「真樹緒、支度は出来たか。」
「はーい!」


今日も甲斐は快晴。
でもちょっと朝は肌寒い。
眩しい朝日に目を細めて、俺を呼んだ政宗様を振り返った。


ぬー。
朝からそわそわ何だか落ち着かない真樹緒です。
おはようございます!


「忘れもんはねぇな?」
「やぁ、俺特に何も持って来て無いから大丈夫。」


着の身着のままでさっちゃんが連れてきてくれたから。
こっちで借りてた着物、畳んで返すぐらい。
何かあるならこっちに積んでやるぞ、って手ぇ伸ばしてくれたこじゅさんに「ありがと」ってゆうて部屋を見渡した。


ちゃんと畳はほうきではいたしー。
着物は畳んだしー。
よしよしやり忘れてる事はなんもないん。


「真樹緒、風魔はどうした。」
「ぬ?こーちゃん?」


こーちゃんやったらお屋敷の屋根の上におるよ。
屋根の上ですずめとお話しとったよ。
こーちゃんは動物さんと仲良しさんなん。


呼ぼうか?


「(しゅた)」
「あ、こーちゃん。」


やぁやぁ、こーちゃん。
呼ぶ前に来てくれたんー。
ありがとー。


「政宗様が何やご用やって。」


こーちゃんの頭を撫でながらぴょこんって出てる寝ぐせをちょちょいって触る。


ぬふふん。
昨日は皆一緒に寝たのです。
お布団でね。
もちろんこーちゃんも!


そのせいか知らんけど、こーちゃんが寝ぐせなん。
頭の後ろの方から自分では見えやんみたい。
でも可愛いから朝起きた時からそのままなん。
こーちゃんには内緒やで!


「?」
「お前には少し越後に寄って欲しい。」
「ぬ?」


やあやあそうそう。
今日は奥州へ帰る日なんやねんで。
政宗様と、こじゅさんと、こーちゃんと、リーゼントの兄やんと皆で奥州に帰るん。
お馬が甲斐への行きしな怪我してもうたから今日一緒に帰れる子はちょびっと少ないらしいんやけど、ゆっくり帰るから大丈夫やって政宗様ゆうてたよ。


それでね、朝ごはん食べてから俺らずっと帰る用意してたんやけど政宗様がこーちゃんを呼んだん。
何やお忍びさんのお仕事みたい。


ぬぅ。
越後やって。
えちご。
どこやろう。


「うちのお隣さんだ。」
「おとなり?」
「甲斐もだがな。」
「こじゅさん。」


政宗様も。
政宗様からお手紙貰ってるこーちゃんを見ながら首ひねってたらこじゅさんと政宗様が笑いながらこっち見たん。


へー。
おとなりさんなんやねんてー。
えちご。


……
………


いちご。


越後だ。
おちゃめやん。


ほら、最近ごぶさたやった真樹緒君のおちゃめやん。


もう。
わかってるん越後。
やぁ、でもその越後に何かご用事?
せっかくこーちゃんも一緒に奥州帰れると思ったんやけど。


「武田信玄と盟を組んだだろう?」
「うん。」


同盟。
仲良くしましょうねってやつやろう?
知ってるよ。


「ちょっと行ってきます」って俺の前で頭をぺこっと下げるこーちゃんの頭をぐしぐし。
越後で笑われたらあかんから寝ぐせを直してあげるん。
可愛かったけどお仕事やったらしゃあないもんなー。


ぬー。
残念!


「武田は越後とも同じように盟を組むようだ。」


名を共に連ねるにあたって挨拶ぐらいはしとかねぇとなぁ。


「う?」
「東国結束の正式な書だ。」


こそっとこじゅさんが教えてくれたけど俺は何の事やら。
やぁ、でもとにかく越後さんとも仲良くしましょうねってことやろうか。


ぬー。
仲良くするのはええ事よねー。
仲良くなったら越後にも遊びに行ったりしてええんかなぁ。


「おっかねぇ女狐と食えねぇ軍神がいるぞ。」


会いたいか。


けらけら政宗様笑ってるけどもう、どないしたん。
そんなに面白いとこなんやろうか越後。
いちごに似てるえちご。


「軍神さんとめぎつねさん?」


きつねさんかー。
きつねさんにはちょっと会ってみたいかも。
ほら何か可愛い感じするやん。


ほんで軍神さんってあれよね。
おやかた様みたいにでっかいんやろうか。
ムキムキで。
たまに斧とか振り回したりするんやろうか。



……
………


「真樹緒?」
「こーちゃん。」
「(?)」
くれぐれも気をつけてね。


斧振り回されたらすぐに帰ってくるんやで。
お手紙渡したらすぐに帰ってくるんやで。



ぬん。
ちょっと心配!


…一体何を想像したのでしょうか。
予想はつくがな。


こじゅさんも政宗様もそんな落ち着いてる場合やないねんで!
大事なこーちゃんのおつかいやねんから!


もー。
こーちゃんは頷いてくれたけど!
やっぱり心配よ俺。
でも行ってきますってこーちゃんがぺこってするから仕方なくお見送り。


「無理したらあかんよ。」
「(こくん)」


ほんならいってらっしゃい。


こーちゃんのおでこと俺のおでこをくっつけて、鼻をすりすり。
二人でへへって笑ったらこーちゃんの口が「いってきます」って動く。


なるべく早く戻ってきますって。
待ってて下さいって。
こーちゃんの息が耳にかかってくすぐったい。
肩をすくませてけらけら笑ってたらもう。


「あ。」
「行ったか。」
「働きますな。」


そこにこーちゃんはおらんくって。
政宗様とこじゅさんが俺の方を見て「俺達も出るぞ」って。


「出発?」
「ああ、そろそろ馬の用意も出来てる頃合だろう。」
「待ちくたびれてるよ。」
「さっちゃん!!」


おはよう真樹緒。
ごきげんいかが。
馬も荷物ももう準備は出来てるよ。
大将も旦那も外でお待ちだよ。


「びっくりした!」
「ああごめん驚かせた?」


しゅたっとどこからともなく現れたさっちゃんが俺の背中からがばっとね。
あれやぁさっちゃんいつの間に!!
上から見下ろされて俺ちょっとびっくりよ!




「あれ、独眼竜止めないの?」
「Ah?今生の別れだ。


大目に見てやるよ。


ちょっと聞き捨てならないんだけど。


甲斐から奥州までなんて一晩で飛んで行けるんだからね。


--------------

大詰めです間章。
あと一つか二つで間章が終わります。
次回は鬼庭さん。
ドキドキします鬼庭さん。

おシゲちゃんに怒られるのは三章に入ってからになりますかと。
もう本当にここまで読んでくださっている皆様に感謝でいっぱいです。
すみませんがもう暫くお付き合い下さいませ。

それでは。

  

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