キス、したい。でもしてはいけない。そういう約束だから。初めて身体を重ねる前、「キスはしちゃダメだよ」と言った彼女に、その時はあまり深く考えずに「わかった」と答えた。そして今になって、それがとても残酷な一言だったかを思い知る。

してはいけないと言われたから、余計したいと思うのか。

そんな彼女は無防備に俺の真隣りで眠っている。ずるい、と思う。なんで女の人はあったかくて、柔らかくて、いい香りがするんだろう。どうしたって俺は屈してしまう。キスは、いけないと言われたけど。指で触れるのは、キスとは言わないよな…?そんなことにも気付かないくらい、今まで俺はいつも余裕がなくて、俺ばかり必死だったのか。

指先でそっと触れた唇は柔らかくて、思わず息を飲む。気付かなければよかった。俺は馬鹿だ。俺の、知らない他の男とは−−−そう思うと腸が煮え繰り返りそうになる。

俺は男で、彼女は女だから。力で押さえ付けて、唇に唇を重ねることなんてやろうと思えばいくらだってやれるのに。それをしないのは、いや、それが出来ないのは、この関係が終わるのを恐れているからだ。いや終わることなんてないのか。だって、始まってもいないんだから。

誰かが言っていた。恋をすることは苦しむことだ。苦しみたくないなら、恋をしてはいけない。でも、そうすると、恋をしていないということでまた苦しむことになる、と。俺が今こんなにも苦しいのは、


恋なのか、それとも


彼女も、苦しんでいるのか。苦しめばいい。俺に恋をして、苦しめばいいのに。

20150916
いつも報われなくてごめんね。


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