「こーちゃんお帰りー。」
「(こくこく)」
「ほんで大根ありがとー。」
「(こくこく)」
どどんとざるに山盛りやった大根はこーちゃんの手裏剣で綺麗に輪切りにされて、無事に厨にお届けされました。
女中さんが「ありがとう」ってお礼に焼きいもくれたん。
こちらこそありがとうございます…!
後で皆で頂きます!
真樹緒ですこんにちは!
ぬー。
あつあつのおいも。
あまーい匂いがぷわんと匂ってお腹をくすぐるん。
でもおいもも嬉しいんやけど、今日一番の素敵事件はこーちゃんが帰ってきた事です!
越後にお使い行ってたこーちゃん帰ってきたよ!
お久しぶりやからこーちゃんもご挨拶しとこうな。
はいどうぞ!
「(?)」
「ほら、こんにちはーって。」
恥ずかしがらんでもええねんで。
ただのご挨拶やから。
ほらどうぞー。
「(?ぺこり)」
「よくできました!」
こーちゃんの頭撫でて、もう一回お帰りーってぎゅう。
すん、って鼻をすすったら懐かしい匂いがして胸がきゅうってして、こーちゃんの首に巻き付けてる腕にちょっと力を込めた。
はー。
こーちゃんの匂いお久しぶり。
やっといつも通りねー。
元通りねー。
俺を包んでくれる腕も匂いも、甲斐で行ってらっしゃいした時とおんなじ。
無事に帰ってきてくれて嬉しいよ!
「ぬーん。」
こーちゃんにひっついて頭ぐりぐり。
ぐりぐりしてたら優しくその頭を撫でられてぬーんってなる。
やぁ、力抜けてまう…!
「(とんとん)」
「う?」
でもぬーんってしてたらこーちゃんが懐をごそごそって。
ぬ?
どうしたんこーちゃん。
何かお探しもの?
「あれ、お手紙?」
「(こくり)」
こーちゃんが懐から出したのはお手紙でした。
綺麗に折り畳んであってな、ほんのり何だかいい香り。
軍神さんからのお手紙らしいよ。
やぁ、ほんならこれは政宗様へやねぇ。
「政宗様ー!こーちゃんお手紙貰って来たんやってー!」
ほらこれ!
ひらひらそのお手紙振って、縁側からまだお庭におる政宗様を振り返った。
見て政宗様!
軍神さんからお手紙!
こーちゃんお使い完璧やで!
「やっとこっち見やがったな。」
「ぬ?」
ほんなら政宗様がため息吐いて俺を見るん。
刀でとんとんって肩叩きながら俺を見るん。
うん?
あれ?
何やちょっと呆れてる?
なんで?
「政宗様?」
俺はしゃぎすぎたやろうか。
やぁ、こーちゃん帰ってきてからすぐ俺こーちゃんとこ飛んでってしまったから。
飛んでって政宗様をお庭に残して厨に一直線やったから。
やー、久しぶりのこーちゃんにテンション上がっちゃってー。
それ見た時と同じ顔しとるよ政宗様。
羽目を外しすぎちゃったかしらー。
ぬー。
でもご無沙汰ぶりのこーちゃんが嬉しかったんやもん。
へら、って笑ったらまた政宗様がため息を吐く。
「俺を差し置くたぁ、いい度胸だ。」
「やー!政宗様おもたい!」
そんで何を思ったんか政宗様はどしん!って俺の上に覆い被さってきたん。
しかもものすごい勢いで!
そんなん俺、支えられる訳無いやん?
自慢やないけと俺力は全く無いよ…!
やから縁側に座ってた俺はそのまま床に倒れてしまう訳ですよ!
もちろん政宗様は頭打たんように支えてくれたけどー。
優しく腕で首を支えてくれてたけどー。
びっくりするやん。
急にがばちょってこられたら。
「お前が余所見ばかりするからだろう真樹緒。」
「何のおはなしー。」
よう分からんよ。
足をじたばたしながら頬っぺたを膨らます。
政宗様俺動けやんやん。
折角お手紙渡そうと思ってたのに。
こーちゃんが届けてくれたお手紙。
大事な事書かれてたらどないするん。
「分からねぇならそれでいい。」
「わぁ!」
お手紙を取り上げて政宗様が俺のおでこにちゅう。
くすくす笑いながらちゅう。
「ぬぅ…、」
やぁ、最近政宗様スキンシップ多いよね。
何や甲斐から帰ってきてから。
別にそれが嫌とかやないんやけど。
俺くっつくん好きやし。
でもくすぐったいってゆうか。
ちょっと恥ずかしいってゆうか。
「頬が赤いな。」
「やって政宗様が急にちゅうするから。」
ぷい、って顔そらしたら笑ったまま起き上がった政宗様が何でも無いようにお手紙を開く。
空いてる手でちゅうされたとこを撫でられて、俺だけ照れてるんがおかしいみたいやん。
もー。
政宗様もー。
「可愛がってんだよ。」
「恥ずかしいん。」
「cuteだな。」
「むぅ…」
頬っぺたは膨らんだまんまやけど、政宗様は全然普通なん。
お手紙読みながらたまにちらって俺を見て笑う。
そんな余裕な顔して!
ええもん。
別に俺かって気にして無いもん。
ちょっと顔熱いだけやもん。
「俺も見ていい?」
「別に面白ぇ事は書いてねぇぞ?」
そら来い。
起き上がって俺を呼ぶ政宗様の手元を覗く。
俺は政宗様のお膝に乗ってお手紙をじぃー。
………
…………
や、内容とか全然分からんよ。
何て書いてあるか読めやんけど、とーっても達筆な字で書かれてあるんやで。
軍神さんって字上手やなぁ。
何てゆうかせんさい?
俺、軍神さんっておやかた様みたいなイメージやったんやけど、もしかしたら軍神さんは斧振り回したりはせぇへんかもね!
「政宗様ー。」
「Ah?」
「軍神さんってどんな人?」
おやかた様みたいにおっきい?
斧持ってる?
お手紙読んでる政宗様を見上げて聞いてみた。
ちょっと難しい顔してた政宗様はふ、って顔緩めて頭を撫でてくれる。
「そうだなぁ」って言いながら優しく撫でてくれる。
ゆるゆる指が耳の後ろを通るんがくすぐったい。
逃げるように首を降ったら「逃がさねぇぞ」って体ごと捕まってもうた。
また床に逆戻り…!
もう政宗様!
おれ軍神さんの事聞いてるのに!
肩揺らしながらくくくって笑う政宗様の息が首にかかる。
こちょばいし!
体動かんし!
政宗様!
もうー!
「なら、俺より詳しい奴がいるぜ。」
「ぬ?」
「降りてきたらどうだ。」
「え?」
政宗様が寝転んだまま天井を見上げた。
おかしそうに笑いながら前髪をかきあげて、天井をじぃって睨んでるから俺も暫く一緒に見つめてみたりして。
「うーん…?」
でもそこはただの天井で。
いつも通りの普通の天井で。
あの木目が眼鏡に見えるのも昨日と同じ。
ぬー。
もしかしてあそこ、こーちゃんみたいなお忍びさんがおるんやろうか。
気配とかでわかるんやろうか。
俺は全然全く分からんけど…!
「じぃー、」
じぃー。
じぃー。
天井じぃー。
政宗様のお腹の上でじーっと天井見てたんやけどやぁ。
「…御前失礼する。」
「えっ下!?」
俺が穴あくぐらいの勢いで天井を見つめてたにも関わらず声が聞こえたのは頭のすぐ近く。
聞こえた方に首をひょいっと曲げてみたらそこには。
金髪でないすばでーなお姉さんが膝をついて政宗様に礼してました。
「いつの間に…!」
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かすがちゃんがきました。
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