雨がな! 降ったんだぜ!!
村のおっちゃんやまつねぇちゃんが村でお祈りしても全然降らなかったのに。 森のずっと奥にある小さな神社にな。 「雨降らせて下さい!!」って手ぇ合わせに行き続けて四日目。 昼ぐらいから空が真っ黒になってよ。 遠くの方で雷も聞こえて。 そりゃぁもう桶をひっくり返したような勢いで雨が降り出したんだ!!
「雨だ!!」
誰かが叫んで(多分長老のじっちゃんだ)
「大雨だ!!」 「これで米が育つぞ!!」
そうすると村の皆が家から飛び出し。 ずぶぬれになりながら手を取り合って喜んでいた。
「本物の雨だ…」
こんなに沢山の雨を見たのはいつぶりだろう。 さっきまで熱気で火照っていた体が冷やされる。 本当に降ったんだ雨が。
「すっげー…」
なぁ、夢吉。 肩で雨に向かって手を伸ばしている夢吉の頭を撫で、じわりと足元が泥んでいくのも構わず、まるで呆けたようにずっと空を見上げていた。
大雨なんてもんじゃないんだよ。 まるで洪水のように。 田んぼを、畑を、水がめをみるみる満たしていくその雨に俺は。
「〜〜〜〜っ!!!!」
どうしてだか思い切り叫びたくて。 走り回りたくて。 顔がにやけて。
体がむずむず。 むずむず。
「俺ちょっと森に行ってくる!!!」 「まぁ、これ慶次!!」 「慶次どうした!?」
まつねぇちゃんや利が叫ぶ横を通り抜けて森へ走った。
だってな。 この雨を降らせてくれたのは絶対あの神社の神様なんだ。 きっと俺のお参りを聞いてくれてたんだ。 やっぱり言い伝えは本当だった。 「森の奥のお社には稲荷がいる」って向かいのばぁちゃんから聞いた言い伝えは!
あの神社には稲荷の神様がいる。 絶対いる。 間違いねぇ。 だから雨を降らせてくれたお礼を言わねぇと!!
「あっ!何か持ってったほうがいいのか?」
お礼。 思わず立ち止まって足踏みする。 つってもまだ米も芋も収穫前だから何にもねぇんだけど。 でも手ぶらじゃあなぁ。
「んー…」
何が好きなんだろうな。 稲荷の神様は。 おきつね様だからやっぱ油あげかなぁ。 きつねの好物だって話だもんな。
んで、油あげってとーふから出来てんだろ? まつねぇちゃんが言ってたぞ。 とーふなら家にあったはずだ。
「うっし。」
足踏みしていた足をくるりと方向転換。 今走ってきた道を戻る。
「まつねーちゃーん!!とーふ貰ってくなー!!!」 「慶次!?」
ごめんなまつねぇちゃん、俺急いでんだ。 びしょぬれのまつねぇちゃんの横を通り過ぎて家に入る。 とーふは土間だ土間。 昨日まつねぇちゃんが作って、利が桶に入れてた。
「んーと、ここらへんに…」 「これ、慶次。」
ごそごそ探すと無事にとーふ発見だ。 ぷるぷるしてるとーふはうまそうで。 これならお稲荷様だって喜んでくれる!
「けい…」 「んじゃ行ってきまーす!!!」 「慶次!?」
俺は水ととーふの入った桶を抱えて家を飛び出した。
「慶次!これ少し落ち着きなさい!!!」
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