梵と一緒に町へ下りて、用があった鍛冶屋を出れば梵がいなかった。
どうもー。 最近人気が出てきたおシゲちゃんだよー。 こんにちはーってね。
「あれぇ?」
今日は朝から真樹緒が小十郎と畑に行っていて。 梵の「町へ下りるか」っていう誘いには「俺、今日はこじゅさんのお手伝いするんー」って乗らなかったもんだから、さっきまで最高に不機嫌だったんだけど。
あれぇ? どこに行ったのさ、梵。
「刀放ったらかして。」
少し前に梵の六爪を研ぎに出しててね、手入れが終わったって連絡があったから今日はそれを受け取りに来たんだよ。 梵が一人で行くわけにもいかないし(あれでも国主だからねー)、小十郎は畑があるし。 俺が共をするのは決まってたんだけどさ。
「…」
その俺を置いてどこに行ったわけ、梵。 いくら真樹緒が一緒に来なかったからって拗ねるのもいい加減にしなよ。 「ぬーん」なんて思わず真樹緒みたいな声が出そうになって目の前の大通りを見渡した。
相変わらず町は賑わって、商人や町人達の活気に満ちている。 丁度昼時だから腹をくすぐるいい匂いも漂ってきた。 まさか一人でご飯なんか行ってないよねぇ? 帰ったら真樹緒が待ってるんだし。
きっと泥だらけで抱きついてきてくれるよ。 今日収穫した作物を見せてくれるよ。 多分茄子じゃないかな。
「梵―?」
風呂敷に包まれた六爪を背負って梵を呼ぶ。 どこにいるのさ本当にもう。 早く帰ろうよ。
「おーい、梵―?」
きょろきょろと首を振りながら歩いていくと、露天商がずらりと並んでいる路地が見えた。 表の通りとは違って少し異色だ。 異国のものを揃えて若干怪しい店もあるが、関を無事に通ってきたのだからまぁ大丈夫だろう。 城下が賑わうのは有難い。
肩をすくめて通り過ぎれば。
「おい主、それを見せてくれ。」 「ほっほ、お目が高い。」 「?舶来のもんか。」 「さようで、」
…… ………
梵。 何でそこにいんの梵。 何やってんの。
「beautifulだ。」 「硝子細工でございます。」
…… ………
何やってんの。
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