12 >> 赤葦京治

信号が青になった。本当は走って少しでも早く会話したいけど、我慢する。ていうか、こっちに気付いてないし。すぐ近くに来ても、気付かないし。痺れを切らして、俺から声を掛けた。

「…名前さん、」
「あ、京治!」
「…なに、してたんですか?」
「雪の結晶見てたの」

薄っすらと地面に積もって一旦止んだ雪が、再び降り始めている。服に付いた雪をジッと見て。俺より結晶なのか。

「ねぇ見て!息白いよ!」

ほあーっと息を吐いて俺に見せてくる。鼻や頬がほんのり紅くなっている。今度は俺より息か。

「ほらマフラー巻かないと。風邪引きますよ」
「ふふ、京治、お母さんみたい」

そう言われて、少し複雑な気持ちになる。お母さんて…彼女のカバンからはみ出ているマフラーを取って首に巻いてあげる。

「あれ、手袋は?」
「ん、忘れちゃったの!」

全くこの人は…ほら、と自分の手袋を差し出す。

「わ!貸してくれるの?優しい!」

いそいそと片方をはめる。にぎにぎしている。

「やっぱおっきいねー」
「ですね」
「あれ、片方だけ?」
「そうですよ」
「むーけちー」

さっき優しいって言ったのに…すぐ手のひらを返す。もう片方の手を取り、自分の手と一緒にポケットへと突っ込む。

「これでもまだ、けち?」
「けちじゃない、けど…」
「けど?」

俺の目を見て呟いた。

「…ずるい」

こんなの、ずるい内に入らない。名前さんの方が、俺なんかよりよっぽど、ずるいですよ。


痛いのは
絶望のせいではない


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