さっちゃんに案内されてやってきたお屋敷の門には、ゆっきーとおやかた様が待っててくれてました。
俺に気がついたら手を振ってくれて。
いつもと変われへんのに何だかちょっと恥ずかしい感じのする真樹緒です。


ぬー。
何でやろう。
何にも無いのに照れちゃうわ!


でももちろん手は振りかえしたけど!
もちろんあそこの癒し空間に飛び込むためにダッシュしたけど!


「ゆっきーおはよー!」


おやかた様もおはよー!!
お天気がよくっていい朝ですねー!
おはよー!


「あ、ちょっと真樹緒待ってよ!」


さっちゃんが呼んでるけど気にしないー。
政宗様が笑っててこじゅさんがため息ついてるけど気にしないー。
やって暫くのお別れなんやもん。
ここはやっぱりしっかりおやかた様やゆっきーを堪能しとかなくちゃ!


「あら、俺様は?」
「やぁやぁ、さっちゃんも堪能するよ。」


もちろんさっちゃんともぎゅーするよ!
でも今はテンション的に目の前のおやかた様とゆっきーっていうか!


「えいやー!」


ゆっきーに向かってぴょーんとダイブ。
今日はゆっきーあの赤い鎧?やないねんねぇ。
草色の着物もよう似合ってるよ!
さぁさぁちゃんと受け止めてやー!


結構すごい勢いで俺飛び込んで行ったんやけどやぁ。


「おはようございまする真樹緒殿。」
…さすがゆっきー…


びくともしないー。
さわやかな笑顔で受け止められました。


ぬう。
ちょびっとも動かんと受け止められてしまったん。
いっこしか年違わんのに。
なにこの力の差!


「よく眠れたか真樹緒。」
「おやかた様!」


ゆっきーとおはようのはぐしてたらおやかた様が上から頭をわしっとね。
おやかた様も今日はあのもさもさやないねんで。
藍色の着物が中々渋くて男前。


「おはようございますー。」
「うむ!」


ほうほう。
いっつもは皆こんな着物なんやねおやかた様。
そうよね。
毎日ずっとあんな鎧な訳無いよね。
おやかた様の赤いもさもさもゆっきーのハチマキも大好きやけど!


「信玄公。」
「おお、伊達の。」


丁寧な見送り感謝する。


政宗様が三日月の兜を抱えながらおやかた様にぺこっと首を下げた。
その後ろでこじゅさんもぺこり。
うん?
ほんなら俺も。
おやかた様を見上げてへらって笑った後ぺこりー。


ありがとう、をいっぱいこめて。
今までお世話になりました!
俺の我侭きいてくれてほんまにありがとうございました。
お見送りもありがとうね。
俺、甲斐が大好きよ!


「そうかそうか。」


名利よの。


大きな手でおやかた様が俺の頭をぐしぐしって。
ほら俺の好きな撫で方で。
全然乱暴やないんよ。
こう、ふわふわするん。
おやかた様撫でるのお上手ね!


「へへ…」
「あらあら妬けちゃう。」
「さっちゃん!」


大将は独眼竜とお話があるからこっちへおいでね。
大事なお話だから。


さっちゃんがぽんぽん俺の背中をたたいてほらって笑う。
お話あるん?って見上げたら撫でてくれてたおやかた様が政宗様を見てた。


「伊達のよ。」


此度の訪問、大きく感謝する。
東国の連結は独眼竜という猛者を加えその勢い豪壮なり。
我らが手を組み末広となり、やがては魔王をも飲み込むだろう。
今は僅かな一歩なれどその先は必ずや。


「ああ。」


正式にこの足で門をくぐれなかった無礼、申し訳なかったなおっさん。
この独眼竜に二言はねぇ。
存分にこの力を揮ってやるよ。


じきに奥州も動く。
脅威の背後、胡散臭ぇ輩が揃ってやがるからな。
後手は好きじゃねぇんだ。


「明智か。」
「死神の相手は中々面白そうじゃねぇか。」


少々の火の粉は散るかも知れねぇが、まぁそこは大目に見てくれや。
おっさん共の手を借りるまでもねえ。
それこそ松永の二の舞は踏まねえよ。


政宗が不敵に笑えば信玄も楽しげに喉を鳴らした。


「おお、そうであった。」
「Ah?」


その松永の事だが。


「昨日未明から行方が分からぬ。」
「Ha!」


予想通りだあの狸が!
どうせ俺達が奥州に戻れば行方を眩ませると思っていた。
あれはいつまでも同じ場所に燻っていられるような男じゃねぇ。


面白い。
今度は何を仕出かすのか。


「暫くは大人しくしてそうだがのう。」
「拠点も兵もねぇからな。」


「…」


政宗様がにやっと笑っておやかた様を見上げた。
横から様子を伺ってた俺は、二人のゆうてる事が難しくっていったいぜんたい何の事か全く分からんのやけど、政宗様とおやかた様が格好いいから別に分からんでもええかーって思ってます。
やっぱりイケメンは真面目なお話してるといつものすうばいイケメンね…!


やぁでもそれより。
二人がイケメンなんはいつもの事やからそれより。
松永さんおらんようになってもうたんやって…!
まじで!
つい昨日俺さようならの挨拶したのにまじで!


しかもどこ行ったか分からんとか今度どうやって会ったらええん俺。
どうやってお茶しに行ったらええん俺。


やだわ。
松永さん俺の事いっこも考えてなくてやだわ。
年上の遊び人な男にもてあそばれた気分おれ!!


「……」


ぬう。
いつもやったらここで「心外な」って松永さんのつっこみ入るのに今日は入らへんまじで。
まじで松永さん何もゆわんと消えてもうたん。


…ええもん。


松永さんがそのつもりやったら俺かって考えがあるもん!
やって俺にはこーちゃんがおるんやから!
今はお仕事に行ってておらんけど、すぐ帰ってくるんやから!
帰ってきたらこーちゃんに松永さんの居場所探してもらうんやもんね!
隠れててもあかんねんから…!


俺がむんっと張り切ってたら横から。


「っ真樹緒殿…!」
「ぬ?」


横からゆっきーに呼ばれたんあらゆっきーどうしたん。
俺がこっそりおやかた様と政宗様眺めながら松永さんに闘志を燃やしてたらゆっきーが呼ぶん。
なぁに、って振り返ったらちょっぴり寂しそうな顔で笑ってた。


やぁやぁ、ゆっきー。
そんな顔しないで。
笑顔でお別れしようなって昨日ゆうたばっかりやん。
またすぐに会えるん。
上田のお城にも呼んでくれるんやろう?


しょんぼりしてるゆっきーの頭をなでなで。
ほらほらゆっきー笑ってってなでなで。
ほんならゆっきーががばっと顔を上げて。


「ほら旦那、ちゃんと言うんでしょ。」
「うっ、うむ!」
「ぬ?」


ゆっきー?
さっちゃんもどないしたん。


「真樹緒殿…!」
「はい?」
「某その、こ…この度!」


この度真樹緒殿とお知り合いになる事ができました事、心から感謝を申し上げます…!


「ゆっき…?」
「真樹緒殿。」


某、真樹緒殿と出会い今まで知る由も無かった感情が芽生えたのは己の身の事ながら駭然とする思いにございます。
貴殿が笑えばその顔に己の胸は震え、何故かぎゅうぎゅうと締め付けられるようでした。
床に伏せる独眼竜を思うそのお心と信念。
感銘を受けると同時に少し羨ましくも思い、何と恐れ多いと叱咤したのも最近の事。
あなたに触れられればどうしてだか眩暈を覚えるのです。


某にその所以は分かり申さぬ。
事由も分かり申さぬ。


ですが。


「大事にしとうございます。」


この心地を。
甘やかな痛みを。
許してくださいますか。


「ゆっきー…」


やぁ、ゆっきーが。
ものすごい真面目な顔で、イケメンな顔で、一生懸命俺に何やゆうてくれるんやけど俺しっかり聞いてても何てゆわれてるんかよう分からん…!


どんだけ。
おれどんだけ…!


どうしよう。
どないしよう。
やってゆっきーの言葉遣い難しい。
でも折角真剣な顔でゆうてくれてるんやからお返事せなあかんし。

さっちゃんに目をそろっと流してみても「自分で考えな」ってにっこり笑われるだけで。
さっちゃん。
お母さんの本領発揮なさっちゃん。


さっちゃん、絶対あれやん。
俺が分かってへんの知っててやんそれ。
この真面目な雰囲気壊されへんし。
政宗様とおやかた様は今お話してるし。


ぬう。
これは俺がしっかりしないとー。
お返事しないとー。


「ゆっきー、ゆっきー。」
「はい。」
「え、と…その…」


俺がやぁ。
うん、ってゆうたらゆっきーは嬉しい?
許すよーってゆうたらゆっきーは嬉しい?
そおっとゆっきー見上げたらさっきと負けへんぐらい爽やかに笑うんゆっきー!


おおおお…
なんていりょく…!


「やぁ、ほんなら。」


おず、ってゆっきーの頭に手ぇをちょこん。
俺ゆっきーが喜ぶんやったらそれでええと思うん。
ほらゆっきー一生懸命やったし!


やからうん、って。
ゆっきーを見上げて笑いながら「うん」って。


「真樹緒殿…」
「ゆっきーにそんな思われて俺しあわせー。」


へへって笑いながらゆっきーの頭をぐしぐし。
俺の好きなふわふわ髪の毛をぐしぐし。
そうそうやっぱりゆっきーは笑ってる方が素敵よ!
真面目な顔も大好きやけどね!


ぬー。
どっちもイケメンさんなん。
最後にやっぱり笑ってたら今度はさっちゃんが。


「ぬ?」
「ねぇ真樹緒。」
「はい?」
「俺もさ、」


真樹緒に会えてよかった。
らしくないのなんて百も承知なんだけど。
真樹緒といるとね、嬉しいなんて、憤るなんて、普通の感情がいつの間にか溢れてしまっていて困る。


さっちゃんさぁ、最近お忍びさん失格で。
それでもそれが矢鱈と嬉しくてくすぐったくて。
悪くないなぁって思う日だってあるぐらいで。


「さっちゃん…」
「佐助はまこと、人らしくなりました。」


それまでのこやつなぞ、真樹緒殿には見せられたものでは無い働きぶりでござった故。
ですがその佐助が。
最近では可愛げも出て参りました。


「そうなの。」


俺、最近本当にだたの人になっちゃって。
だからさ。


「忘れないでね。」


覚えていてね。
また、名前を呼んでね。


さっちゃんが笑うん。
すっごく優しく笑うん。
俺、何か胸がきゅうってしてもうて。


「さっちゃん…!」
「おっと。」


さっちゃんの胸に思わず飛び込んだ。


「何、どうしたの。」


やってさっちゃんがそんな顔するから。
俺苦しくなる。
笑ってばいばいしようと思ったのに!
泣いてしまいそうになる。


さっちゃん、さっちゃん。
それにゆっきー。


「おれ…おれ…」
「てめぇら何泣かせてくれてんだ。」
「!」


政宗様!
やぁ!政宗様!
さっちゃんの胸に顔うずめてぬうぬうゆうてたらおやかた様とお話してたはずの政宗様が!!


お話終わったんやろうか。
ちょっと涙が浮かんでもうた目で見上げたら「ほら泣くな」って政宗様が目元ふいてくれた。


ぬう。
大丈夫。
ちょっときゅうってなってしまっただけなん。


「深い意味は無かったんだよ。」


でも、ごめんね。
考えさせたみたいで。
ちょっとばつが悪そうに俺の頭を撫でるさっちゃんは、俺の頭を撫でた後ほら行きなって政宗様の方に俺を押す。
ぽふ、っとたどり着いたのは政宗様の胸の中。


「さっちゃん。」
「また、会おうね。」
「ゆっきー…」
「必ずや。」


「ぬー!」


絶対。
絶対なん。
また絶対に一緒に遊ぶんやから!
政宗様にしがみついてぎゅう。
約束やでって二人にゆうて。


「真樹緒よ。」
「おやかたさま…」
「息災であれよ。」
「はいー…」


おやかた様も元気でね。
おやかた様はすごい強いけど、お歳もお歳やねんからあんまり無理したらあかんねんで。
ちゃんとさっちゃんのゆう事聞かなあかんよ。
ほんでゆっきーと叫ぶのもええけどやっぱりやり過ぎやんようにね。


「肝に銘ずる。」
「お約束ね。」


おやかた様とゆびきりげんまん。
「何じゃ?」って不思議な顔されたけどゆびきりげんまん。
また会う時まで怪我とかせんとってな。
やくそく。


指切った!って顔あげたら「政宗様が行くか」って。


「道中気をつけよ。」
「はい!」
「それでは信玄公。」
「うむ。」


失礼するぜって政宗様が俺を持ち上げて。
やぁ、だっこやでだっこ。


「政宗様?!」
「馬が足りねぇ。」


お前は俺と相乗りだ。
まぁ、足りたところで一人で乗せれやしねぇけどな。


「ぬ?何で?」
「乗れんのかお前。」


一人で。


やぁやぁ、いっちばん初め政宗様とおうた時に乗れたやん。
ほら、こじゅさんのお馬に。
必死やったけど。
どうやって乗ったか分からんぐらい必死で、結構お馬まかせやったけど。


「…あれは乗馬とは言えねぇよ。」
「確かに。」
「ぬうー。」


まぁ、そりゃあ俺お馬とか乗ったことないし!
乗る機会もなかったし!
仕方ないんやけど!!
やから素直に政宗様と一緒にお馬乗るよ!
でも途中でこじゅさんの方のお馬にも乗るもんね。
ほら、最近こじゅさんといちゃいちゃしてへんから!!


「政宗殿!」
「Ah?」
「政宗殿、貴殿とはいつか手合わせを願いたく。」


この真田幸村全力をかけてお相手仕る覚悟でござる。


「……Ha…」


なんて目をしやがる真田幸村。


「いいだろう。」


お前の名は奥州にも届いている。
手合わせは必ず。
楽しみにしている。


「有難く。」


ゆっきーが馬に乗った政宗さまにぺこって頭を下げた。
それから一歩下がって手を振って。


ああ、帰るんやなぁって。
甲斐はばいばいなんやなぁって。
実感して政宗様の着物をぎゅう。


「行くぜ真樹緒。」
「……うい。」


政宗様が手綱を引いてお馬が走る。
隣にはこじゅさん。
後ろには一緒に来た兄やんらが「Yeah――!!!」って叫びながら続いて。


懐かしいなぁ。
やっと頬っぺたがゆるんで。
蹄の音が大きく響く中振り返って、でもそれに負けへんように叫んだ。



「おやかた様、ゆっきー、さっちゃん、元気でね!」



またすぐに会おう。
寂しいって思う前に会おう。
お手紙書くからお返事ちょうだいな。


「真樹緒殿!」
「元気で!」


手を振ってくれてるゆっきーとさっちゃんが見えやんようになるまで手ぇ振って。
ずーっとずーっと手ぇ振って。
見えやんようになったらやっぱり何や寂しくて。


「……っく。」
「無理すんな。」
「ぐす…」


政宗様にくっついてちょびっと泣いた。


ばいばい皆。
ばいばい甲斐。
今は涙が止まらんけど、俺絶対にまた遊びに来るからね!
笑って皆の名前よぶからね!
それまでばいばい…!


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間章終わりました…!
鬼庭さんが出てきませんが、三章のはじめにて初お目見えです。
きりがよいので間章はこれにて終幕。

次回は奥州が近づき鬼庭さんと合流です。
そしておシゲちゃんにただいまとごめんなさい。

暫くは甲斐組お休みですが、またすぐに出てまいります。
松永さんはどうしよう。
今の所考えてはいないのですが、もしかしたら出るやもしれません。
未定なのですぬーん。


長い長い間章、お付き合いくださって本当にありがとうございました。
またキネマは新しい展開へと入ってゆきますが、どうぞこれからもよしなに。
三章では明智さんと瀬戸内が出てきます。
キネマ主がちょっと痛い思いもします。
ですがやはりギャグも混ぜて最後はハッピーに終わります。

これからのキネマ主も見守っていただけたらと思います。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!

  

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