「お帰り梵。」
「留守中ご苦労だったな、成実。」
「小十郎もお帰り。」
「ああ、城の様子は。」


二人が発ったその日と変わらず何も滞りなく。


そう政宗様とお話してるおシゲちゃんの声を鬼さんの背中に張り付きながら、若干震えつつ聞いています。
真樹緒ですこんにちは!


ぬぅ。
政宗様とこじゅさんと鬼さんと、そろって奥州に着いたんはついさっき。
懐かしい町並みと懐かしい匂いに包まれて、ちょっとじんわりきたんは内緒なん。
出てきた時とおんなじようにそびえ立つお城を見て、帰ってきたんやなぁって思ったりしてね。

お城へ入る門の前でお馬から降りて俺はドキドキ。
やってやで。
あの門の所にはもうおシゲちゃんがおって、お出迎えの準備は万端だったのですよ。


何てお心づかいー。
でも今はそのお心づかいに俺の胸はばくばくして張り裂けそうなん。


……
………


いつお母さんのカミナリが落ちるか分からんやん…!


やから鬼さんの背中にくっついてなるべくこそっとしてたんやけどね。
政宗様やこじゅさんとご挨拶してるおシゲちゃんに見つからやんようにしてたんやけどね。


さて、鬼庭殿。
……何でしょう。
後ろのそれ、こっちに渡して貰えるかなぁ。


……
………


ぬーん!!


おみとおし!
おシゲちゃん既におみとおし!

どうしよう。
ばれてるでどうしよう。
おシゲちゃんごめんなさい…!


「うう…」


鬼さんの着物をぎゅうって掴みながらそろっと前を覗く。

やぁ、聞こえたおシゲちゃんの声がセリフとは裏腹に信じられへんくらい優しくってな。
も、もしかしたら怒ってへんのかなって、僅かな期待ってゆうん?
そうゆうんを持ってみたりして覗いたんよ。

ほんならそこにはにこにこ笑ってるおシゲちゃんが。


「お、おシゲちゃん…」
「真樹緒。」


ほら、こっちおいで。

両手を広げて名前を読んでくれる。
笑いながら待っててくれる。

どうしよう。
どうしよう、俺。
あの腕の中に飛び込みたい。飛び込んでおシゲちゃんにぎゅうってしてもらいたい。


「…、」


でもやぁ、でも。
きっとおシゲちゃんは怒ってるはずで。
俺はごめんなさいしやなあかんはずで。
あんな風に甘やかしてくれるはずはないん、きっと。

期待と不安がまざってお腹がぐるぐる。
ちらっと政宗様らの方見たら笑って肩をすくめられた。
「どうした行かねぇのか」って。
鬼さん見上げたら頭を撫でてくれた。
「大丈夫ですよ」って。


ぬぅぅ…
ええんやろか。
あの腕に飛び込んで甘えてもええんやろうか。


「真樹緒。」
「…おシゲちゃん…」


でもやっぱりおシゲちゃんのあの腕の魅力には勝てやんくって。

そろりそろり。
そろりそろり。

ゆっくりゆっくりおシゲちゃんの方へ。
目はきょろきょろしたまま、後一歩でたどり着く、そんな所で止まったら「早くおいで」っておシゲちゃんが笑う。


「〜〜〜〜っ!」


そしたらもう俺、胸が一杯で。
目の奥もじんじんしてきて。
何か目の前が霞むなぁって思ったら涙がぽろぽろ。
どんどんぽろぽろ。
俺も両手をいっぱい広げてな。


「お、お、おシゲちゃーん!!」


思いっ切りおシゲちゃんに抱きつこうと思ったんやけど。
……思ったんやけど。


もう、本当にこの馬鹿…!
にょー!痛いー!


おシゲちゃんに頭をぐっと抱え込まれて右手の拳でてっぺんをぐりぐり。
思い切りぐりぐり。
穴があきそうな程の力強さでぐりっとされてびっくりするぐらい痛いです…!


さっきのドキドキ返して…!


首も絞まってるん助けて政宗様!


「まぁ、妥当な反応だな。」

あれでも加減してんじゃねぇか?
成実の野郎。

「成実ですからな。」

所詮は真樹緒に甘い男です。


「ちょっと真樹緒聞いてるの!」


俺怒ってるんだよ!


「聞こえてるんー!」


やーごめんー!
おシゲちゃんごめんー!
勝手に出ていってごめんなさいー!
約束破ってごめんなさいー!
じたばた暴れながらおシゲちゃんにごめんなさい。

分かってるん。
すごい俺勝手な事したって。
おシゲちゃんあかんてゆうたのに。
俺の事大事に思ってくれてたのに。


「ごめんなさい…」


いっぱいいっぱい謝ったら急に俺の頭を抱え込んでたおシゲちゃんの手が緩くなる。
ぐりぐりも止まって。


「…お、おシゲちゃん…?」


そおっと目を開けたら、目の前には眉毛をハの字にしたおシゲちゃんが。


「俺がどれだけ心配したか分かってるの。」


朝真樹緒の部屋を見て、真樹緒がいなくて。
俺がどんな気持ちだったと思うの。
手が震えた。
足も震えた。
声が出なかった。
何で目を離してしまったんだろうと何度も何度も己を責めた。


ねぇ、真樹緒。
俺本当に怖かったんだよ。
真樹緒が拐われたんじゃないか、何がとんでもない事に巻き込まれたんじゃないか、そんな事ばかり考えて。


「あ…」


おシゲちゃんの目が揺れる。
ああ、おシゲちゃんが泣いてまうって思ったら俺の目の奥もじわり。


「…ばか。」
「ごめんなさいおシゲちゃん。」


おシゲちゃんがおでこをこつんって合わせてくれた。
いつもの優しいおシゲちゃんでにっこり笑って俺を抱き締めてくれた。
久しぶりのおシゲちゃんの匂い。


ふわふわ。
ふわふわ。


お鼻をかすめてとろんてなる。
力いっぱいぎゅうしてくれるおシゲちゃんがすごく俺の事を思ってくれたんやなぁって泣きそうになる。


おシゲちゃんおシゲちゃん。
ほんまにごめんなさい。
もう絶対におシゲちゃんを置いていったりせぇへんから。
俺も力いっぱい抱きついて最後にもう一回ごめんなさい。

「もういいよ」っておシゲちゃんが頭を撫でてくれるから、それに目一杯甘えて暫くおシゲちゃんにくっつき虫です!


「おシゲちゃん。」
「なぁに。」


あんな、あんな。
おシゲちゃん。
ごめんなさいした後な、これだけ聞いときたかったん。
答えて欲しいん。


「…俺のこと好き?」
「大好きだよばか。」


俺もおシゲちゃん大好きやで!


―――
――――


「で?鬼庭殿。」
「はい、」
「真樹緒に会ったご感想は?」
「ぬ?俺?」


どう。
心は掴まれた?


「それはもう。」


掴まれるどころか。
捕らえられて離れやしません。


「それはそれは。」
「やぁ、何のお話ー?」


首傾げておシゲちゃん見ても、政宗様見ても、こじゅさん見ても、鬼さん見ても。
何だかほほえましげに見つめられ返されて意味も分からず恥ずかしい真樹緒です!


「ああ、そうだ真樹緒。」
「ぬ?」


いろいろ言いたいことがあって忘れてたけど。


「?」
「おかえり。」
「!ただいまおシゲちゃん!」

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おシゲちゃんと再会いたしました!
奥州のお母さんはちゃんと叱った後は愛してるよと抱き締めてくれます(笑)
キネマ主はこの後暫く本当におシゲちゃんにくっつき虫で、寝るのもお風呂もご飯も政宗様を差し置いてラブラブしていたらよいかと!

次回は小太郎さんが帰ってくる、かと。
未定ですが!(汗)
本格的に明智さん編が始まります。


  

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