「謙信様はそれは素晴らしいお方だ!」
「ほうほう。」
「(こくこく)」


戦に出陣されればその智力を以て進軍し、鮮やかに勝利を収められる。
刀を振るうお姿は美しく勇ましく、私などが拝見するのも勿体無い方なのだ…!


「ぬんぬん。」
「(こくこく)」


更に政に於いてもかの方のお考えは私の計り知れるものではない。
常日頃民の心を酌み、いつも越後の安寧を考えておられる方だ。
優しく、機知に富み、私のような忍にさえ手を差し伸べて下さる。
そしてその内には熱く燃えるような信念をもっていらっしゃる。


「そんな謙信様のみ心のままにお仕えする事が私の誇りだ…!」

「へえへえ。」
「(こくこく)」


俺の目の前で熱く「謙信様」について語ってくれてるお姉さんはかすがちゃんってゆうて、越後のお忍びさんなんやって。
こーちゃんが貰ってきたお手紙とは別に、政宗様に伝言を伝えに来てくれたん。

そんなかすがちゃんの余りの迫力に俺とこーちゃんは相槌を打って頷く事しか出来ません。
政宗様にどうしよう、って目線を送ってみてもおかしそうに手を振られるだけでした。
真樹緒ですこんにちは!

おいしいお芋食べながらこーちゃんも一緒にこんにちは!


「(ぺこり)」


やぁ、伝言の前に自己紹介してなー。
俺が軍神さんってどんな人?って聞いたらちょう一生懸命お話してくれてるんやで、かすがちゃん。
ほっぺたちょっぴり赤くしてね。
目をキラキラさせてね。
たまに何故かバラの香りがしたりしてね。


「かすがちゃんかすがちゃん。」
「っ何だ!」


これ程の言葉だけで説くには謙信様は、


「違うん違うん。」


もう軍神さんの事はいっぱい教えてもらったからそれはええん。
優しくてー、強くてー、凄い人やねんなぁ。
ほんで綺麗で。

俺それ聞いてちょっと思った事あるん。
きいて。
かすがちゃんきいて。


「…何だ。」


かすがちゃんやぁ。


軍神さんの事ほんまに好きなんやねぇ。


軍神さんの事お話してるかすがちゃんちょう可愛いで!
ほんで嬉しそう。

ぬー。
女の子ねー。
まるで恋する女の子ねー。
好きな人の事考えてると自然にそうなるよねー。

かすがちゃん見上げて笑う。
お芋をもっくりもっくり食べながら笑う。
甘いお芋はちょう美味しくていくらでも食べられそうなんやけど、でもちょっとお茶が欲しくなって来たかんじ。
口の中いっぱいお芋で飲み込めやんの。

(しゅた)
あ、こーちゃんお茶持ってきてくれたん?
ありがと!


「…っな、な、な…!」
「ぬ?」
「貴様!何をふざけたことを…!」


こーちゃんから貰った緑茶をずずっと飲んで一息。
さぁ残りのお芋を頂きましょーって時に、かすがちゃんがふるふる震えながら畳をばしんと叩きました。
勢いでその畳がボコッとへっこんだのはかすがちゃんが結構照れてるからやと思います。

やって見たらかすがちゃんのほっぺた真っ赤なんやもん。
ぷっしゅーって音が聞こえそうなくらい真っ赤なんやもん。

ぬぅ。
照れてるかすがちゃんかわいいん。

かすがちゃんが可愛いから政宗様がへこんだ畳見てひくっと口元曲げたのは気づかないふり。
ごめんね政宗様。
畳より恋ばなのが大事なん!


「もしかして気ついてへんかった?」


軍神さんの事をお話してる時かすがちゃんちょう女の子のお顔しとったよ!
可愛いよ!


「っやめろ!!」
「そんな照れやんでもー。」
「照れてなどいない!」
「どうどう。」


真っ赤なかすがちゃんをこーちゃんと一緒に扇子であおぐ。

はいはいかすがちゃん落ち着いてー。
別に恥ずかしがる事ないねんで。
落ち着いてかすがちゃんもお芋どうぞ。
お茶もあるよ。


「俺かってその気持ち分かるで!」
「な…」


大好きな人のお話してたら何や幸せな気分になるもんね!
もっと聞いてってなるもんね!
俺も政宗様の事聞かれたらいっぱいお話出来る自信あるで!


「Ah?俺か?」
「やぁ、こじゅさんでもこーちゃんでも自信あるけど。」


おシゲちゃんとか鬼さんでも自信あるけど。
もっとゆうたらさっちゃんとかゆっきーも。
もちろんおやかた様もね!


「この浮気者が。」
「やってみんな好きやもん。」


みんなみんな、大事な俺の好きな人!
言うたら笑いながら背中におぶさって来るくる政宗様にほっぺたむぎゅってされてくすぐったい。
そのまますっぽり腕の中に閉じ込められて頭ぐりぐり。
痛くないんやけど、そんな優しく撫でられると俺が照れちゃうわ!


「政宗さま。」
「What?」
「はずかしいん。」
「言ってろ。」
「もー!」


もー止めてぇや。
かすがちゃんがおるんやで!
ほらかすがちゃん難しい顔でこっち見てるやん。
ちょっと呆れられたんちがう?


「…お前、」


折角の越後からのお客さんやのに。
初めましてのお客さんやのに。
恥ずかしいとこ見られてもうたやんー。


「お前…!」
「ぬ?」


俺が政宗様のたくましい腕を外そうと戦ってたら、かすがちゃんがぷるぷる震えながらやっぱりまだ真っ赤な顔でこっちを睨んでた。
思わず動くのを止めてじぃ、ってかすがちゃんを見上げる。

おお…
りんごほっぺ。
美人さんが可愛いとか結構反則よね!


「かすがちゃん?」
「っよく聞け!」
「う?」
「謙信様は私の主だ…!」


そして私は忍。
その忍が主に好意を寄せるなど恐れ多いにも程がある!

今度はお部屋の柱に拳をぶつけてかすがちゃんが叫ぶ。
柱がみしっとちょっぴり傾いて、政宗様が「野郎、折ったら軍神にclaimしてやる。」って呟いたのが聞こえた。

むぅ。
美人さんで可愛くても力はやっぱりお忍びさん…!
凄い。
かすがちゃん凄い。


「私はあの方のつるぎ。」


あの方の望むまま刃を振るうのが私の使命であり願い。
私の働きであの方が喜んで下さるならそれだけで。
そう、それだけで。


「……、」


くちびるを噛んでうつむくかすがちゃんはちっとも「それだけで。」なんてお顔してへんの。
可愛い可愛い恋する女の子のお顔なん。


「ぬん…」


俺は何かそれが嬉しくってね。
口では強がってるけどやっぱり女の子なかすがちゃんが可愛いくってね。


「何ゆうてるんかすがちゃん!」
「な…」


かすがちゃんはお忍びさんやけど、好きな気持ちにそんなん関係無いねんで!
人を好きになるんってすごい素敵な事やねんで!
恐れ多いんとかやなくて、好きになって貰った人も幸せ者やねんで!
やからそんな事言うもんちがうん!


「軍神さんのお話する時かすがちゃん凄い楽しいやろう?」


ぐ、って詰まったかすがちゃんが可愛くて笑う。

ぬー。
正直さん。
かすがちゃんがもっと近くにおったら頭なでなで出来たのになー。
今は遠いからできへんねぇ。
ざんねん…!


「その気持ち大事にね。」


軍神さんもやぁ、かすがちゃんの事凄い大切にしてると思うんよ。
おれのカンやけど!
でもこれ冴え渡るカンやから安心して!
それやのにかすがちゃんがそんな事ゆうたら軍神さん悲しんでしまうよ!


「わ、私は…」
「ぬぅ。」


やぁ、そんなに内緒にしたいんやろうかかすがちゃん。
それでもうつむいたまま眉間にしわ寄せてるかすがちゃんはちょっと苦しそう。
お忍びさんってそんなに難しいもんなんやろうか。
好きってとっても素敵な事やと思うんやけど。

お隣におるこーちゃんをじっと見つめて聞いてみた。


「こーちゃーん。」
「(?)」
「俺の事好き?」
「(こくり)」


ほらそんな難しい事でもないと思うんやけど!
好きやったら好きでええんちがうかなぁ。
俺もこーちゃん大好きよ!


「girlってのは複雑なんだろ。」
「そお?」


女の子やしねー。
やっぱり男の俺には分かってあげられへん事もあるよねー。
じぃ、ってかすがちゃん見てたら寄せてた眉をちょびっと緩めてため息を一つ。


「お前は変な奴だな真樹緒。」
「う?俺?」


そう言って顔を上げたかすがちゃんは、ほっぺたはまだ赤いけど眉間にはもう皺は寄ってへんかった。
ちょっと呆れた様な顔で笑ってる。
首かしげたら政宗様の笑い声も聞こえて。


「あれ?」


何で笑われてるん俺。
……
………あれ?


「くく…そこが良いと思わねぇか。」
「ふ…」
「かすがちゃん?政宗様?」


何?
二人でそんなアイコンタクトしちゃって。
なんや俺仲間はずれやん。
俺がかすがちゃんと話してたはずやのに!

きょろきょろ二人の顔を見比べても政宗様は笑ったまんまやし、かすがちゃんはやけにすっきりした顔のまま俺を見てるし。
ぬぅ。
何で俺が居心地わるなってるん…!


「独眼竜。」
「Ah?」
「謙信様からの伝言だ。」


結束網は東国だけに止まらず、前田や徳川へも及んでいる。
未だ働きかけに甘んじているがいずれ必ず実を結ぶだろう、と。


「あぁ。」


伝言及び書状は確かに受け取った。
奥州はじきに動く。
胡散臭い魔王の尻を叩いてやるぜ。
多少火の粉が飛ぶかもしれねぇが、軍神ならそれも想定内だろう。


「ああ。」
ぬ?


かすがちゃんが難しい事ゆうて政宗様が頷いた。
俺よう分からんねんけどって政宗様見上げたんやけどなぁ、後で話してやるって頭撫でられて終わり。
やっぱりちょっと仲間はずれな感じがして膨れる。

ぶう。
ええもん。
別にええもん。
俺かってだいぶかすがちゃんと仲良くなったもん。
なぁ俺ら仲良しやんなかすがちゃん!


「真樹緒。」
「う?」


振り返ったらかすがちゃんがためらいがちに俺を呼んだ。
うん?
なぁに、かすがちゃん。
どうしたん。


「私は…やはり忍だ。」
「かすがちゃん…」
「だが、」
「ぬ?」


謙信様を思うその心は負けはしないと自負はある。

かすがちゃんの口元が緩む。
俺は目をぱちぱち。
かすがちゃん見ながらぱちぱち。
でもじわっと胸があったかくなって。


「…なぁなぁ、かすがちゃん。」
「何だ。」


優しい目ぇしたかすがちゃんが目の前でしゃがんでくれた。
俺を見て笑ったまんまかすがちゃんの手が俺の頭を撫でる。
うう…なんや照れるん。
凄い照れるん…!

可愛い妹やったらおるんやけど。
怖いけど実は頼りになるお兄やったらおるんやけど。
美人で照れ屋で優しいお姉はおらんからちょびっとドキドキしちゃうわ!


「あのね、」


……軍神さんの事すき?
聞いたら今度はかすがちゃんが目をぱちぱち。
俺はそんなかすがちゃんをじっと見る。

なぁなぁ、かすがちゃん。
ほんまの事ゆってな。
ごまかしたらあかんで。
下から見上げたらかすがちゃんの目がゆうるく泳ぐ。
ほっぺたも赤く戻ってきて。
ほんでそれからついに。


ついに…!


「………、ああ。」
「かすがちゃん…!」


かすがちゃんが!
恥じらいながらかすがちゃんがついに。
素敵に可愛らしく告白してくれました!!


かーわーいーいー!
「っ失礼する…!」


それからすぐにしゅたっと飛んでいってしまったんやけど(やぁまだお仕事あるねんて)かすがちゃんはとーっても女の子で答えてくれました!
とーってもきゅーとでした!


ばいばいかすがちゃん。
今度また軍神さんのお話聞かせてな!

ほんで一緒に恋ばなしような!


-------

かすがちゃんと、でした。
キネマ主は女の子が大好きです(笑)
可愛く愛でるものだと思っています。
かすがちゃんはたまに奥州に来てキネマ主とコイバナしてればよいかと思いました。

次回は政宗様視点から今後について。
そして色々動いてゆきまする。


  

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