政宗様のお馬がぱっかぱっか。
こじゅさんのお馬もぱっかぱっか。
甲斐のお屋敷もついに見えやんようになってしまって。
何だか急に眠気が襲って来ました真樹緒ですこんにちは!


「むー…」
「真樹緒?」
「ぬー…」
「眠いのか?」


こっくりこっくり動く俺の頭を撫でながら政宗様が笑う。
昨夜から十分に寝ただろうって笑う。


「ねむないもん…」


むぅ。
でもお馬の、こう走るリズム?がとっても気持ちええん。
しかもお空はめさめさええお天気やし。
多分今お昼近くやと思うんやけど、ぽかぽかしてきてこれまた俺を誘惑するのです。
もたれてる政宗様の胸もお腹もぬくいしやー。
眠たくなっても仕方がないと思わない!


「眠いんじゃねぇか。」


頭が揺れとるぞ。


うりうりほっぺた触ってくる政宗様が言って、でも俺はそんな政宗様の声ももう聞こえやんほどまぶたが重くって。


「うー…」


かんにん政宗様。
ちょっと胸貸してやー。
俺もうあかんみたいー。

ねむい。
ちょうねむい。
気い抜いたらかくんっていってまいそうなん。
寝てもいい?

今にも閉じてまいそうな目を頑張って開いて政宗様にお願い。
俺が寝た後はお城につくちょっと前に起こしてね。
ほら、俺心の準備があるから。


「Ah?何の準備だ。」
「やぁそら、」


あれやん。
ゆわんかったっけ?
ぬ?

あー…そう言えば松永さんにしかゆうてなかったかもー。
ほら、奥州のお母さん。


……
………


おシゲちゃんやん…!


「ぬー…起こしてやぁ、」


俺、ほぼ勝手にお城を出てきてしもうたんやから。
絶対に怒られるんやから。
その心の準備なん。
ドキドキしてしまうやろう?
ほら、怒られるん分かってるし。


「分かった分かった。」


ほら寝ろ。

優しい手のひらと、とくとく鳴ってる政宗様の心臓の音に誘われるように俺は目をつむる。
目をつむってしまったら目の前は真っ白。
もう後はふわふわしてあったかいものに溶けるように、俺の意識は遠くなって。


―――いくはずやってんけど。


「政宗様。」
「Ah?」
「前方から馬が。」


数は一、様子からして敵ではありませんかと。
こじゅさんの声にお耳がぴくん。

お馬かー。
お馬。
そう言えばぱっかぱっかというよりドドドってゆう音が聞こえるん。
これお馬の走ってる蹄の音やんなぁ。
それがどんどん近づいてきたみたい。


「どう、どう!」


ほんで政宗様とこじゅさんのお馬の前でぴたっと止まりました。


「ぬー…?」


ほんなら政宗様と俺が乗ってるお馬も止まるやろう?
ええ感じで眠れそうやったのに、頭をぼふって政宗様の胸に突っ込んでもうて、思いっきり目が覚めてしまいました!


「Ha!」


成実が寄越したか。

そんな声が上から聞こえて目をぱちぱち。
「おシゲちゃん…?」って政宗様見たら笑いながら頭を撫でられた。

やぁ、政宗様。
おシゲちゃんやったら俺えらい事なんやけど。

ほら、ゆうたやん。
心の準備。
心の準備まだやで俺…!



「…ぬーん、」


ごめんなさいの気持ちはずうっとあるけど、おシゲちゃん本人を目の前にするとなるとやっぱり心の準備は必要なん。

ドキドキ
ドキドキ

政宗様の着物のはじっこ持って、そおっと前を向いた。


「…あれ?」


………うん?
ほんならな、そこにおったんはおシゲちゃん違う人やったん。
うーん?
もっと年上の男の人で、俺の全然知らん人。
ちょっとコワモテがこじゅさんに似てたりしてね。
やぁ、でももしかしたらこじゅさんより年上かも。


ぬー……
誰?


「御前失礼します。」


鬼庭綱元、奥州よりお迎えに上がりました。


「成実か。」
「は、真樹緒殿のお迎えをと。」
「俺?」


政宗様が笑いながら鬼庭さん?にゆうて俺を見る。
やぁ、でも俺鬼庭さんとは初めましてやけど。
お城でも会った事ないんやけど多分。

…名前は、なんや聞いた事あるような気いするんやけどー。
会った事は全然なん。
それやのにお迎え?
政宗様と一緒のお馬で帰るつもりやってんけどな。


じいって鬼庭さんを見た。
ほんまに俺?って首を傾げる。
お馬の上からごめんなさい。
鬼庭さんちゃんとお馬から降りてくれてるのに。
ほんなら鬼庭さんが「はい」って困った様に笑った。


「成実殿が是非にと申されまして。」
……ぬ?


ええ?
おシゲちゃんが?
俺のお迎えを?


お手紙のお返事返ってけえへんから忙しいんか、ちょう怒ってるんかのどっちかなーとか思ってたりしたんやけど。
まさかお迎えが来てしまうなんてー。


……えーと、どうしよう。
それだけおシゲちゃんご立腹?


……
………ぬーん!


まじで。
まじでおシゲちゃん。
怖い。
ちょう怖いおシゲちゃん…!


「お、鬼庭さん…」
「はい。」


何でしょう。

鬼庭さんが俺のそばに来てぺこり頭を下げる。
やぁやぁ俺にそんな頭下げないで。
かしこまらないで。
力抜いてや、ほら。
俺、聞きたい事あるん。
教えてくれる?


あんな、あんな。


…おシゲちゃん怒ってた?


どうやった?
お手紙読んでた時とかどうやった?
俺の事何かゆうてた?
やぁ、ほら俺奥州出る時結構勝手に出てきちゃって。
おシゲちゃんに止められてたにもかかわらず出てきちゃって。

すごくいいお話してくれたのにスルーしちゃって。


若干震える手で政宗様の着物握って鬼庭さんを見る。
ちょっと楽しそうな政宗様は見ないふり。
「そんなこったろうと思った」ってため息吐いてるこじゅさんも今は見ないふり。
やってあの時はなりふりかまわず焦ってたからー。


鬼庭さんをじぃー。
なぁなぁってじぃー。
目の前の鬼庭さんはちょっと目をそらしたり、後ろの政宗様を見てみたり難しい顔してて焦れったいん。
俺の喉もごくりって鳴ってしまうん。


「鬼庭さん…」


どきどき。
どきどき。


……
………


はい。


それはもう。
笑っているのに笑っていないという恐々っぷりで。



ぬーん!!


やっぱり。
やっぱり…!
おシゲちゃん怒ってた。
めさめさ怒ってた!!


どうしよう。
ただごめんなさいしただけやったら許して貰われへん気がぷんぷんするんやけど!
どうしよう!!


お、お、おシゲちゃーん!!


もう少しで奥州にたどり着くってゆう時に、何だか心がくじけそうです真樹緒です!


―――
――――


「で?」
「はい?」

実際の所はどうなんだ。
あの成実が本気で真樹緒にキレる訳ねぇだろう。

「あぁ、」

はい。
あれは真樹緒殿にそうお伝えしろと頼まれましただけで。
ご本人に至ってはそれはそれは楽しげでありました。


本当にあいつは面倒くせぇな。


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始まりました三章!
まずは鬼庭さんと。
コワモテだけど敬語キャラ、小十郎さんと話すときは敬語無し、という簡素なキャラ設定ですすみません(汗)

この後お城に返ってキネマ主は、笑顔のおシゲちゃんにグーでこめかみグリグリされるかと思います。
さあ、それからは明智さんと浅井さんだ!

まったりお付き合い下さると幸いです。


  

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