もしもし、かめよー


かめさんよー。


こーちゃんが扉の奥に消えてもうて、一人ぼっち。
三回ぐらいお御堂の中をぐるっと歩いてみたけど特に何にも無くて。
表に出てみたらちっちゃいカメがおったからお御堂の中に連れてきてみました。
真樹緒ですこんにちはー。


せかいのうちでーおまえほどー。


のっし
のっし



カメさんと一緒にお御堂の中をうろうろ。
カメさんの行く方へうろうろ。
ちょっと一人や無くなって俺の気分もご機嫌ですよ。
カメさん可愛いん。


あゆみののろいーものはないー。


のっし
のっし



俺実は昔カメ飼ってた事あるねんで。
小学生ぐらいの時。
リクガメ二匹。
甲羅が他のカメよりもりっとしてて可愛いねん。


エサやりは俺の仕事でやー。
台所に置いてあるリクガメフードあげるん。
リクガメフード。
もりもり食べて大きくなったんやで!


どうしてそんなにのろいのかー。


のっし
のっし



そんなカメさんと「うさぎとかめ」歌いながら一緒にまったりしてたらいきなりぼふん、って後ろから音が。
音がして煙がもうもうと。


ぬ?
こーちゃんが戻ってきたんやろうか。
ぐるり、ってカメさんだっこして振り向いたら何とやぁ。


「ようこそ我が道場へ、ってあれ?」
う?


こーちゃん違うん。
やぁ、ぼふんって現れたからお忍びさんやとは思うんやけど。
でもこーちゃん違うん。


やってな、何かお面つけてるねん。
お面。
きつねかなぁ?
顔の半分だけ隠れてるんよー。


「……」
「……」


あれ?
でも俺、あのお面のお忍びさん知ってるよね?
俺の知ってるお忍びさんやんね?
じぃーて二人静かに見詰め合ったままやねんけど、これはあれやんなぁ。


…真樹緒、
…はい。


ほら。
真樹緒って言うたし。
俺の事知ってる人やで。


でも何でお面とかつけてるか分からんくってじぃー。
顔半分隠れててもイケメンとかずるいなーとか思いながらじぃー。


「真樹緒。」
「ぬぅ。」
…分からないとは言わせないよ。
……さっちゃん。
「うん。」


やっぱりさっちゃん…!
声がさっちゃん!
ものすごい真剣さが伝わってきたんやけど何かあったんやろうか。


「ぬーん。」


でも何でそんなお面つけてるん。
やぁ、狐さんは可愛いねんけど。
突然出てきたらちょびっと怖かったでさっちゃん。


「ごめんごめん、ちょっと訳有りでねー。」
「ぬー?」


さっちゃんがひょい、ってお面を頭に上げた。


ほんならいつも通りのさっちゃん!!
やっといつものさっちゃん!
やっぱりそっちのが落ち着くー。
なー、かめっちょ。


「かめっちょ?」
「そう、かめっちょ。」


何、亀見つけたの。
うん。名前はかめっちょ。
…亀だから?
うん、カメやから。


「かめっちょ?」
「かめっちょ。」


うん、まぁ真樹緒がいいならいいんじゃない?
よしよし、って笑いながら俺の頭を撫でるさっちゃんが「で?」って。


「う?」
「真樹緒は何でこんなとこにいるの?」
「ああそうやさっちゃん!」


わすれてたさっちゃん!


そうやねん。
俺、こーちゃんと政宗様らを探しにきてんよー。
一緒にお昼寝してたんやけどな、起きたらおらんかったん。
お屋敷の中とかお庭とかも探してみたんやで?
でもこじゅさんもおらんし。
どないしょーって困ってたらこーちゃんがここに連れてきてくれてん。


「さっちゃん知ってる?」
「あー…」


撫でられてるまま、かめっちょと一緒にさっちゃんを見上げたらさっちゃんが苦笑い。


ぬー?
どないしたんさっちゃん。
そんな困った顔でー。
俺、何か変な事言うた?


何でさっちゃんが困ってるんか分からんくってきょとん。
ぱちぱち瞬きしとったらさっちゃんがあのね、って。
さっちゃんがお話してくれた。


「ぬ?ほんならやっぱり皆この中におるん?」
「見事に全員ね。」
「おお…」


あのね、さっちゃんによるとね。
やっぱこの中に皆おるみたいやで。
なんでも政宗様が奥州に帰るからって、おやかた様にご挨拶に行ったらしいん。
ほんならそこにゆっきーとかさっちゃんもおってやぁ。
何かもめたんやて。


何でもめたんかはさっちゃん教えてくれへんかったんやけど、もめすぎておやかた様のお庭ぐちゃぐちゃにしてもうたらしくて。
「そんなに暴れたいのならうちの道場でせいっ」って、怒られたんやてー。


ぬー。
そりゃあおやかた様も怒ちゃうわー。
おやかた様のお庭すっごい綺麗に手入れしてあるもんー。


もー。
政宗様、もー。
あんまり暴れたらあかんやんー。


「ぬ、」
「真樹緒?」
「やぁ、でもさっちゃんは何でお面つけてたん?」


政宗様らはこの先におるん分かったけど、さっちゃんは?
何でここでお面?
さっきようこそ、って言うてたけどやぁ。


「ちょっとお仕事をねー。」
「ぬー?」
「旦那達に俺様だってばれない様にさ。」
「う?」


でも俺分かったよ?
さっちゃんって分かったよ?
俺で分かるんやから他の人にもばれるんちゃう?
さっきとは違う方に首を曲げたらな。


真樹緒。
「うぃ?」
旦那だよ?


分かってるの。
あの旦那だよ。



ぬーん。
さっちゃん顔がちょうまじです。
もしかしてゆっきー、さっちゃんって気ぃつかんかったんかな。
いっつも一緒におるのに。



「ま、竜の旦那は分かってたけどね。」


やっぱり!
やっぱりゆっきー気ついてなかったんまじで…!


さっちゃん…
…まぁ旦那だしね…


慣れてる慣れてる、ってさっちゃんがまたお面をつけた。


あれ?
さっちゃんどっか行くん?
ここでこのお御堂来る人をお出迎えしてるんちゃうかったん?


「さっちゃん?」
「まだちょっとお仕事残っててさ。」
「ぬ?」


何かな、さっちゃん又政宗様とかこじゅさんとかゆっきーのとこに行かなあかんねんて。
そこでお仕事あるねんて。
忙しいねんねー。


「…」


ぬー。
チャンスちゃう?
やってほら、さっちゃん政宗様らのとこ行くっていうし。
これはお願いしてみやなあかんのちゃう?
こーちゃんには駄目って言われたけどさっちゃんやったら許してくれそうやない?


ってことでー。


「さっちゃーん。」
「んー?」
「お願いあるんー。」


聞いてー。
俺のお願いきいてー。


ちょびっとおねだり。


さっちゃーん。
ちょっと俺のお話聞いてんかー。
かめっちょと一緒にお願い。
やぁ、かめっちょは首伸ばしてるだけやけど。
お願いなん。


「あらまぁ、可愛いこと。」


ほんならさっちゃん俺の頭小突くん。
ちょい、って笑いながら小突くん。
思わずかめっちょも首をすくめてしまうよー。


「なぁに。」
「ぬ?」
「お願い、言ってみな?」
「さっちゃん!!」


まじで!
さっちゃんまじで!!


「まじで。」
「さっちゃぁぁぁん!!」


ありがとさっちゃぁぁぁん!


「はいはい苦しいよ。」
「うれしいんー。」


簡単におっけーが出て思わずさっちゃんに抱きついてしまったよ!
ぬーん!
ありがとさっちゃん!


「なんの。」


で?ってさっちゃんが笑う。


あんな!
あんな!
皆のとこに一緒に連れて行ってほしいん。
こーちゃんにここで待っててって言われたんやけどやぁ。
やっぱり俺みんなのとこに行きたいん!


やから連れてってー。
お願い連れてってー。


「ああ、こーちゃん?」
「そう、こーちゃん。」


ここでおってな、って言われたん。
やから一人で行ったら絶対怒られてしまうんよー。
こーちゃんは心配しょうやでなー。


心配性っていうか過保護って言うか、溺愛って言うか…
「ぬ?」
「いやいや何にもー。」


って事で真樹緒もはい、お面。


「おめん?」


さっちゃんがはい、ってくれたのはさっちゃんとお揃いの狐のお面。
ちょっと小さめ?
でもお面。
これどうするん?って聞いたら「真樹緒もつけるんだよ」やってー。


「俺も?」
「一緒に行くんでしょ?」
「うぃ。」


でも一緒に行くだけやのに?
おめんいるん?


「顔がばれたらまずいって言ったでしょ。」
「あ、」


そっか。
ゆっきーにはばれてないんやもんねぇ。
そんなさっちゃんに俺が乗っかってたらまずいもんねぇ。


はいはいお面かぶりましょー。
狐のお面かぶりましょー。
さっちゃんから貰ったお面を顔にぺとってくっつけた。


「あ、可愛い可愛い。」
「そーおー?」


でも前見えへんねんけどな。
真っ暗。
やって穴とか開いてへんねんもん。
ぜんぜん見えへん。


「俺様がいるから大丈夫ってねー。」
「わぁ…!」


「はい行くよ」ってさっちゃんが俺をひょーいって抱き上げた。


おおお!
いつもながら軽々ね!
かめっちょは危ないからお留守番な。
手ぇ振ったらかめっちょも首を伸ばしてばいばいしてくれました!


かめっちょ行ってきます!!



「あ、真樹緒。」
「ぬ?」
「俺の事は天孤仮面って呼ぶんだよ。」
「天孤仮面…」


恥ずかしいんだけどねー。
ほら大将から言われてるからさ。
さっちゃんが飛びながら言うん。


へー。
天孤仮面かー。
顔隠してるから名前も秘密なんやてー。
へー。


びゅんびゅん周りの景色が変わっていく中、俺はむんむん。
さっちゃんは天孤仮面やねんなんよなぁ。
てんこかめん。
でも俺も仮面つけてるよ?
きつねの。


ほんならやぁ。


「さっちゃーん。」
「どうしたー?」
じゃあ俺は小天孤仮面な。
……こてんこかめん?
小天孤仮面。


ほら。
あれやん。
ちょっと小さい天孤仮面の事やん。


どう?
小天孤仮面どう。
うまい事言うたんちがう?
どう!!!



ちょっと言いにくいよね。


小天孤仮面。


ぬーん!!


だめだし!!
さっちゃんからダメ出し出ました!!


ぬー。
いいもん。
俺は気に入ったもん。
やから小天孤仮面でいくもんね!!


  

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