馬鹿だと思う。俺たちの担任である男性教師に想いを寄せる幼馴染を目の前に、短く息を吐く。教師と生徒なんて、うまく行くわけないのに。
「別に、付き合いとかじゃないの。なんか、いいなって、見てるだけでいいの」
否定しない上にこんなことを言うもんだから、なおさらタチが悪い。いっそ、当たって砕けてくれればこっちだって付け入る隙があるかもしれないのに。馬鹿は俺か。
「…国見は好きな人、いないの?」
「……………は?」
「頼まれたの、訊いてくれって」
誰にだよ。お前、頼まれたらなんでもするわけ?
「…………………いるよ」
「え、そう、なの……」
誰のことがって、訊いて来いよ。そしたら「お前のことだ」って言ってやるのに。でも苗字はそれきり口を噤んでしまう。本当、ムカつく。
「…なに、そんなに驚いてるわけ」
「いや、なんか、そういうの興味ないと思ってたから……」
「………………」
別に、訊かれなくたって言えばいいだろ?今、教室には俺と苗字の二人しかいない。俺はずっと待ってたんだ。こういう機会を。他のやつだったら「部活があるから」とさっさと残りの日直の仕事を押し付けてた。でも、苗字だから、俺はズルズル教室に残ってて、なんでそんなに日誌書くの時間かかってんだよ、相変わらず、トロいやつだな。
好きになってはいけない人
俺はいつだって、肝心な時に臆病になる。面倒なことは嫌いだと逃げて、逃げて、その先に何がある?今この一線を飛び越えたら、その先には何が残る?
20160423