後輩のダブル不倫がバレて大騒ぎになったという話を聞いたのは、その後輩と同期の女の子からだった。元々彼女と私は仲が良くて、でも私が県外へと異動になってからたまに連絡はするものの会う頻度は急激に減った。

その彼女からある日「来月の土日、会える週はないか」と連絡が来た。互いに都合の良い日を調節して、そして女の子が私の家に泊まることとなった。

車で私の家から小一時間程度離れたところの観光スポットなんかを満喫して、帰りがけにちょっと豪華にお寿司なんかを食べて。お風呂も歯磨きも済ませて互いに布団でゴロゴロしていたとき、彼女は口を開いた。

「ぁ、あの、」
「ん?」
「及川さんて、こっちに来たりしてます…?」
「へ?」

一瞬なんのことかと思った。及川くんは確かこっちが地元だったはずで、帰省で来ることはあるんじゃない?そう答えると、彼女は次にこう口を開いた。

「あの、こっちで会ったりしてます…?」
「は?会ってないよ??なんで??」

答えると、彼女はこう続けた。

「及川さん、こっちの及川さんと同期の子と、不倫してるんですよ」
「……え」

彼は同期と若い頃に結婚して、不倫相手となった子も若い頃に同期同士で結婚して。わぁなんて面白い事に…女の子の方が夫に不倫している事がバレて、表沙汰になったんだとか。

「それで…及川さんがその、仙台にしょっちゅう通ってて、苗字さんのところにも行ってるんじゃないかって何故か名前が出たみたいで、」
「は、はあ?!!」

あり得ない…確かにこの家を出入りする男はいるにはいるけど、それは及川くんではない。怖い。自分のいないところでこんな風に名前を出されているなんて。わあ。

「ないないない、あり得ない。異動してから会ってないよ」
「ですよね…!」

私の力強い答えに、彼女はホッとしていた。会って、そんな身体を重ねたりとか、そんなことしてないよ。異動してからは。彼とそういう事をしたのは異動前、同じ東京にいた時の話。これは誰にもバレていないはずだ。彼と私の、二人だけの秘密になっているはず。

私は誰にも言っていないし、向こうだって誰にも…いや今回の件で、それも怪しい…?まぁいいや。なんだか、そっか。彼はもっと「うまく」こなすと思ってたのに。バレて騒ぎになるなんて、彼らしくない。なんでそんな、よりによって同期同士で…。

相手方の女の子は今の夫とは別れるだのなんだの言っていたらしくて、でもそんなこと起こらないだろう。どちらも別れはしないし、彼はまた女の子とよろしくやるんだろう。彼には罪の意識なんてないんだから。

「わ〜そんな、そんなことで名前出されるなんて本当、怖い、困る!」
「ですよね!なんで苗字さんの名前が出たのか…いや、でも本当、ホッとしました!」

私と彼女は二人して今日一番の笑顔を浮かべて笑い合った。次、彼に会った時私は今聞いた事を知る前の私みたいに、自然に振る舞えるだろうか。私が誘ったりしたら、彼はどんな反応をするだろうか。もし受け入れられても私は驚きはしないし、素直に身を委ねるだろう。

一番怖いのは、この私なのかもしれない。


楽園になら
連れていってあげる


20150830
title by 亡霊


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