岩泉一
俺は今、ドラッグストアにいる。別に買うものはない。無理矢理連れて来られただけだからだ。たまたまバス停で、こいつに遭遇してしまったのが原因だ。
「ね、人の耳にピアスホール、開けたことある?」
「ねぇよ」
「えー」
なんだいきなり。ピアスといえば、中学の頃ヤンチャな奴が氷で耳朶をキンキンに冷やして感覚を麻痺させて、ライターで炙って消毒?した安全ピンを突き刺して開けたとか言ってたな。もちろんそんなこと、したことない。
「えーじゃねぇよ。なんだ、開けてぇのか」
「そ。岩ちゃんはなんかうまそうじゃん、そーゆうの」
何を根拠にそんな…こいつも大概めんどくさい奴だ。でも邪気に出来ない。昔から知っている幼馴染だからか?俺より二つ年下だが「岩ちゃん」呼びかつタメ口だ。他の奴だったら許さない。こいつだから、許す。
「…素人にされるとか怖くねぇか?」
「ピアッサー?があるもん」
「せめて女友達に開けてもらえばいいだろ。開けてる奴いるだろ」
「あんなの信用ならない」
たまに見せる、バッサリとした物言いにドキリとすることがある。見た目は大人しそうなのに、なかなか辛辣だったりする。
「もらったのよ、ピアス。つけたいじゃん?せっかくだし」
「…好きな奴にか?」
「うん、そ」
「…怒られねぇの?親とか」
「バレなきゃいいの〜髪下ろせばほら、見えないでしょ?」
「まぁな…」
そして帰りのバス途中下車して、ドラッグストアでピアッサーを買うのに付き合わされていて、そのまま俺の家に歩いて向かう羽目になったのだ。
のこのこ男の部屋に入って来るなんて、警戒心なさ過ぎなのか、信用されているのか、そんな対象として見られていないということか。
怖いのか、キュッと目を瞑っている。長いまつ毛が、目元を翳らせている。一瞬過った淡い思いを打ち消して、俺はピアッサーを握る手に力を込めた。
いつかの君のまばたきを
思い出す
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