森の中を武装した姿で力なく歩く男がいた。
右手に持つ槍はその途中で折れてしまっている。 けれど左手に持つ槍は尚も力強く。 その姿の威厳は何という存在感か。 動けるはずのない体でそれでも森を進む男は、三日前の戦で功績を挙げた軍の大将だ。
名を、真田幸村と言った。
不甲斐無い。 何と己は不甲斐無いのだろう。 ずるずると森を進む幸村はめったにこぼす事の無い皮肉げな笑みを漏らした。
此度の戦は武田が勝利、それに驕ったつもりは毛頭無いがこの体たらく。 お館様にどの顔を下げてはなむけできよう。
「は…」
自業自得とはこの事だ。 自分の忍が深追いするなと苦言したにもかかわらず。 囲まれ、図られ、挙句の果てには槍を折られるなど。 戦場において相手を侮るなど。
「不覚…」
見事ばっさり斬ってくれたものだ。 血の臭いに酔いながら死に場所を探した。 俺とて一城を任されている身。 無様な死は本望では無い。
それこそ畜生どもに骸を食い散らかされるなど御免こうむる。 この血、力の抜けた体、もう先は長くない。 自分の止めは自分で。 せめて最後は潔く。
「は…っ…」
ただ腹を切るためだけに歩き回りたどり着いたのは小さな社。 そこは限りなく神聖だった。 思わず立ちすくみ。 張っていた気が一気に途切れ。
「…っ…」
後はもう。 体の自由はきかず。 血の気は下がったまま。 その場に崩れ落ちた。
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