日が落ちて辺りはすっかり暗くなった。 空を見上げれば満天に数多の星が。 縁側のすぐ傍に刺さった笹には真樹緒と共に作った笹飾りが揺れている。
小十郎が吊るした提灯はほのかに辺りを白く照らし、初夏の縁側は中々趣き深い。 虫の声を聞きながら縁側に座り真樹緒を待っていると、小さな足音がとたとたと。
「政宗様―こじゅさんに浴衣着せてもらった!」
振り向けば真樹緒が鮮やかな浴衣に身を纏い、こちらにかけてくるところだった。
なぁなぁ、政宗様見て! 浴衣!! おシゲちゃんチョイスやってー。 きんぎょなん。 帯も何やら変わってて、赤くてふわふわなもっこり帯やで!
えーと、何て言うん? それこそきんぎょのしっぽみたいん。 ほら、おるやん。 きんぎょ。
病気みたいな頭のやつ。
「蘭鋳か。」 「それ!」
ほーほー、ランチュウ。 そうランチュウ。 すっきりした!
「にあう?」
でも綺麗やろう? この帯。
そう言ってくるくる回る真樹緒は、本当に小さな金魚のようだ。 白でもない柔らかい色合いの生地に鮮やかな金魚が泳ぎ、水面が揺れる浴衣は少し子供っぽさが残るが、それが逆に真樹緒にはよく似合う。 ひらひら靡く帯は尾ひれの様に。 目についたそれを少し引っ張ってみれば「やぁ、もー解かんといてや!」と怒られてしまった。
楽しげに騒いでおいて何を言う。 捕まえて抱き込んでやれば「きゃー」と暴れだした。 あんまり動くと折角の浴衣が台無しだぜ、真樹緒。
「ああ、そうや。」
こじゅさんに怒られる! おシゲちゃんにも足元気をつけてねって言われてるのに!
ぴたりと止まって俺を見上げた真樹緒をゆるりと抱え、少し汗ばんだ額を撫でる。 湯上りの匂いがふわふわと漂って愛しく、思わず小さなそれに唇を落とした。
「おお?」 「よく似合ってるぜ?」 「ぬ?」
浴衣、な。 何故姫用の浴衣を着せられたかは分からないが。 「野暮な事言わないでよ、梵。」とどこからか揶揄されそうなのであえて口には出さない。 姫浴衣、可愛らしくて結構だ。
「へへー。」
おおきに! 金魚のような帯を揺らし、真樹緒が笑う。
本当にお前はいつもいつも眩しいな。 柔らかい頬をふにふにと撫でれば笑いながら「こちょばいん」と逃げるように背中を向けられてしまった。
いちいち可愛くていけない。
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