ほんの、冗談のつもりだった。冗談、というか、軽い気持ち?気付けばいつも私の側に居るから。ふざけんなとか、調子に乗んなとか、そんな言葉が返ってくるものとばかり思っていたのに。

「好きなの?私のこと」

私の問い掛けに、国見は何も言わなかった。じっと私のことを見ていて、その瞳は微かに、いや、勘違いだ。焦燥を帯びた、私の問い掛けに同意するかのような真剣な眼差しだったなんて。

放課後、教室で二人きりという、そういうシチュエーションだったからだ。少し、雰囲気がその、そういう感じだったのが悪い。

次の日、国見はこちらが拍子抜けするほどいつも通りだった。いつも通りの、眠たそうな、気怠い雰囲気を纏っていた。それを見て私も安心した。

国見は私の大事な友達だ。変なことで関係がこじれて会話出来なくなるなんて、そんなの絶対、嫌だ。気を付けなくては、いけない。もう前みたいな状況にはならないようにしないと。

「…避けてる、だろ。俺のこと」
「…………」

帰り際下駄箱まで行って机に財布を入れてそのままだったことに気付いて、よかった思い出して、なんてお気楽な思考は完全に停止した。国見が居たから。まるで、私が戻って来るのを分かっていたみたいに。あの時と同じだ。放課後、二人きり。避けようと気を付けていたはずなのに。私はいつもツメが甘い。

「さけて、ない…」

避けてない。別に、二人きりにはなりたくないとは思っていたけど、でもそれ以外はいつも通りだ。ほら、国見は私のことをお見通しでしょう?私が机の中に財布を入れるのを見てて、そしてそれを忘れてそのまま帰りかけて、ギリギリのところで思い出して、取りに帰って来るって、分かってて、待っていたの…?

「…俺は、思ってない。友達だなんてずっと、思ってない」

何か、言わなきゃ。口に出して言わなきゃ伝わらないでしょう?ほら早くしないと、国見は大事なお友達なの。聞きたくない、これ以上、何も言わないで。お願い。

「…ごめん」

いつだって国見は正しくて、私が間違っていて、それでバランスが取れていたの。そうでしょう?なんでそんな風に謝ったりするの…?

初めてだった。国見に謝られるのは。謝るのはいつも私の方だった。国見は呆れながら私を許してくれて、それから、それから−−−早くこの場から立ち去らなきゃ。視界がぐらぐらしてきて、泣いてしまったら今度こそもう、後戻り出来なくなる。


幸福になる覚悟はあるか

title by 亡霊

20151001


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