近隣の偵察に行かせていた風魔が戻り、報告書を受け取っていると妙に浮かれた成実が部屋にやってきた。
「Ah?」 「梵に素敵なお誘いだよー。」
眉を上げれば真樹緒の部屋に行ってみろという。 今頃は小十郎もいるはずだ、と。 風魔と顔を見合わせ首を傾げている内に成実は姿を消し、暫く風魔と二人何という事も無く見詰め合ってみたが「…行くか」と声をかけ方や小さく頷き今に至る。
するとどうだ。 真樹緒と小十郎が面白そうな事してるじゃねぇか。
「メイドやねん政宗様!」 「maid?」 「鴨田さんも一緒やでー。」 「ブモッ。」 「揃いか。」 「ん!!」
部屋では真樹緒と子鴨が何とも可愛らしい着物に身を包み出迎えてくれた。 飛び込んできた小さな体を抱きとめ今日は何事だと笑う。 よく見れば真樹緒の着物は俺が真樹緒のためにと仕立てたもので。 袖や衿には見覚えの無い豪勢な飾りがつけられてあった。
Ah―? 異国の素材かぁ?
ひらひらと真樹緒が歩く度に揺れるそれは黒い着物によく映える。 その短さは成実の仕業だろう。 でかした。 実にいい眺めだ。
「Cuteだな。」 「へへー…」 「お前もな。」 「ぶもも…」
真樹緒の頭に埋もれている子鴨を撫でた。
全く器用なものだ。 真樹緒と全くの揃いでこしらえられた着物を着た子鴨は羽を揺らしながらmaidとやらを気取っている。 ぶもぶもと撫でるたびに喉を鳴らし、指に懐いてくる子鴨はどこか真樹緒を思わせて。
くくっ。 てめぇら日を追うごとに似てきやがるな。 二人並べて飾っておいてやりたいぐらいだ。
maidなら俺も持て成して貰おうかと真樹緒の腰を抱き、頭が痛いと視線で訴える小十郎に笑った。
「笑い事ではありませんぞ。」 「Ah―?」 「こじゅさん?」
あ、ちゃうかった。 ご主人様!
「真樹緒…!」
がくりと肩を落とした小十郎に追い討ちをかけるように真樹緒が「そうや」と。 どうやら何が何でも小十郎に蕨餅を食わせたいらしい。 「鴨田さんはここでおってな」と子鴨を俺の頭に乗せ腕からすり抜けて、白く細い足を惜しげもなく晒しながら小十郎の前まで走り、「はい、あーん」と言ってのけた。
「なぁ、ご主人様あーんやで。」 「……政宗様…!」 「してやればいいじゃねぇか。」
口元が緩み思わず喉が鳴る。 今の真樹緒はmaidなんだろう? 結構だ。 遠慮無く食わせてもらえ。
全く以ってそんな目で見られる謂れはねぇな。 男を見せろよ小十郎。 肩を竦めてやればあれほど勇んでこちらを見ていた小十郎がぐぅと黙った。
「ほらほら、あーん。」 「真樹緒…」 「あーん。」 「…、」 「小十郎。」
腹をくくれ。 ひらひらと手を振り顎をしゃくる。 目の前の真樹緒はお前しか見えてねぇぞ。 ご主人様なんだろう?
「くっ…」
そうしてやっと観念した小十郎が眉間に皺を刻み、およそこれから甘味を食べるとは到底思えないような顔で口を開き。 真樹緒が満足げに餅をその口に入れた。
「おいし?」 「…ああ…」 「ほんならもう一個いかが?」 「十分だ。」 「?そお?」
くくっ。 上出来だぜ小十郎。
「お前もそう思わねぇか?」 「ブモッ。」
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