09




「おお、怖い怖い。」
「何、喧嘩売ってる?」


そんな視線を物ともせずに政宗は空を見上げた。
眩しいほどに輝く太陽に目を細めて額に手を翳す。
そうしてニヤリと。
どこか高揚した自分を持て余すように掌に力を込めた。


「花。」
「きゅぅ?」
「雨を降らせに行くぞ。」
「ほんとか!?」


ここまで自分を欲せられたのはいつぶりだろう。
乞われたのはいつぶりだろう。
もう、思い出せはしないが。


「俺様に二言はねぇよ。」


じわりと指先が熱くなり、この小さな稲荷の願いを叶えてやりたいと政宗は思った。
健気なぐらい祈りを捧げた稲荷を愛しいと思った。
雨が降ったとき一体どんな顔を見せてくれるのか。
それだけのために、空を翔けてみるのも悪くないと思った。


「乗れ花。」
「りゅうじんさま!?」


掌に龍の宝珠が現れ眩く光り始める。
光が放たれたと思えば一瞬に辺りは一面の白。
眩んだ目は何も見えず音が消えた。
きん、と耳鳴りのような音だけが後に残り、山も森も泉も見えない。
幸村は慌てて花を呼んだ。


「花!?」
「だいじょうぶだゆきむら!!」
「花ちゃんどこー!?っくそ見えない!!」
「りゅうじんさまといっしょだ!!」
「ええ!?」



やがて視界が開け、音が戻り、花の声を追った佐助と幸村は空を仰ぐ。
真っ白だった空には暗雲が轟いていた。
影を落とす雲は黒く空を包んでいく。
そうして暴風が吹き、飛ばされぬようにと足を一歩前に出したその時。


「借りるぜ、稲荷。」
「……っ政宗殿…!?」


目の前には鱗に覆われた龍の面。
大きさは身の丈以上かと思われる巨大なそれは鬣を揺らし、青く体を光らせて空を漂う。
太い爪を持った掌には宝珠が光り。
遠くの方で雷鳴が聞こえる。
晴れ渡っていた夏の空は嘘のように姿を消して。


「あれが政宗様の本当の姿だ。人間には勿体ねぇ姿だろう。」
「何と見事な龍の姿よ…」
「…あんなのただの蛇じゃん。」
「あァ?」
「さすけ!りゅうじんさまはかっこういいんだぞ!!」
「……チッ…」
「さ、佐助!?」
なぁーに、旦那。



金色に靡く龍の鬣の上には小さな稲荷が楽しげに笑っていた。



稲荷と龍神様



「おーら、花。大雨だ。」
「すっげぇ!すっげぇなりゅうじんさま!!」
「願いは叶えてやったぜ?」
「すげぇうれしい!」


「…嬉しいのか。」


「おう!!!本当にありがとうな、りゅうじんさま。」
「……そのまま俺に惚れちまえよ。」
「きゅぅ?」



「…あのくそ蛇、花ちゃんを落としたら刺してやる。



「駒よ、雨が降ったわ。」
「…降りましたね。」
「…不服か。」
「いえ、別に。」
「ほう?」
「………何です。」
「…いや?」



……ならそんな生暖かい目で見るのやめて下さいますか。

「…花を迎えに行くぞ。」

「…あなたが行ったら絶対面倒な事になると思うのですが…」

「花が我を呼んでおる。」

空耳です。


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引っ張った割には淡白に終わってすみません(汗)
次はけいじがお礼参りにきます。

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