「おお、怖い怖い。」 「何、喧嘩売ってる?」
そんな視線を物ともせずに政宗は空を見上げた。 眩しいほどに輝く太陽に目を細めて額に手を翳す。 そうしてニヤリと。 どこか高揚した自分を持て余すように掌に力を込めた。
「花。」 「きゅぅ?」 「雨を降らせに行くぞ。」 「ほんとか!?」
ここまで自分を欲せられたのはいつぶりだろう。 乞われたのはいつぶりだろう。 もう、思い出せはしないが。
「俺様に二言はねぇよ。」
じわりと指先が熱くなり、この小さな稲荷の願いを叶えてやりたいと政宗は思った。 健気なぐらい祈りを捧げた稲荷を愛しいと思った。 雨が降ったとき一体どんな顔を見せてくれるのか。 それだけのために、空を翔けてみるのも悪くないと思った。
「乗れ花。」 「りゅうじんさま!?」
掌に龍の宝珠が現れ眩く光り始める。 光が放たれたと思えば一瞬に辺りは一面の白。 眩んだ目は何も見えず音が消えた。 きん、と耳鳴りのような音だけが後に残り、山も森も泉も見えない。 幸村は慌てて花を呼んだ。
「花!?」 「だいじょうぶだゆきむら!!」 「花ちゃんどこー!?っくそ見えない!!」 「りゅうじんさまといっしょだ!!」 「ええ!?」
やがて視界が開け、音が戻り、花の声を追った佐助と幸村は空を仰ぐ。 真っ白だった空には暗雲が轟いていた。 影を落とす雲は黒く空を包んでいく。 そうして暴風が吹き、飛ばされぬようにと足を一歩前に出したその時。
「借りるぜ、稲荷。」 「……っ政宗殿…!?」
目の前には鱗に覆われた龍の面。 大きさは身の丈以上かと思われる巨大なそれは鬣を揺らし、青く体を光らせて空を漂う。 太い爪を持った掌には宝珠が光り。 遠くの方で雷鳴が聞こえる。 晴れ渡っていた夏の空は嘘のように姿を消して。
「あれが政宗様の本当の姿だ。人間には勿体ねぇ姿だろう。」 「何と見事な龍の姿よ…」 「…あんなのただの蛇じゃん。」 「あァ?」 「さすけ!りゅうじんさまはかっこういいんだぞ!!」 「……チッ…」 「さ、佐助!?」 「なぁーに、旦那。」
金色に靡く龍の鬣の上には小さな稲荷が楽しげに笑っていた。
稲荷と龍神様
「おーら、花。大雨だ。」 「すっげぇ!すっげぇなりゅうじんさま!!」 「願いは叶えてやったぜ?」 「すげぇうれしい!」
「…嬉しいのか。」
「おう!!!本当にありがとうな、りゅうじんさま。」 「……そのまま俺に惚れちまえよ。」 「きゅぅ?」
「…あのくそ蛇、花ちゃんを落としたら刺してやる。」
「駒よ、雨が降ったわ。」 「…降りましたね。」 「…不服か。」 「いえ、別に。」 「ほう?」 「………何です。」 「…いや?」
「……ならそんな生暖かい目で見るのやめて下さいますか。」
「…花を迎えに行くぞ。」
「…あなたが行ったら絶対面倒な事になると思うのですが…」
「花が我を呼んでおる。」
「空耳です。」
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引っ張った割には淡白に終わってすみません(汗) 次はけいじがお礼参りにきます。
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