おさむらいの名前はな。 さなだゆきむらっていうらしい。
おれの言うことをきかねぇで、おれの後ろをついてばかりいる。 じっとねてろって言ってるのに聞きやしない。 でもな気をぬいてられねぇんだ。 ゆきむらはすきを見せたらおれの耳やしっぽをさわりにくる。
「ふ…ぁ…」
ああ、いけねぇ。 まだ朝のおつとめが終わってないのに。 ゆきむらが背中からだきついてくるせいで何だかねむい。
「んー…ん、」
ゆきむらはちょっと変だとおもう。 おれがいなりだと知ってもたいどがかわらなかった。
いや。 耳としっぽはしょっちゅういじられるんだけどな。 うたがわなかったし、きみわるがりもしなかった。
「ぅきゅー…」
こらゆきむら。 やめねぇか。 耳と耳のあいだはすごくねむくなるんだ。 しっぽの根もとはきゅうってなるんだ。 おみきと、お水と、しおとおこめをおそなえしねぇといけねぇのに。 おまえのきずだって様子をみて。 ぬのをかえねぇと。
「花、」 「んぅー…」 「花。」 「……すぅ…」
「……寝たか。」
すうすうと小さく寝息を立てるきつねの子の頬をそっと撫で。 幸村は起き上がった。
「……………礼を言う。」
お前の嫌いな戦をする人間を。 自分勝手で己の事しか考えない人間を。 社を血の不浄で汚した俺を。 生かし、救ってくれた。
「…かたじけのうござる…」
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