07




「柴田の姫君がお着きになられました。」


小十郎が「広間に」と呼びに来た。


「すぐに行く」と返事をして立ち上がった。
ついさっきまで億劫だった気分が嘘のようだ。
自分の隣で慣れない打掛に足元が揺れる真樹緒の肩を抱きながら政宗は口元を緩める。


「俺、今日は政宗様の許婚なんやで」と笑った真樹緒には思わず「よくやった成実」と声を上げたいぐらいだった。
大事な大事なそれこそ目に入れても痛くは無い真樹緒が自分の許婚として隣を歩く。
これ以上と無いsettingじゃねぇか。


「いよいよやなぁ。」
「Ah?」
「お見合い!」
「楽しそうだな。」
「やって、わくわくするやん。」


これからそのお姫様のとこに行くんやろう?
俺、ばれやんように頑張るからな!
女の子!
俺は今から女の子!!


「あ、」
「Ah?」


んー。
でも具体的にはどないしたらええのん?
話し方とか?


「お前はそのままでいい。」
「う?」


首を傾げた真樹緒に笑い、頭を撫でようとして簪がささってあるのを見て手を止めた。
造花のついた簪は明るい真樹緒の髪によく似合う。
ふわふわ手触りのよい髪に触れないのは残念だが仕方ないと諦めて、手持ち無沙汰な手を柔らかいほほに添えた。


「気負う必要はねぇ、真樹緒。」
「えーでも…」


可愛らしい眉を八の字に曲げた真樹緒に笑う。
お前のそのままを見せてやれ。
見てくれだけを着飾り、家名のために媚を売る姫がどれ程のものだ。
お前の前では誰も適いはしない。


堂々といろ。
そのままで。


「ええの?」
「All right.」
「そお?」


ほんなら普通でええかーと、渡した扇をぱたぱた揺らす真樹緒に喉を鳴らす。
朧月夜の扇はお前には少し色香が立ちすぎるかもしれない。
何に使うのかと聞かれ好きなようにと答えれば「綺麗やから開いとく」とさっきから。


「政宗様?」
「Ah?」
「政宗様も楽しそうやねぇ。」
「楽しいからな。」


目の前には柴田の姫とやらが待ち構える広間への扉。
隣には「許婚」の真樹緒。
中では小十郎が眉間に皺を寄せ俺を今かと待っているのだろう。
ああ、楽しくてしょうがねぇ。
どんな顔をして迎えてくれるか見ものだぜ。


「入るぞ真樹緒。」
「うい。」


真樹緒の肩から手を離し一歩進む。
楽しげに顔を扇で隠した許婚は可愛らしく舌を出した。
本当にお前は物怖じがねぇな。
惚れ惚れするぜ。


「転ぶなよ。」
「手ぇもっといてぇや政宗様。」


この内掛が手ごわいねん。
踏んでしまいそう。
いっそ抱き上げてやろうかと頬に口付けを。
飛び上がる勢いで驚いた真樹緒に満足して扉を開いた。



ああ、勿論ちっせぇその手は繋いだままな。


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