「梵―、真樹緒―、笹取って来たよー。」
今朝、やけに早起きした真樹緒が俺の部屋にやってきて「おシゲちゃん七夕の用意しよ!」って布団の上に飛び込んできた。
最近ちょっと肥えたよね真樹緒。 うっと詰まった喉を抑えて見上げれば「食べ盛りなん」と何とも可愛らしい笑顔が返ってきた。
ああはいはい。 どうせおシゲちゃんは真樹緒に勝てやしないよ。 その笑顔で何だって許せてしまうんだから性質が悪い。
今日も相変わらず可愛いねー。 一体今朝は何の御用。
「おシゲちゃん、七夕の用意やで。」 「七夕?」 「笹に飾るん。」
ああ、そういえばそんな時季だっけ。 むくりと起き上がれば真樹緒と向かい合わせ。 何、一緒に飾りを作ればいいの? 頭を撫でれば「笹が欲しいん!」なんて楽しそうに。
「笹ねぇ…」
そんな顔でおねだりされちゃぁ、おシゲちゃん適わないなー。 笹だって何だって取ってきてあげたくなっちゃう。
「おシゲちゃーん。」
おねがいー。 笹欲しいんー。 顔の前で手を組む真樹緒に思わず噴出した。
「一本あればいいの?」
「!!」
「真樹緒のためなら笹の一本や二本、ってねー。」
任せなさい。
「おシゲちゃんー!!」て抱きついてくる真樹緒の頭を撫でたのが今朝で。 裏の山で鉈を片手に歩き回って数刻、やっと戻ってきたんだよ。
「!おシゲちゃんお帰りー!!」
まぁ、満面笑顔の(頭やら着物やらに紙が一杯張り付いてたけど)真樹緒に抱きつかれたのは役得だよねー。 笹を担いで、真樹緒を抱えて、梵の部屋に入ればあるわあるわ。 七夕の飾りが沢山、畳が見れないぐらいに所狭しと並んでいた。 でんぐりに、吹流し、ちょうちんに編み飾り。
「って…網飾りに鴨田さん絡まってない?」
「かえらしいやろう?」
…… ………
それでいいの? 「ぶもー」って恨めしげにこっち見てるよ。
「もうちょっとしたら助けに行くん。」
…楽しそうだね。 確かに可愛いけど。 ため息を吐いてもう一度鴨田さんを見れば、「ブモッ」って言われた気がした。
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