楽園になら連れて行ってあげるの続編です。
あーあ、遂にこの日が来ちゃったか。まぁ、よくここまで保った方だと思う。元々、何がきっかけで彼女と連絡を取り始めたんだっけ。あぁ、彼女が俺の地元に異動して、それからだ。
"及川くん、確か地元仙台だったよね?"
いきなりそうメッセージが来て、そうだよって返事をして。
"なんか、おすすめのお店とかある?"
"ご飯?それとも服とか?"
"んー両方!"
始めはそんな些細な内容のやりとりだった。俺は彼女のことが嫌いではなかった。かといって特別好きなわけでもなかったけど。けど、可愛い子だった。
"なんかね、最近旦那が冷たいの"
こまめに返事をしていたら、徐々に内容に変化が出てきた。
"何かあったの?"
俺はやりとりが続くような返事をした。当たり障りないように。疑問形で返すように。ポイントを押さえていれば、相手は簡単に、そして勝手に俺に心を開いてくる。
そしてついに彼女からこう来たのだ。
"ね、今度、会おう?"
彼女は可愛い子だった。結婚相手にしたいとは思わなかった。けど。
"いいよ。いつにする?"
けど、それ以外の関係を築く相手としては簡単に受け入れることができた。
会うのはいつも仙台だった。仙台は俺の地元だ。同窓会がある、先輩に会うことになった、ちょっと実家に顔を出す−−−理由付けなんてとても容易だった。それに俺の配偶者はなかなか鈍感で−だからこそ結婚相手に選んだんだけど−俺は堂々と家を空けていた。
彼女は彼女で適当な嘘をついては俺と会っていて、ある日その嘘は簡単に彼女の配偶者にバレてしまう。彼女は「東京の同期に会ってくる」と言って家を出て、そして彼女の配偶者がその東京の同期に連絡したのだ。
馬鹿だと思った。なんでそんな、裏を取りやすそうな相手の名前を出したのか。
程なくして彼女の配偶者から呼び出される羽目になった。俺は自分の配偶者を連れて、仙台へと向かった。
そして全てを暴かれ、彼女は泣き始めた。この彼女とは、俺の配偶者のことだ。そりゃ、そうだろうな。だって今までそんなこと思いもしなかったもんね。我ながら冷酷だと思った。
もう一人の彼女は、逆上するように捲し立て始めた。主に自分の配偶者に対する愚痴と、それから−−−
「ね、別れて。私及川くんと結婚するの。及川くんも、そのつもりなんだから!!!」
その言葉を聞いて彼女の配偶者は鋭い目付きで俺を見てきた。そして今日イチ低い声でこう言ってきた。
「なぁ、どういうことだよ」
「さぁ、言ってる意味がよく分からないけど」
本当に、意味が分からなかった。俺はただの一度だって、そんなこと言ったことはない。そんな、冗談はよして欲しい。なんなんだよ、この女。
結局、このあとどうなったんだっけ?向こうの配偶者が「別れるならきちんと弁護士を立てて親権は俺が取る」とかなんとか言ってて、うーん、よく覚えてないや。
一番馬鹿なのは、この俺なのかもしれないな。
英雄は誰も救えない
20150902
title by 亡霊