「政宗様ー。」
「Ahー?」
「こーちゃんまだかなぁ。」


お空が真っ青に晴れわたったお昼下がり。
こんな気持ちいい日にお部屋の中におるのは勿体無くて、外で刀のお稽古してる政宗様見ながら俺はその近くでさっきこじゅさんから頼まれた大根の水洗いしてます。
真樹緒ですこんにちは!


ぬー。
今日の晩ごはんはぶり大根なん。
いいブリが入ったぞってこじゅさんご機嫌やってんで。
ブリってえぇよね。
ほら身がほぐしやすくて。
おいしいし。

ぬふふ。
ちょう楽しみ!


「もうそろそろ戻ってくるだろ。」
「そう?」
「越後はお隣さんだ。」


あいつの足なら一日もかからねぇよ。

ぶんって刀を振ってる政宗様が笑う。
昨日まで成実にベッタリだった癖にって笑う。


ぬー。
そうなん。
俺、奥州に帰ってきてからずーっとおシゲちゃんにくっついてたのよねー。
ただいました後、ひっつき虫になったん俺。
ほら、あんまりにも久しぶりやったから。
おシゲちゃんに会うん。


おシゲちゃんが行くとこ全部後つけて行ってん。
こう、まるで鴨の親子みたいに。
お仕事中でも背中に張り付いてたしー。
ご飯も一緒に食べたしー。
おでかけにもお供しましたー。
もちろんお風呂も一緒やろ?
お布団かって二人で入ったんやで。

そんな風に過ごしてたらついにおシゲちゃんがやぁ。


ごめん真樹緒。そろそろおシゲちゃんお仕事にならなくなりそう。


素敵なイケメンスマイルで俺の頭を撫でてね、俺はべりっとおシゲちゃんから剥がされた訳ですよ。
もっとくっついてたんやけどー。
物足りないんだけどー。
おシゲちゃんがそう言うから仕方ないん。
しぶしぶ離れたん。


「お仕事になれへんって、どういう事やろうね。」
「そこは汲んでやれ。」


くくく、って笑う政宗様に首をかしげて大根をざるに乗せた。

むう。
政宗様は何か分かってるみたいやけど教えてくれへんの。
笑ってるばっかりなんやで。
もー。
何でかぐらい教えてくれてもええのにね!

そのまま政宗様はまた刀を振りだしてもうたから、俺も大根をごしごし。
ちょっと膨れながらごしごし。
笑われっぱなしやけど気にせぇへんもん!
大根ちゃんと綺麗にしなくちゃねー。
おいしいブリ大根にならんから!


「でもこれ最後の一個なんよなー。」


こじゅさんには終わったら厨に持っていけって言われてるんやけど。


「…」


じぃ、っと山積みの大根を見る。
頑張って洗った大根は四十本近く。
ざる四つ分!
今日はブリ大根やから厨でこの大根を全部切らなあかんくて。


……
………
ちょっとそれは大変そうよね。


「真樹緒?」
「なぁ、政宗様ー。」
「どうした。」
この大根輪切りにしたいんやけどー。
…Ah?


大根乗ったざる持って政宗様を振り返る。

あのね、この大根を輪切りにしたいん。
ほらブリ大根に入ってる大根って丸いやん?
輪切り。
ちょうど政宗様刀持ってるし。
今日は木刀違うし!
俺が大根放り上げるから刀でシュババババーって。


切ってほしいなー。
………Ah?


ってことでー。
大根を両手に持って俺の準備はおっけー。
さぁさぁ政宗様いくよ!
目ぇ見開いてる場合ちがうよ!
大根飛ばすよ!
素敵にスパッと切って下さいな!


そぉーれ!
wait真樹緒…!

あ、幅はちょっと食べごたえがある三センチぐらいでお願いー。
どれぐらいだ…!


よく分からんが切りゃあいいのか。
頷いたら俺が投げた大根めがけて政宗様も飛び上がった。
三センチが何や伝わってない感じやけど政宗様やったらきっと大丈夫!
飛び上がって持ってた刀で俺が思った通りシュババババーって大根を輪切りにしてくれるはず。


そう、輪切りに…


「…………ぬ?」


でも政宗様はその素敵なかたなさばきで大根を。
見事に大根を。
千切りに。


ぬーん!政宗様それ千切りー!


ええ千切り!?
何で千切り!!
お、お、俺輪切りってゆうたのに…!
三センチ幅ってゆうたのに!
大根が見事にばらばら!


一本一本綺麗な細切りなんはさすが政宗様やな、って思うんやけど。


生せんぎりだいこん…!


これやったら大根サラダ用になってしまうやんー。
そりゃあ大根サラダも好きやけど。


「何か違ったか?」


どさっと降ってきた細切りな大根をざるに受け止めて政宗様が肩をすくめる。
やぁ、大根の細切りが山盛りのざる持ちながら爽やかに言われてもー。
刀に二、三本大根つけながらキメられてもー。


「むう。」


政宗様からざる受け取って細切り大根をじぃー。
や、これはこれでおいしそうやけど!
おいしそうやからえぇねんけど!
でもブリ大根…!


「ううん、べつにー。」
「その割りにはここに皺寄っとるぞ。」
「やー、政宗様の輪切りも見たかったなって。」


政宗様にまゆげとまゆげの間をぐりぐりされてちょっとおでこがむずむず。
なら次は六爪でやってみるかって笑う政宗様は、お願いしたら本当に刀六本持ってきてくれそうなのでうかうか首も縦に触れません!

ぬん。
でもそうなったらみじん切りになりそうやねぇ。

やっぱり厨でざくっとやった方が早いかしらー。
ざるを持ってよっこらしょ。
ここは素直に厨に行っとこうって大根を持ち上げた時、政宗様がじ、っとお空を見上げて呟いた。


「、真樹緒。」
「はい?」
「good timingだ。」
「……う?」

グッドタイミング?
ぬん?
何が?
政宗様が俺の持ってる大根を取り上げてにやって笑う。

あれ、政宗様。
それ、これから厨に運ぶんやけど。
ブリ大根の支度があるねんけど。
俺もお手伝いするねんで。
やからそれ返して欲しいんやけど。


俺が「返して」って手ぇ伸ばしてもずうっと笑ったまんまで。
大根高く持ち上げられて取れやんの。
もう、政宗様。
いじわるせんとって。


「政宗様?」
「そうら、真樹緒。」
「う?」
「お前の忍のご帰還だ。」
……ぬ?


俺の忍って、まさかこーちゃん?
こーちゃん帰ってきたん?
見上げても政宗様は俺の頭を撫でるばっかりで、俺が首を傾げてるのも構わず思いっきり力を込めて大根をお空に放り投げた。


「Hey風魔、てめぇの主の願いだ。」


その大根、捌いてみろ。


(しゃきーん)
「あー!こーちゃん!!」


ほんならそこにはほんまにこーちゃんが!
越後に行ってたこーちゃんが!
そのこーちゃんが!

両手にでっかい手裏剣持って、大根相手に目をキラーンと光らせていました。


は!!こーちゃんそれ輪切りでお願い…!


おかえりも言うてへんのにごめんやけど!
帰ってきてすぐにこんなお願いもアレやねんけど!
それ今日の晩ごはんブリ大根用のやつやから!


-----

こーちゃん帰ってきました!
帰ってきての初仕事は大根の輪切り。
今日も奥州はへいわです。

  

book top
キネマ目次
top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -