丸い月に照らされて、長い廊下は薄ぼんやりと明るかった。
喧騒は遠くに僅か聞こえるだけでここはとても静かだ。
ちりちりと聞こえる虫の声に、時折吹き抜ける少し湿った様な風。
火照った体にとても心地よい。


―――少しも酔えやしなかったが。


「にゅー。」
「…どうした。」


腕の中の小さな体はもぞもぞと動きながら何やらぐずっている。
本格的に眠気が襲ってきたようだ。
廊下に腰を下ろし、酒臭いその体を膝に乗せ庭を伺えば相変わらず丸い月が自分達を見下ろしていた。


「まさむねさま。」
「Ah―?」
「なんでぇ、まさむねさまおこってるん?」


おこったらいやや。


頭をぐりぐりと俺の首に擦り付けてくる真樹緒の声は舌ったらずで。
まさむねさま、まさむねさま、と可愛らしく寄り添ってくれるのは嬉しいが、俺の気持ちを露も酌んでいない科白に溜息が漏れる。


「てめぇのせいだろうが酔っ払い。」


小さな頭を小突きながら言うが、思いがけず甘く出てしまったのは真樹緒のへの字に曲がった眉や、膨れた頬や、cuteに尖った唇にまんまと絆されてしまったからに他ならない。
「何で」だと。
あれだけ愛想を振りまいておいてよくそんな事が言えたものだ。


「ぬー。」


まさむねさまおこらんとって。
おこらんと俺とおって。
ほんでちゅうしよう?


「まさむねさま。」


ちゅう。
なぁ、なぁ、いっつもちゅうしてくれるやん。
まさむねさま俺のほっぺとかおでことかやぁ。

やからちゅう。
ちゅうしよう?


「Ha…」
「まさむねさま。」


俺の肩に手を置き、真樹緒が強請る様に唇を寄せる。
ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てて。
額から鼻を巡り、少し躊躇ってから唇に触れたそれはまだ少し酒の味がした。
未だ不安そうに揺れる目に喉を鳴らしながら赤い頬を撫でてやるとその掌にもいじらしく。


「真樹緒…」
「ん、ん…」


これは困った。
もう少し不機嫌でいるはずが、どうやらそうもいかなくなりそうだ。
うちのpuppyは俺の機嫌の取り方をよく分かっている。
真樹緒からの小さな愛撫を受けながら掌はじわじわと熱を持つ。
愛おしそうに、切なそうに指の一つ一つに落とされる口付けは酷くeroticだ。


「真樹緒。」
「ちゅ、…」


こんな風に甘えられては。


「まさむねさま…」


ちゅう、して。
なぁ。
俺ばっかりちゅうしてるん。
まさむねさまもちゅうして。


甘えられては。


「真樹緒、来い」
「んぅ。」


顔を上げさせ口付けた。
柔らかい唇を食み、少し強く吸ってやれば真樹緒の肩がひくりと跳ねる。


大丈夫だ。
お前の好きな「ちゅう」だろう?
何も怖がる事は無い。
ゆるゆると背中を撫でてやればすぐに真樹緒の体から力が抜けて、思わず口元が緩む。


「は、ふ…」


上も下も舐めて吸って。
赤くなった真樹緒の唇はやはり艶かしかった。
少し首を傾ければまたすぐに触れ合う距離で、届いた吐息はやたらと甘い。
満足か?と聞けば「…まだするん。」だとcuteなお強請りだ。


「真樹緒。」
「なん…?」
「舌を出してみろ。」
「した?」


ぺろりと舌を出せば、首を傾げながら真樹緒もそれに倣う。


こう?
Good.
ちゅうは?

目で訴える真樹緒に喉を鳴らしながらその舌を絡め取った。


「んっ、んん…!」


初めはゆうるく、くすぐる様に可愛がった。
先と先を触れ合わせては離れ、小さく噛んでまた絡める。
負けまいと応えてくる拙い舌に煽られたのは否めない。
焦らされているようなそれはどこまでも俺の腹の底をいきり立たせ。
やがて貪る様にその舌を吸い上げた。


「っふぅ、んっ…」


真樹緒の頭を支え、冷たい廊下に横たえる。
合わさった唇が、舌が、熱くてとろけてしまいそうだ。


ああ。
眩暈がする。


「真樹緒…」
「ん、は…」


月に照らされた真樹緒がぼう、と俺を見上げていた。
目元が赤くやはり甘い吐息で。
口元に零れた唾液は俺か真樹緒か、一体どちらのものなのか。


悩ましいのには変わりないが。
それを舐め取りながら思う。


「まさむねさま…」
「お望みの「ちゅー」はどうだ真樹緒。」
「…ふわふわするん。」
「くく…」


Cuteだぜ?


肘をついて真樹緒の隣に寝転めば、その体がのそのそと寄って来る。
そのまま仰向けに倒され真樹緒が腹に乗り上げた。
先ほどの色香が嘘の様にほよほよ笑いながら。
そして可愛らしい音とともに又唇を奪われる。


「真樹緒?」
「んふふー。」
「Ah?」


そのまま唇を合わせたままでやはり真樹緒は笑う。
「まさむねさまは、ちゅー好きやねぇ」と笑う。
動く唇がくすぐってぇ。


「「ちゅー」が好きなのはお前だろう?」


ならばと俺もそのままで真樹緒に答えてみせれば、こちょばいこちょばいと楽しそうにはしゃぐ。


「ちがうんちがうん。」
「あァ?」
「まさむねさまとのちゅーが好きなん。」


は、と。
目の前が一瞬白くなった。


そして落ちる。
真っ逆さまに。


「まさむねさまが好きなん。」


ああ、参った。
参った。


これでは俺に勝ち目は無い。
僅かも無い。


「…くく…」


お前は相変わらずcuteで、臆面も無く、俺の腹に風穴を開ける。
俺の鳩尾を疼かせてしまう。
お前にはまだ早いと、確かに思っているのに。


「『まさむねさまが好きなん』」


口に出せばおもはゆい。
きょとんと目を丸めてしまった真樹緒へ繰り返す。
どれ程俺が満たされているか知りもしない真樹緒へ本当にお前はと。



「真樹緒。」
「ぬー?」
「覚悟しな。」
「んっんー!!??」



もう一度唇を奪ってその体を抱きしめた。



覚悟しろよ酔っ払い。
素面に戻るまで放してやるつもりはねぇからな。
身をもって俺の愛を受け止めやがれ。


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ちゅう魔政宗様編でしたー!
え、何か他より濃い。
ちゅうがしつこい(言っちゃった)
色々気合が入っていたからかな…(汗)
ぬーん。

折角のちゅうなので、他とは違った雰囲気で。
やっと二人でゆっくり出来たように思います。

政宗様のモノローグは考えていて楽しいものの、読み返すととんでもなくこっぱずかしい代物です(笑)

次回はちょびっとオマケで松永さん。
ちょい悪はやっぱりしゃしゃり出てきます。
そして名前、ホームシックと続きたい。
3章は気が済むまでまったりしてからの始まりとなるかと思います(汗)
またお付き合い下さると幸いです。

それでは!

  

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