忍びさんやからいっぱい知ってそうやしなあ。
百人力ー。
シャーペンかちかちしながら考える。
むー。
何聞こー。
「いい天気だねー、風魔。」
「(こくり)」
なんてまったりしたおシゲちゃんとこーちゃんのやり取り見ながら考える。
たまにスズメが足元に来たりしてね。
何て平和なお昼下がりー。
「ほんならー、明智の光秀さんってどんな人?」
「あれそこから?」
「やって何か怖い人ってゆうんしか知らんもん。」
危ないってどんな風に危ないんかなー、って思う訳ですよ。
どう?
知ってる?
おシゲちゃん見たら「そうだねえ」って口元に手をあてて。
「物腰こそ丁寧だけど、その実狂気の男だって聞いた事あるよ。」
「きょうき…」
「うん。」
そりゃああの魔王の元で刀を振るっているんだから実力は相当なものなんだろうけれど。
梵や甲斐のお方達の様に熱く闘志をたぎらせる武人では無いみたいだね。
勝利を求めているというよりは、人が痛み苦しむのを見て愉悦している様な。
静かにやってきて人をいたぶり、その様を眺めては満足げに笑みを漏らしている、ってのがうちの忍が見聞して来た報告だけど。
「ちょっと気味が悪いよね。」
「……ぬん…」
ちょっとどころか…!
人としてどうかと思うけれど。
第六天魔王を称している織田信長の家臣だからねぇ。
そこは何とも。
おシゲちゃんが笑いながら説明してくれてるけど、その内容は結構笑えません。
やぁ、明智の光秀さん怖い。
ちょう怖い。
そしてえげつない…!
何や仲良くなれる気全くせえへんなー。
………
…………
やぁ、仲良くなる予定は今のところ無いけどね!
「明智の光秀さんはちょっと気味が悪いー、っと。」
めもめも。
それにしても明智の光秀さん、いいお話が一つも聞けませんよ。
やっぱり怖い人なんやなー。
明智の光秀さん。
紙に「ちょっと気味が悪い」って書き込んでそれを睨む。
何か政宗様の事心配になってきた。
こんな人と戦とかして大丈夫かなー。
政宗様は確かに強いんやけどやぁ。
刀六本持ったり出来るんやけどやぁ。
気味悪さってどうにもならんしねぇ。
「さて、他は?」
「えっとー。」
次は何を聞いてくれるの、って笑うおシゲちゃん見上げながら「じゃあ家族構成とか?」ってシャーペンを揺らしてみる。
兄弟とかおったりする?
その人も戦に来るやろうか。
ちょっぴり気味悪かったりするやろうか。
「兄弟ねぇ。」
「知ってる?」
「(ちょいちょい)」
「ぬ?こーちゃん?」
おシゲちゃんがうーん、って唸ってお空を見上げた。
眉間に皺寄せて目つむってもうて。
思い出してくれようとしてるみたいやから俺は静かに待ってたんやけど、お隣でこーちゃんが袖をね、ちょんちょんって引っ張るん。
うん?
なぁに?
どないしたんこーちゃん。
何か気になる事あった?
俺を引っ張るこーちゃんの指を捕まえる。
おっきな手をぎゅっとね。
捕まえてぶんぶん振ってみたりしてこーちゃん?って顔を覗き込んだ。
ほら、こーちゃん何か言いたそうやから。
ぱくぱく動くこーちゃんの口をじぃーっと見てな、何ゆうてるんか読み取ってみるん。
俺はお忍びさん違うけど、こーちゃんはゆっくりゆうてくれるから大丈夫!
俺ら仲良しさんやから大丈夫!
まかせて!
「(ぱくぱく)」
「ま、お、う、の、」
ふんふん。
魔王のー。
「(ぱくぱく)」
「よ、め、」
魔王のよめ!
ちゃんと分かったで魔王のよめ!
それが一体何の事かはさっぱり分からんけど魔王のよめ!
「ああ、そっか。」
「ぬ?」
「明智光秀は魔王の奥方、濃姫と従兄弟同士だって聞いたことあるよ。」
その魔王の奥方も女ながら中々の猛者だって話だけど。
ぽん、って手を叩いて思い出したようにおシゲちゃんが言う。
濃姫さん。
明智の光秀さんの従兄弟さん。
女の人やけど戦場に出で飛び道具で戦うんやねんて。
すごい!
「へー…魔王のお嫁さんと明智の光秀さんは従兄弟かー。」
おシゲちゃんと政宗様みたいな関係なんかなぁ?ほんならやっぱり繋がりも強いよねー。
こう、コミュニケーション?とか。
むん。
強敵…!
「こーちゃんありがとー。」
「(ふるふる)」
ふさふさのこーちゃんの頭撫でてお礼をね。
ありがとーってね。
とっても重要な事教えてくれたから!
ありがとこーちゃん!
ほっぺた赤くしてちょっぴり照れちゃったこーちゃんは控えめに首振るん。
やぁ、こーちゃんそんな謙遜しやんでもー。
かえらしい!
「へへ…」
ぬふー。
いっぱい明智の光秀さんの事分かったん。
皆物知りねー。
凄いねー。
明智の光秀さんと魔王のお嫁さんは従兄弟、かっこ強敵かっこ閉じをメモって名探偵真樹緒、中々事件の核心に迫ってきました。
真犯人はもうすぐそこですよ。
ぬー?
やから事件やない?
真犯人とかおらん?
そこはやっぱり突っ込まんといてくれると嬉しいわ!
「よし。」
ぱたん、ってメモ用紙代わりの紙を折り畳んでシャーペンと一緒に懐に。
いっぱいお話聞いたからここらで一休みやで。
残りの干し柿食べますよ。
甘いものは難しいこと考えた頭にええんやで。
紙に包んであった干し柿取り出してぱくっとね。
「あれ、もう終わり?」
笑うおシゲちゃんに頷いてもぐもぐ。
干し柿を口いっぱい味わった。
ありがとー、おシゲちゃんこーちゃん。
俺とっても助かった!
次はこじゅさん探すんやけど、その前に一休みなん。
「ありがと!」
「これぐらいお安い御用だよ。」
「(こくり)」
もう聞きたい事無いの。
粉ついてるよ、って口元拭ってくれるおシゲちゃんにそうやなー、ってもぐもぐ。
でももう聞きたいことは聞いてしまったし。
メモも増えたしー。
二人のお稽古の邪魔もしてしまったしー。
そろそろおいとましようかな、って思ってたんやけど!
でもおシゲちゃんもこーちゃんもとっても優しげに笑ってくれるから、言い出しにくいったらないわ!
………
…………
と、いうか。
「ぬん…」
俺がここにいたくてしょうがないわ…!
両手に花の癒し空間…!
「あ、そうだ。」
「ぬ?」
「ねえ真樹緒。」
「?はい?」
「甲斐の事があったから言っておくけどさ。」
「?うん。」
「間違っても梵達について行こうなんて思わないでよ?」
……
………
「ぬ?」
さっきまで優しげやったおシゲちゃんの眉毛が急につり上がった。
目え見開いて俺の肩をがっしり掴んでそこがちょびっと痛かったりね。
むん…
おシゲちゃん何や怖いよ?
「えーっと…、」
「今まで散々おシゲちゃんお話したよね?」
明智光秀の脅威について話してたよね?
ちゃんと聞いてたよね?
「ぬっ…!」
「言っとくけど、甲斐の時みたいな事したら今度こそおシゲちゃん許さないよ?」
「ぬーん!」
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おシゲちゃんに釘を刺されるキネマ主です(笑)
釘を刺されたキネマ主ですが、そんな事にめげるキネマ主ではありません。
おシゲちゃんが駄目なら自分を甘やかしてくれる政宗様にお願いします。
ほら、政宗様甘いから!
次はこじゅさんのところに。
畑へ参りまする!
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