さっちゃんがとんとんとん、ってまるで俺を乗せていないかのよーなステップで廊下を飛んだり走ったり。
あっという間に大きなドアの目の前にたどり着いてしまいました。
真樹緒ですー。
あ、ちがうちがうまちがえた。
小天孤仮面ですー。
こんにちは!
小天孤仮面。
覚えてや。
「天孤仮面さん…」
「なぁに?」
「何か床から針出てるんやけど。」
そうやねん。
ドアの前についたらな、中から賑やかな声聞こえてきたん。
やぁ、その声は明らかに政宗様らのんやねんけど。
「待てコラ真田幸村ぁぁぁぁ!」とか。
「俺は負けぬぅぅぅぅ!!」とか。
「政宗様、お一人で行かれてはなりません!」とか。
な?
絶対政宗様とゆっきーとこじゅさんやろう?
それはええねんけど。
「いいんだ。」
「やっていつもの事やもん。」
俺、慣れたよ!!
甲斐に来て、少々の事やったらもう慣れてもうたよ!
ほんでな。
政宗様らの声と一緒にやぁ。
後、シャキ、シャキ、シャキーンって何や正体の検討もつかんような音が聞こえてきたん。
シャキ、シャキ、シャキーン
シャキ、シャキ、シャキーン
ほら。
金属がこすれてるようなやぁ。
……
………
シャキーンって何。
シャキーンて。
さっちゃん。
ちょっとさっちゃんあれ何の音。
見かけは普通のお御堂やのにこんな地下があるのもびっくりやけど、あの音何。
さっちゃんの背中からオレンジ色の頭をぽふぽ叩いたん。
ほんならさっちゃんが「はいはい、ちゃんと掴まってるんだよ」ってそのドアを開けた訳です。
「針が床からシャキーン…」
「針山修行だからねー…」
男祭りなんだよ、真樹緒。
諦めたような顔でニヒルに笑うさっちゃんは実は目が笑ってへんねんで。
きをつけて…!
「へー…はりやましゅぎょう…」
何その修行。
床から針突き出てるけど。
針山っていうか剣山みたいな感じやけど。
床から針出てくるし、その針をよけるところって言うたら所々に鎖でぶら下がってるちっちゃいスペースの足場だけやし、しかもそこ床からやったら結構高いし。
ほんまに修行?
罰ゲームやなくて?
「ばつげぇむって何?」
旦那達なら大丈夫だよ。
腐っても武将なんだからさ。
針ぐらいかわしてみなさい、ってね。
「そんなさっちゃんもすてきー。」
イケメンスマイルなさっちゃんに俺は逆らえない何かを見出しました。
ぬう。
甲斐のお母さんは今日も甲斐のお母さん!
「こら、天孤仮面でしょ。」
「はあい。」
「よし、じゃぁ向こうの扉まで飛ぶからね。」
「はいはいー。」
そう言うてさっちゃんはひょいひょい天井からぶら下がってる鎖?みたいなんの上へ飛んだん。
それがまた意外に高くてな!
しかも不安定やしぐらぐらするん。
ちょっとびっくりしてさっちゃんの首にぎゅう。
ほんなら下から「真樹緒!」って。
「ぬ?」
やぁやぁ、あれはこじゅさん。
こじゅさんがな。
絶妙に針が出てくるのを避けながら上を見上げてて。
刀持って天井からぶら下がってる鎖に掴まって、ちょびっとしんどそうな体制で俺を見上げてて。
手ぇ振ろうと思ったんやけど俺今小天孤仮面やん?
真樹緒とちゃうやん?
やからそろっと聞こえやんかった感じにうまいことスルーしてみてんけど。
「真樹緒!そんな所で何してやがる!!」
「真樹緒殿ですと!?」
「What!?」
見つかった!!
政宗様とゆっきーにも見つかった!!
そしてばれてる!!
「ぬー。」
でも違うもん。
俺、今は真樹緒と違うもん。
小天孤仮面やもん。
小天孤仮面は皆と初めましてやねんからお返事せぇへんのやもんね。
やからさっきとおんなじ様に真樹緒って呼ばれた事は聞こえやんかったふり。
ほらここはしらばっくれといた方がええかなーっておもってやあ。
「われこそはー、小天孤仮面!」
真樹緒ちがうねんで!
お面つけてるでしょー!
小天孤仮面です!
天孤仮面と間違えないでねー。
ちゃんと小ってつけやなあかんねんでー。
さっちゃんの背中からのっしり乗り出して名乗ってみた。
「あ、こらちょっと危ない!」
「ぬ?」
ほんならぐらって。
ただでさえさっちゃんと不安定なとこにおったのに。
体がぐらって傾いてやぁ。
「お、おおお…!?」
さっちゃんの背中から落っこちました!
俺、小天孤仮面やけど天孤仮面ちゃうからひょいっと飛んだりできませんよ!
針避けたりできませんよ!
どうしよう…!
「真樹緒!」
「Shit!」
こじゅさん!
政宗様!!
「ぬっ!真樹緒殿はどちらに!?」
分かってへんのゆっきー。
政宗様とこじゅさんは気ぃついてくれたのに!
俺が分からんの!
もうー!
ばれてもあかんのやけど、もうー!
ゆっきーからの愛が感じられないわ!
落ちるんー!
「危ねぇ…!」
「ぬー!」
もうあかん。
あの尖った針のえじきになるんや俺、って諦めた時。
(やぁ、諦めるん早いとか言うたらあかんよ。
俺あんな政宗様とかゆっきーみたいに針が出てくる隙を狙って機敏に避けたりできひんもん。
俺一般人やもん…!)
その時にな。
「う?こじゅさん!?」
なんと!
なんとこじゅさんがな!
こじゅさんがあのたくましー腕で助けてくれたん…!
「Good!」
「あれは先程の忍…!?」
確かに倒したはず。
なぜここに…!!
「Ah……?」
「政宗殿?」
……
………
分からねぇのかお前。
何がでござろう。
「Amazing…」
「ぬ?あめ?」
今何と申されたか政宗殿。
「…お前の頭の固さには恐れ入るぜ。」
「なっ!どういう意味にござるか!!」
「ぬ?」
政宗様とゆっきーが何か話してるんがこじゅさんの腕の中から見えた。
声は聞こえやんのやけど。
こじゅさんにぎゅっとされててやぁ。
こじゅさんの心臓の音ばっかり聞こえるん。
どくどく。
どくどく。
ちょっと速いん。
「無事か…」
「こじゅさん!!」
ああそうや!
おおきにこじゅさん!
こじゅさんが助けてくれたから大丈夫!
さっきまでそこにぶら下がってる鎖を持って針をうまい事避けてたこじゅさんが、いつの間に受け止めてくれたんかよう分からんかったけど。
俺大丈夫!
「へへ…」
あんな、俺を抱えたこじゅさんはしゅたりと飛び上がって、近くのあのちょびっと安全なスペースに着地したん。
めっさびっくりしたで。
でも針に刺さらんかった!
「ありがとうこじゅさんー。」
たすかったー。
おおきにー。
ありがとー。
俺、あの針にぷすっと刺さってしまうかと思ったわー。
「こじゅさんありがとー。」
「真樹緒…」
ありがと、って笑ったらこじゅさんがはーって長いため息をはいた。
んー?
なぁにこじゅさん。
そんな疲れたような顔しちゃって。
ぬー?
首傾げたらこじゅさんが今度はふるふる首を振るん。
何やろ、って聞いたんやけどこじゅさんは俺の頭をぽんぽん。
ぽんぽん。
「真樹緒、」
「あ。」
「あ?」
「こじゅさん、こじゅさん、俺今真樹緒ちがうん。」
真樹緒やねんけどな、真樹緒ちがうんよ。
「こんな所で何してんだ、」って難しい顔したこじゅさんの眉間をぐぃー。
そして更にぐりぐり。
なぁなぁこじゅさん。
ちょっとこのお面見てんかー。
ほらほら見て。
狐やん?
これ、あれやねん。
さっちゃ…ちがうちがう天孤仮面とおそろいやねん。
「天孤仮面…」
あぁ、あのふざけた忍か。
真田の。
あれがどうした。
こじゅさんが俺をだっこしながら針が出てない隙をついて、隣の足場に飛び移った。
あ、もうちょっとで政宗様がおるとこや。
相変わらずゆっきーと何や言い合ってるけど今度は何の話やろー。
「やからな、俺は小天孤仮面やねん。」
「……あァ?」
こてんこかめん?
「小天孤仮面。」
どお。
小さい天孤仮面の事やねんで。
さっちゃんと二人で皆の事見にきたんよ。
どお!!
「…言いにくいな。」
小天孤仮面。
「ぬーん。」
自身満々で正体をばらしたっていうのに、真面目な顔したこじゅさんにさっちゃんとおんなじ事言われてしまいましたまじで…!
ぬー。
そりゃあちょびっとね…
ちょびっと言いにくいと思うよ!
でも真樹緒って呼んだらあかんの!
小天孤仮面でよろしくね!!
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