例えば、だけど。今この瞬間、私が目の前にいる彼に「付き合ってください」と言えば、彼は迷うことなく「いいぜ」というだろう。これは別に自惚れているわけではなくて、彼は優しいから。彼はみんなに優しい。
「瀬見くん、あとは大丈夫だから、…」
「…え?いや、それはほら、悪いだろ」
「……………」
今日は二人で日直だった。本来彼とペアのはずだった女の子が欠席してしまって、明日当番だったはずの私が繰り上がって、今日になったというだけ。今日の授業は滞りなく終了し、あとは教室の窓の施錠と、日誌を書いて職員室にいる担当へ提出すれば任務は完了だ。私一人でもできる。大丈夫だよ。
案の定、彼は私を一人にはしなかった。
心臓に悪い。この人、人見知りとか絶対しない人だ。きちんと人の目を見て会話をする人だ。あまりの純度の高さを真っ向から受ける私の気持ち、分かる?
エラーコード03
例えば、だけど。私と瀬見くんが付き合い始めたとして、休みの日に二人で出かけて(俗にいう「デート」というやつ)、私がトイレに行ってる間に昔付き合ってた彼女から泣きながら電話がかかってきて、私がトイレから出て合流した時、瀬見くんは罪悪感を抱いた瞳で私のことを見てくるだろう。
そして私はこう言うのだ。
「瀬見くん、あとは大丈夫だから、…」
そして瀬見くんはこう答える。
「…………悪い」
悪いと、思ってるなら、なんで、一人にして欲しい時には一人にしてくれなかったくせに。瀬見くんは優しい。瀬見くんはみんなに優しい。そしてその優しさで、私は酷く傷付いて、こうなると分かっていたのに。
あの日の放課後に戻って、私は私に忠告したい。「あなたの思ったとおりの未来が待ってるよ。だから、やめな」って。でも、そんなことをされても私は瀬見くんに思いを伝えることをやめなかっただろうし、なんで、私と付き合い始めたの?誰に言われても断らないの?もっと私のこと、自惚れさせてよ。
20161008