真樹緒が小十郎から離れない。 何度名を呼んでも「やーや」と可愛く首を振る。 そのくせ本人は小十郎の膝の上でごろごろとその手になつき喉を鳴らしていた。
「真樹緒、」 「政宗様は俺をねこさん扱いするからやーやしー。」
だからそんな耳やら尾やらをぴくぴく動かしてりゃぁ、説得力がねぇんだよ。
ず、と小十郎が持ってきた茶をすすり頬杖を立てながら再び真樹緒を見た。 相変わらず蕩けた様に目を瞑った真樹緒が小十郎に撫でられているところで。
…… ………
面白くねぇ。 嗚呼、全くもって面白くねぇ。
「ここか。」 「んー!こじゅさーん、もっとー。」
もっとー。 ぐしぐしやってー。 足をバタバタさせている真樹緒の言うまま甘やかす小十郎のだらしねぇ顔といったらテメェ、ひくりと思わず頬が引きつる程だ。
「Ha…、」
小十郎、お前俺の目の前でやってくれるじゃねぇか。 流石は俺の右目だと褒めてやりてぇところだが俺とて独眼龍の自負がある。
ふ、と口元に笑みを漏らし懐に手を入れた。 こんな事もあろうかと用意していたものがある。
さぁ、真樹緒。 これを見ても小十郎に懐いてられるか見ものだぜ。
「真樹緒、」 「ぬーん?」
尾を煩わしそうに揺らしながらこちらを向いた真樹緒にそうしているのも今のうちだとニヤリと笑った。
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