何やら朝から真樹緒の機嫌が良い。 鼻歌交じりで部屋に来たと思えばへらりと笑って畳に寝そべり、特に俺に何を言う訳でも無くごろごろ畳の上を転がっている。 「真樹緒、」と声をかければ「なーんー」と間の抜けた声が返ってきた。
「俺に何か用があるんじゃねぇのか?」 「政宗様の仕事が終わってからでええねーん。」
そう言ってまたごろごろと畳の上を転がる真樹緒の手の中には小さな紙切れが一つ。 それを眺めては「へへへー」なんぞ上機嫌に笑いながら俺の方を見て。 一体何なんだ、と眉を上げ肩を竦めても相変わらず笑ってばかりの真樹緒を横目に俺は政務をこなしていた。
「黒ヤギさんからお手紙ついたぁー」
挙句の果てにはその紙切れを見て歌いだす始末だ。
声をかけても返事が返ってこないので好きにさせている。 歌いながらごろごろごろごろと端の襖にぶつかってはまた真樹緒は戻ってくる。 面白れぇから筆を止め、じっと観察してみた。
「白ヤギさんたら読まずに食べたぁー」
ごろごろ。 ごろごろ。
…… ……… 食うのか。
「しーかたぁがーなーいので、お手紙かーいたー」
ごろごろ。 ごろごろ。
ほう。 殊勝じゃねぇか。 それぐらいはmannerだな。 書簡は食うもんじゃねぇ。
「さっきの手紙のーご用事なぁにー、」
ごつん。
…何の解決にもなってなかねぇか。
襖にぶつかった真樹緒をじっと見れば俺の目線に気づかずに例の紙切れを見てへらへらと笑っている。 相変わらずてめぇはcuteだな。 一体何がその紙に書かれてあるのかと首を捻ればまた真樹緒が歌い出す。
「白ヤギさんからお手紙ついたー」
ごろごろ。 ごろごろ。
…… さっきと同じphraseじゃねぇか。 先が読めるぜ。
「黒ヤギさんたら読まずに食べたー」
ごろごろ。 ごろごろ。
…… ……… 先が読めたぜ。 でもまぁ最後まで聞いてやるかと頬杖をついて真樹緒を眺める。
「さっきの手紙のご用事なぁにー、」
ごろごろ。 ごろご、
「真樹緒。」 「…ご用事なぁにぃー…」 「…気は済んだか。」 「うぃ、」
いい加減山羊より俺を見て欲しいもんだ。 よっこらせと立ち上がって真樹緒を見下ろす。 紙切れで口元を隠し俺を見ている真樹緒は何故か楽しげで。
「Ah?どうした。」 「あんなー、あんなー、政宗様。」 「cuteだな真樹緒、おねだりか?」 「んー、そうかも。」
そのまま腰を折り「お仕事終わったん?」と寝そべりながら首をかしげる真樹緒の上に覆いかぶさった。 きょろりと目を丸くした真樹緒に喉で笑い、額を合わせる。
人をそんなに可愛く見上げると危険だぜ? 言えば「何の事かわからへん」と笑う。 これは適わない。 手が出せねぇじゃねぇか。
「えっとなー、」 「勿体ぶるな真樹緒。」
お前のおねだりぐらい何でも聞いてやる。 さっさと言えと頬をぐりぐりと撫でて。 いっそこのまま口付けてやろうかと首を傾ければ「あんな政宗様!」と、目を輝かせた真樹緒に出鼻をくじかれてしまった。
shit. 眩しいぜ。
「俺な、」 「Ah?」 「ホットケーキ食べたいん!!」 「hot cake?」 「うっわあめっさええ発音やねぇ。」
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