互いの獲物を持ち出しながら、真田の忍と風魔はすでに全壊免れない程に荒れた庭へと飛び出していった。
「何やってんだあいつらは…」
酒を飲んだ真樹緒が羽目を外し、それを皮切りに周りが悶着を起こしたのはつい先程の事で。
大声を上げた真田の方へ首を向けた時には主が刀を持って技を放っているところだった。
真樹緒に当たらぬよう加減をしてるのは流石だと、状況を見る余裕ぐらいは持ち合わせている。
要は慣れだ。
ああなってしまえば主を止められるはずもなく、小言は後ほどじっくりと聞いていただきましょうともう一口酒を煽った時だった。
今度は真田の忍と風魔が広間の正面で獲物を抜きやがった。
てめぇら。
一体ここを何の席だと思ってやがる。
緒が切れそうになるのを押さえ、出た溜息は深く長かった。
手に負えねぇ、と緩く首を振れば信玄公から豪快な大笑を頂く始末だ。
全くてめぇは本当に大物だな。
未だゆらゆらと揺れている真樹緒に目をやれば「みんな仲良しやねー?」と真田に貰ったらしい桃に楽しげに話しかけていた。
どこをどう見たらあの有様が仲が良い様に見えるのか分からないが。
「若い、若い、」
儂も負けておられぬな!
可笑しそうに笑う信玄公に「ご冗談を」と息を吐けば「こじゅさんー」と。
「……」
「こじゅさんやー。」
「………」
まずい。
こっちに来る。
「こーじゅさーんー。」
「真樹緒、」
頬を赤く染めた真樹緒は明らかに酔っ払っている。
ふらふらと覚束無い足元はいつも以上に危なっかしい。
笑いながら、そして自分の足に縺れながら、真樹緒はこちらにやって来る。
ちょっと待て。
何だ。
何をしようってんだ真樹緒。
「ぬー。」
嫌な予感しかしねぇ。
まさか、と身を固めれば真樹緒がにこにこと。
次第にじとりと嫌な汗が出始めそして。
「こじゅさんもぎゅー。」
「っ危ねぇ…!」
どさりと覆い被さって来る真樹緒はいつも通りだ。
膝に乗り上げてくるのもいつも通りだ。
小さな体をぐりぐりと擦り付けてくるのもいつも通りだ。
「真樹緒、」
「こじゅさんもちゅーしよー。」
「っ…!」
そう。
酒の匂いがしなければ。
庭の方から聞こえる爆音にきりきりと腹の底が悲鳴を上げ、隣から聞こえる楽しげな声に居た堪れなくなる。
ご覧になっておられずどうにかしてくれませんかという視線を投げても碌に相手にして貰えない。
「待て、真樹緒。」
「やーや、ちゅーうー。」
「こら、暴れるな、」
「ぬー。」
膝の上でじたばたと動く真樹緒は首に巻きついて動かない。
「ちゅーしよー」などと言ってはいるが酔いは大分回っているのだろう、ただぽよぽよと笑っているだけだ。
頭を撫でてやれば「うにー」と小さな体の力が抜けた。
「右目も難儀よのう。」
「…楽しんでおられるのは何方か。」
「はっはっはっ!」
誠、真樹緒の愛い事よ。
そう言って笑う信玄公の言葉に反論も出来ず、苦笑いを返す。
相変わらず「ちゅーするんー」と言って聞かない真樹緒の体を抱きかかえた。
やれやれ。
「ようやく大人しくなったか。」
「ぬー。」
このまま静かに眠ってくれれば事態はこれ以上悪くならない。
さぁ、真樹緒。
そろそろ眠くなる頃合いだろう。
真樹緒の背中をとんとんと叩けば「やめてやー。ねむくなるやんー。」と更に真樹緒の体から力が抜けた。
いいからそのまま寝てしまえ。
もう二度とお前には酒は飲ませねぇぞ。
そう言ってやっと己の体の力が抜けた時だった。
「こじゅさんー。」
真樹緒が。
「っ!?」
「ちゅー。」
真樹緒が俺の首に。
首に。
「待て真樹緒…!!」
「こじゅさんにちゅう、」
「!!」
そのちっせぇ唇を。
「あー、ちゅーの痕ついたー。」
後は察してくれ…!
「赤いんー。」
こじゅさんの首、あかー。
いたい?
いたない?
ぬー。
ちょっといたそうー。
……
………
なめたらなおる?
ぬー。
ほんならなめてみよー。
「ぺろりー。」
「っ真樹緒!!」
「なめるんー。」
「く…っ!」
首が異様な熱を持った。
そしてその熱はひりひりと疼き、首から腕、背中を通って体を巡る。
どくりと腹の底がえぐれるような鈍い痛みの正体は何だというんだ。
「真樹緒、待て!」
離れろと言っても聞きやしない。
膝に乗り上げ、首を舐める真樹緒は顔を赤く染めて機嫌良く、その顔を無理やり上げさせればきょとんと首をかしげてへらりと笑う。
無垢なその顔が今は少し恨めしかった。
「こじゅさんー。」
「分かった、分かったから。」
待て。
もう終いだ。
床に運んでやる。
だから暴れるな。
そう言って真樹緒を抱いて立ち上がった時だ。
「こじゅさんー。」
「じっとしてろ、よ」
「ちゅー。」
ちゅー。
もっとちゅーしよー。
首な、ちゅーの痕ついてもうてん。
やからこんどはお顔にちゅーやねんで。
ほよほよと真樹緒がそんな事を言って。
「っ、真樹緒…!!」
「んぅー、」
唇を。
やはりちっせぇその唇を。
柔らかく、熱いその唇を。
「ちゅ、ん…」
「っ…こら!」
「んんー。」
俺のそれに押し当てた。
腕が、足が、体が。
そして喉が。
その理性を無くす程粟立った事を真樹緒が知る由も無い。
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ギリギリ更新すみません(汗)
こじゅさん編でした!
こじゅさんにはちゅーマークをつけてみました。
そして最近いちゃいちゃさせてなかったので口にも。
本当は筆頭だけにするつもりだったのですが口は。
こじゅさんを応援して下さっている方が沢山いらっしゃったので!
次はおやかた様(笑)
固まってるこじゅさんに首を傾げていたキネマ主はターゲットをおやかた様に変えます。
でもおやかた様は笑いながらちゅーしてくれるし、ちゅーさせてくれる。
おやかた様大好きです。
おやかた様の次はやっと政宗様ですー!
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