「で?今日は何の用なのアンタ。」 「無礼な忍め。貴様に用など無いわ。」
用があるのは花のみよ、と言って元就様は抱き上げていた稲荷を床に下ろしました。 忍の目線が痛いですが、元就様がそんな事気にする訳がありません。 いつでも自由な方ですから。
「きゅ?かみさま?」 「花よ、今朝方我に書簡が来てな。」 「しょかん?」
首を傾げた稲荷に説明するのはよろしいですが、果たして意味を理解している事やら。 ふんふんと首を振ってますけど多分よくわかってませんよねこの小さい稲荷は。 はぁ、とため息をつけば赤い方と目が合いました。
「元就殿は何をしていらっしゃるのであろうか。」
「さぁ…私には計り知れません。」
ええ、まったくもって計り知れません。 何を企んでるんでしょう、本当に…! きっと碌な事じゃないんですよ…!
「あんたも苦労してんだねぇー。」 「…分かります?」 「お察しいたす。」
赤い方と橙の方に肩を叩かれました。 若干やるせなさを感じましたが、私は元就様の忠実なる駒。 こんなところでめげてはいられません。 駒は駒らしく駒であり続けなければ。
「駒よ、」 「……何ですか…」 「見よ。」 「…、」
確か前にもありましたよね、同じような事が。 ええ、そうです。 繭玉の時ですよ。 あの時もこんな風に楽しげに近寄ってきたあなたに嫌な予感がしたんです。
「貴様らもよく見ておくがいい。」
「ちょ、また花ちゃんに何かする気?」
「花を危険に晒しましたら許しませんぞ元就殿!!」
元就様に詰め寄ったこのお二方の対応も変わりませんよそりゃぁ。 胡散臭すぎます元就様。 じっと元就様を見ればふんと笑われる。
何です。 今度は何なんです。
「花よ、」 「はい!」
稲荷がびしっと右手を上げて起立しました。
「右手。」 「みぎて。」
ぽすん。
「左手。」 「ひだりて。」
ぽすん。
「尻尾。」 「しっぽ」
ぽふん。
…… ……… ……元就様、……稲荷は犬や猫ではありません……!!!
「ちょ、あんたうちの花ちゃんに何やらすの!!」
「可愛いでござらぁぁぁ花ぁぁぁぁ!!」
「だから違う旦那!!」
所謂、お手ですよね。 おかわりですよね。 尻尾って何なんですか。 そしてその一連の動作のまったり加減をどうにかして頂けませんか…!
「ふっ、我の策が之だけで終わると思うてか。」 「……もう十分です…」 「花よ用意はよいか、」 「きゅ!」
聞いてないんですね。
「っもうこれ以上花ちゃんで遊ばないでよね…!」
「可愛いでござるぅぅぅぅ!!」
「ああもうちょっと黙れ旦那!!」
同感です。 お手とおかわりでもう十分です。 芸達者になりましたよ。 それ稲荷なんですけど本当に分かってますか…! 五穀豊穣の神なんですよ!
「よし花。」 「きゅう。」
元就様が右手を出して。 稲荷が気合を入れて。 やはり嫌な予感は無くならず。
…… ………
「顎。」 「あご。」
ぽすん。
「ちょ花ちゃぁぁぁぁぁん!?」
「某にもやらせて下され元就殿ぉぉぉぉ!!!」
「旦那は黙っとけぇぇぇぇ!!!」
…… ………
私は一気に脱力いたしました。
顎って。 顎って… もう、本当何なんですか…!!
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「Q」で頂いたコメント第二段。 稲荷に新たな芸をお願いしますオクラ様。と頂いたので(笑) 新たな芸は顎ですあご。 右手を差し出して「顎」と稲荷に言うとその手のひらに顎をのせてきてくれます。
大した芸でなくてすみませぬ! 「Q」にて稲荷にコメント下さった方に感謝をこめて!!
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