赤葦京治

このピアスに直接触れたのは、私の知る限りだとこれを買ってくれた人と、身に付けた私と、事故で触れてしまった人と、触れざるを得なかった人と−−−

「片方だけ、なんですね」
「うん」

さらさらと両耳に髪をかけて、ゆっくりと耳に触れる。心地良い。彼に触られるのはとても好きだ。思わず目を閉じてしまう。

「奇数の方がね、いいんだって」
「…もう片方のピアスは?」
「あるよ、家に」
「…ください」

ください、なんて言われると思わなかった。目を開いて、彼を見た。彼の考えが読み取れない。なんだっていきなりこんなことを言い始めたんだろう。

「…赤葦くん、ピアスホールないじゃない」
「開けますよ」
「これ、似合わないよ」
「大丈夫です」

珍しく食い下がる彼に心がざわつく。いつもの彼じゃない。いつになく我が強い…?押しが強い…?

「…悔しいです」
「…?」
「それ、似合い過ぎてて」
「…………」
「名前さんも、大事にしてるんだっていうのが、すごく伝わってくる。俺が仮にピアスをあげても、それをつけ続けるでしょう?」

今まで、他のピアスをつけたことがない。つけようとも思わなかった。それだけ、大事にしているということなのか、私はこれを。

「…名前さんは俺の中で一番なのに名前さんの中では一番は俺じゃない」
「…今日は随分とお喋りね」

彼は始め、少し喋るだけでいいと言っていた。でも分かっていた。人は貪欲な生き物だから。もっともっと、欲しがるようになるって。

「もう、やめようか」
「…いやです」
「もっともっと、苦しみたいの?」
「………………」


朝は怖い。
きっと、いつまでも、
いつまでも。


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