俺は、悪くない。あんな、あんな風に無防備に寝てる彼女が悪い。夕焼けに染められた教室で1人眠る彼女。柔らかそうな黒髪は光を受けいつもより明るく見えた。


月がないと好きもいえない


穏やかな顔、少しだけ開かれた唇から覗く赤に目が眩み、そのまま導かれるように彼女にキスをした。

「あ、かあしくん…?」

眠たげな瞳と目と鼻の先で視線がかち合う、誤魔化すことは出来ない 。

「わ、」
「わ…?」
「忘れて、」
「ぇ…?」

鏡を見なくたって分かる。俺の顔は今、真っ赤だ。顔全体が尋常じゃないほどの熱を帯びていて、それをどうしようもなくて、気付いたら俺は逃げるように教室を立ち去っていた。

忘れて、なんて。

もっと、他のこと言えなかったのか、俺。携帯、なんて取りに行かなければよかった。今日はあと部活して帰るだけだったんだから、別になくても困らなかったのに…!

ずんずんと体育館を目指して歩みを進める。

明日、明日になれば、またいつもと変わらない日常だ。キス、なんてなかったことに、

「!赤葦っ!!!」
「ぇ、」

声がした方を見ると、凄い勢いでボールがこちらに向かって飛んで来ていて、俺はそれを避け切ることが出来ず見事に顔面で受け止めてしまった。

「あか、あかあしいいいいいい!!!」

うるさい…たかがボールが顔面に当たっただけだ。あぁ、これで顔が赤くても誤魔化せるな、なんて、妙に俺は冷静だった。

「顔が!顔が赤いぞ!!!!」
「うるさいですよ木兎さん…」

珍しいな赤葦がボーッとしてるなんて。
いやこいつはいつもボーッとしてるだろ。

いや、もう少し心配してくれても良くないですか?先輩方。聞こえてくるやりとりに心の中でツッコミを入れる。

「だ、大丈夫かっ!!!」
「えぇ、まぁ………」
「……………」
「な、なんですか…」

木兎さんが俺の顔をジッと見つめて、固まっている。

「赤葦、なんか口キラキラしてね?」
「…………っ!し、してませんよ、そんな…、練習っしますよっ」

俺は慌てて唇を乱暴に手で擦った。多分、いや絶対そうだ。キラキラって、彼女の、ヤバイ、先程のあの柔らかな感触が一気に蘇ってきて、俺はしばらくまともにトスを上げることが出来なかった。

20150503
title by しあわせになく
thanx C様


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