04




花に連れられ上ったそこからは、自分の主が治める領地が見渡せた。


広がる森と、そばを流れる川。
向こうには山間の村が見える。
もう少し行けば城下があって、聳え立っているのはお館様がおられる躑躅ヶ崎館だ。


館をこんな風に眺める日が来るとは思っても見なかったでござる。


己の主が築きあげてきた物の大きさと、それを繁栄させてきた民の有り難さに頭が上がらない。
感慨深い、と言うには自分は未だ若すぎる。


これからだ。
何もかも。


肩に担いだ花をのせたまま木の枝に胡座し、風の音だけが聞こえる森を暫く眺めていた。
ふ、と目を流せば自分の忍も目を細めている。
ああお前もか、と。
じわりと熱いものがせり上がり、思わず笑みが漏れた。


「あ。」
「花?」
「見つけた!」
「え?なぁに花ちゃん」
「ほら、あれだ。」


ひたると言うほどの時間は経たず、花の尾が腕を叩いて我に返る。
下にいた時に聞こえたんだ音がと、言う花の指差す方に目をやった。


人が歩けるほどの幅もなく、背の高い草が茂っているそこがごそごそと動いていた。


「獣であろうか。」
「そんなにおいしねぇぞ?」
「んー、ちょっと待ってねぇ、」


佐助が隣の笹に飛び移った。
枝が僅か揺れる。
ひくりと鼻を鳴らした花が身を乗り出し、同じように勢いよく揺れるそこを目を凝らして見てみると、何か毛のようなものが見える。


あれは人か。


「花、人間だ。」


顔が見えないところを見ると恐らく子供で。
こんなところまで入ってくるのはきっと近くの村人だろう。


「にんげん?」
「村の子供ではないか?」


立ち上がり。
更に肩から乗り出した花の体を支え、そういや空が飛べるのかと思い出したがそのまま体を抱えた。


「見えるか。」
「ちょっとまてよ。」
「旦那、危険は無い。」


子供だよ、と戻り報告した佐助に頷き力を抜いた。
額に手をかざして花が目を細める。
もさもさした耳が顔の横で動き、くすぐったかった。


うーんうーんと花が唸っている内に草むらの動きが止まったかと思えば、小さな頭がひょこりと顔を出した。



「けいじ!!」
「けいじ?」
「あれはけいじだ!!」


****


「やっぱりてめぇが噛んでいやがったか。」
「ふん…」


読めないその顔は相変わらずだな毛利。
胡散臭くて笑えてくるぜ。


花と人間が上って言った竹を見上げた。


何者にも干渉させずに今まで生きてきた俺が、この男の思い通りになった事への不快感は意外にも無い。
遠くから聞こえて来る、「雨だ雨だ」と騒がしい人間共の声も気にならない。
自分も随分寛大になったもんだ。


むず痒い感情を素直に受け入れるには慣れておらず。
ふ、と少し躊躇ったような笑みを漏らすと政宗は髪をかきあげた。


「降らせたか。」
「…何とでも言え。」
「……」
「………」
「よし、よし可愛い龍よ。」
「頭撫でんなこの野郎。」


手が届いてねぇんだよ。


「……」


楽しげな二人とは裏腹に、駒はどこか遠い目をしながら稲荷達がいるはずの方向を見てため息をついた。


面倒臭い。
そして自分は面倒臭い事が嫌いだ。


図らずも相手をけしかける事に長けた元就様は、いつも周囲の者を巻き込んで自分の立場を忘れがちだ。
尻拭いが回ってくるのは自分で、どれほど考えて行動して下さいと言っても聞きやしない。


言うだけ無駄だと先輩方に諭されたのは一体いつだったか。
二度目のため息をついて目線を竹から足元に戻した時。
遠くの方でがさがさと草が動く音が聞こえた。


「……足音…」


小さな足音だ。
足早に自分達がいる社に近づいてくる。
徐々に音が大きくなり、危害を加える物ではないだろうがとりあえずと元就様の方を向いた。


未だ龍と妙な牽制中だった元就様に声をかけようと息を吸えば。



飛びおりるなんて聞いてねぇぞゆきむらーーっ!!!



悲壮なまでの叫び声が耳を打ち。


「え?」


ガサガサガサと竹がゆれ目の前に。
赤い鎧が視界を覆ったかと思えば。
稲荷を抱えた侍が辺りに笹を撒き散らしながら着地した。


「この方が早いでござるよ。」
「花ちゃん大丈夫ー?」


何してるんですかあなたがた。
そしてこの空気どうしてくれます。
稲荷震えてるんですが。


神様―!!とーふ持って来たぜーーー!!!

誰ぞ。



そして増えた。
ちょっと本当にもう、いい加減にしてくれませんか。

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