09




政宗様が真樹緒のところへ行ってから随分経って、やっとおいでになられたかと思えば。
一体何を侍らせているのですか。


「こいつは俺の許婚だ。」
「初めましてー。」


聞いておりませぬぞ。
政宗様。



「……政宗様、こじゅさんおこっとるよ…」
「Ah?お前のcuteさに驚いてるんだろ?」


何をいけしゃあしゃぁとのたまっております。
一体どこの姫を攫って来たのかと思えば、着飾られた真樹緒ですか。


ぐ、と拳を握り締めた。
機嫌の悪い主が真樹緒の部屋へ行くと消えてから暫く、柴田の姫君が城に到着された。
気高く美しい姫は、我こそという自信に満ちている。
何とも扱いにくい姫を送ってくれたものだとため息を吐いたのはついさっきのことだ。


「柴田の一姫様にございます。」
「よしなに、」


だが、その姫の高い鼻を政宗様と並んで部屋に入ってきた真樹緒が見事に折ってしまった。
「許婚」だと聞かされた姫の小さな唇は震え、気の毒に凛と流れる目が泳いでいる。
目の前であれ程睦まじくされてはそれも仕方が無い。
扇の後ろでひそひそと。
時折お互いに笑い合い、隣で見ているこちらが恥ずかしい。
ともすれば甘い睦言でも聞こえてきそうだ。
実際には下らない内容なのだろうが。


「なぁなぁ、政宗様…」
「どうした。」
「…足、しびれてもぅた…」
「……ほう。」
「ちょ!何やのその楽しそうな顔!」


絶対さわらんといてや!


「Ah―?」
「もー!こらー!やめてぇやぁー。」


それ見たことか。


ただ幸いな事に離れてこちらを伺っている柴田の姫には聞こえなかったらしい。
二人の間に流れる空気をそのまま受け止め、顔は青い。
柴田からかここまで遥かの旅を政宗様にお目通りするだけのためにはるばるやってきた姫の心持は分からなくも無いが、ただ家名や体裁のためだけに伊達を汚されては堪らない。


さぁ、どう出る。
主を窺えば楽しげに。


「柴田の姫よ、歓迎する。」


暇の許すまま奥州での見聞を広げるがいい。
俺達でよければ尽力しよう。
真樹緒を抱き寄せ勝ち誇ったように笑った政宗様に、一呼吸止まった姫は初めの自信が嘘のようなか細い声で頭を下げて。


「…そのお言葉有難く…」


きっと明日には城を出るのだろう。
共の者に一切の口出しを許さず気高い姫は部屋を出た。
恨めしげに睨まれていたのを真樹緒は気づいているのだろうか。


「……足しびれて立たれへん…」

「じっとしてるより無理にでも歩いた方がいいぞ。」

「えー…俺絶対、小鹿になる…」

「おら、手持ってやるから。」


何の心配もしていない主と真樹緒にため息が漏れる。
天井にいる気配の無い伝説の忍は今頃どこにいるのやら。
政宗様が先手を打ったか、あるいは忍の独断か。
どちらでも構いはしない。
今夜には一家から柴田の名が消えるだろう。


「政宗様、」
「Ah?」
「戯れが過ぎますぞ。」
「何の事だかな。」


肩をすくめた政宗様に苦笑う。
目の前のそれの事ですよとは言わず、「こじゅさんびっくりした!?」と痺れた足でよろよろ近づいてくる真樹緒の体を受け止めた。



「俺今女の子やねん!」
「随分飾られたな。」
「成実の自信作だ。」
「全く揃いも揃って…」
「cuteだろ?」
「否定はいたしませんよ、」
「くくっ」


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長らくかかった嫁取り小話これにて終わりまする!
姫様にしゃべらせる気は無かったのですが、そうもいかず(汗)
苦手な方はすみませんでした…!

これ以降女装に抵抗が無くなったキネマ主は度々みんなのおもちゃになりつつ、自分も楽しんだらいいかと思いました。

それでは!
「Q」にて女装にコメント下さったお二方に感謝をこめて!


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