「真樹緒、入るぞ。」 「こじゅさんー?」 「ああ。」
どうぞー、と聞きなれた声が聞こえてきて襖に手をかけた。
いつも通り畑で汗を流し、そろそろ南京が収穫時かと水をやっていると成実が手を振りながらやってきて、真樹緒が呼んでいるという。
「真樹緒が?」 「部屋で待ってるらしいよー。」
じゃぁね!と、それだけ告げて成実は城のほうに走って行った。 どこかよそよそしい感じがしたがそれ程気になる事も無い。 ただ、いつもなら用があれば真樹緒自身が畑にやってくるはずだがと頭をよぎっただけだ。 そのまま畑を後にし、真樹緒の部屋にやってきた訳だが。
「お帰りなさいませご主人さまー。」 「ブモ。」
お前らいってぇ何事だ。
「…真樹緒、」 「こちらにどうぞー。」 「ぶもぶも。」 「真樹緒。」 「お茶になさいますかー、お菓子になさいますかー?」 「ぶもも?」
って、ちゃうかったっけ? ブモ。
あれ? お茶とお菓子は一緒に出さなあかんのやっけ。 ほんならお茶になさいますかー、真樹緒になさいますかー?でええのん? ブモブモ。
そっかー。
「真樹緒。」 「ぬ?」 「何事だ。」
襖を開けば見たこともねぇ様な着物に身を包んだ真樹緒が出迎えた。 いや、見た目は着物だ。 確かに政宗様が真樹緒の為に仕立てられた着物だ。 京の商人を呼び寄せて、反物から選んだ一級品だ。
だが。 その丈は何事だ。 足が出てるだろうがはしたねぇ。
「今日は俺メイドさんやねん。」 「…めいど?」 「こじゅさんはご主人様やで!」 「あ?」
ひらひらと、ともすれば尻が見えてしまいそうな長さの着物を揺らしながら真樹緒は俺の手を引いた。
待て真樹緒。 お前、聞きたい事が山ほどあるぞ。
「ぬ?」 「めいどたぁ何者だ。」 「メイドさんはメイドさんやん。」
こっちでゆう女中さんの事かなぁ? お帰りなさいませーってゆうてご主人様をお迎えするねん。
「ご主人様?」 「うん、ご主人様。」
誰がだ。
「こじゅさんが。」
誰の。
「俺の。」
…… ………
ふっ。 この片倉小十郎景綱、この世に生を受けて廿と半ば。 ここまで殺意を覚えた事は今の一度もねぇ。
「こじゅ、ああちゃうかった。ごしゅじん様?」
どないしたん?
首を傾げた真樹緒の頭をゆるりと撫でる。 そうだな、真樹緒。 てめぇに非はねぇ。 そこで揃いの着物を着た子鴨と共に待っていろ。
「ぬ?」 「ぶも?」 「…一撃で仕留めてやる。」
ゆらり揺れた体を正し、部屋の壁にかかっている刀を抜いた。
「…………ぬ?」 「成実ぇぇぇぇぇ―――!!!!」 「おおおおお!?」
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